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BRO SPECIAL プロフェッショナルが選ぶ2012年3大ニュース M&Aのプロが選んだ3大ニュース グローウィン・パートナーズ 株式会社 代表取締役 公認会計士 佐野 哲哉

電機業界の苦境を象徴するM&A

電機業界の苦境を象徴するM&A

概要

2012年はパナソニック、ソニー、シャープ、NECなど、日本を代表する大手電機メーカーが、相次いで大幅な赤字決算を発表し、グローバル競争の波にさらされて苦境に陥っていることが露呈しました。

このような流れの中で、2012年3月にシャープは電子機器の受託製造サービス(EMS)の世界最大手企業である台湾の鴻海グループに対し、9.9%の第三者割当増資を実施することで、669億円の資金調達を行うという発表がありました。(ただし、その後もシャープの業績・株価は低迷を続けており、当初の想定株価との乖離が大きいため、12月末現在も交渉中であり、未だに増資は実行されていません。)

同じく3月にエルピーダメモリが会社更生法の適用を申請し、米国マイクロン・テクノロジー社がスポンサー企業として名乗りを上げました。また、ルネサス エレクトロニクスは12月に産業革新機構をメインスポンサーとし、トヨタ自動車、日産自動車等の取引先を中心に大規模な第三者割当増資を実施することを発表しています。

コメント

日本を代表する産業の一つである電機業界がこれほどの苦境に陥ったのは、個人的にはいわゆる6重苦(円高・高税率・TPP対応の遅れ・労働規制・環境規制・電力不足)や人口減少だけが原因ではなく、高度成長時代の成功モデルであった“株式会社日本”というビジネスモデル自体が崩壊したからではないかと考えています。

かつては、高い技術力で世界を席巻していた日本製品が、その技術優位性を失い、安い労働力を武器に攻め込むアジアを中心とした新興国の企業にその牙城を崩され始めているのです。

現代はインターネットで瞬時に情報が共有される世の中であり、技術優位性を保てる期間は極めて短くなっています。こうなると、製品の機能はすぐに標準的なものとなってしまい、高価格を保つことも難しくなるため、製品の独創性・開発スピード・マーケティング力が勝負となります。しかし、過去の成功体験を忘れられない日本企業は、そのどれもが欠けてしまったように感じます。

私は以前、日本有数の電機メーカーの製品開発プロジェクト会議に出席したことがありますが、10名以上も会議に出席してきて、その大半が会議で一言も発しないのに驚きました。プロジェクト全体の進行においても、責任や役割分担も曖昧で、ネガティブな意見をする人が多く、一つの事を決めるのにとにかく時間がかかりました。個人がリスクを恐れ、最後は会社が何とかしてくれるだろう、といういわゆる大企業病の雰囲気が蔓延しているように感じました。

これでは、アップルのような独創性、サムスンのようなスピード経営と戦うことは難しく、結果として、日本を代表する大手電機メーカーの競争力が落ちたのだと思います。

鉄鋼業界の新日鉄と住友金属の統合に見られるように、大手電機メーカーも日本企業同士の争いをやめ、経営を統合して筋肉質に生まれ変わり、再び世界で輝きを取り戻すことを願うばかりです。

ソフトバンクによる攻めのM&A

ソフトバンクによる攻めのM&A

概要

ソフトバンクは2012年10月に米国携帯電話3位のスプリント・ネクステルの発行済株式の約70%を取得することを発表しました。買収総額は201億ドル(約1兆6000億円)にもなります。

また、この直前に同社は株式交換でイー・アクセスを完全子会社化することを発表しています。株式交換にあたっての基準株価は発表前日の株価の3.5倍、買収総額は1800億円となる予定です。

これらのM&Aにより、ソフトバンクは単純合計で連結売上高が6兆円以上となり、一気に世界第三位の通信グループになります。

コメント

ソフトバンクは過去にも日本テレコムやボーダフォン、ウィルコムなどの大型買収を行っています。ボーダフォンを買収したときにも1兆3000億円の資金を社債で調達し、当時も財務状態の悪化が心配されましたが、実際はその後の積極的な事業展開で高収益を上げ、2011年に当初の返済予定を7年前倒して社債を繰り上げ償還し、低利の融資に借り換えしています。

今回の買収資金も、みずほコーポレート銀行を中心としたメガバンク3行とドイツ銀行から総額1兆6500億円をブリッジローンで調達すると発表しています。

ソフトバンクは過去からM&Aで大きく成長してきた企業ですが、様々な方法で買収資金を調達しており、財務戦略的にも成功を収めてきました。

典型的なのは、今回のような買収先の将来キャッシュフローを担保に買収資金を調達するレバレッジ・バイ・アウト(LBO)の手法ですが、それ以外にも過去には通信料債権の流動化や子会社ヤフーの上場・同社の株式売却など、金融市場を最大限に利用してきた会社の一つです。

今回の買収により、ソフトバンクグループは連結ベースで約4兆円の負債をかかえることになりますが、その事業の成長と資金調達・弁済手法等については今後も注目していきたいと思います。

ソーシャルゲーム系企業のIPO・M&A

ソーシャルゲーム系企業のIPO・M&A

概要

2012年5月、ソーシャルネットワークサービス世界最大手のFacebookが米国ナスダック市場に上場しました。上場初値を当時の為替相場で換算した時価総額は9.1兆円でした。
参考までに、2012年12月末の日本企業の時価総額ランキングを記載すると、

1位 トヨタ 13.8兆円
2位 三菱UFJ 6.5兆円
3位 ホンダ 5.7兆円
4位 NTTドコモ 5.4兆円
5位 日本たばこ 4.9兆円

ですから、いかに高い評価だったかよくお分かりいただけると思います。その後、株価は一時半値以下となりましたが、現在は初値の6割程度まで持ち直しています。

日本においても、いわゆるソーシャルゲーム系の企業は株価が高く、グリーの時価総額は3000億円超、DeNAが4000億円超と、コンプガチャ問題で一時株価が下落したものの、依然として他の業界に比べると評価は高いと言えます。(いずれも年末の株価ベース)

2012年に上場したソーシャルゲーム会社は、6月に上場したモブキャストのIPO時の時価総額が145億円、12月に上場したコロプラのIPO時の時価総額は445億円など、他の業種のIPOに比べても高い株価をつけており、この流れを受け継いだものと言えます。

一方で、IPO前に株式を売却するベンチャー企業も増えており、2012年10月にネクソンは、モバイル・ソーシャルゲームの開発会社のgloopsを365億円で買収、同じく10月にはグリーがポケラボを138億円で買収しました。

コメント

ソーシャルゲーム系ベンチャー企業のIPOやM&Aのニュースを見ると1990年代後半からのITベンチャー企業の栄枯盛衰を思い出します。

90年代後半から2000年代前半に上場した、いわゆる第一世代のIT企業(ヤフー、楽天、サイバーエージェント、GMOなど)、2005年前後に上場したモバイルコンテンツ企業(インデックス、サイバード、ドワンゴなど)、その直後の当時Web2.0と呼ばれていた黎明期のSNS系企業(ミクシィ、ドリコムなど)など、時流に乗った企業はIPO時に株式市場から高い評価を受け、多額の資金調達に成功しました。

しかしながら、流れの速い業界であるがゆえ、すべての企業が成功し続けているわけではなく、IPO後にビジネスモデルを大幅に転換したり、他社に買収されたり、MBOにより非公開化した会社などもあります。

全体としてはまだ勢いのあるソーシャルゲーム業界においても、Facebookと関連の深い米国Zyngaは業績不振によるリストラを実施しており、その一環として2013年1月で日本法人を閉鎖することを発表し、すでに淘汰が始まっています。

ソーシャルゲーム業界において、2012年にIPOした会社がその後も大きく成長して成功を収めるのか、M&Aで事業を売却した会社が正解だったのかは、遠くない将来に明らかになるでしょう。

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グローウィン・パートナーズ 株式会社
代表取締役 公認会計士
佐野 哲哉

2000年、ベンチャー企業(現東証上場)の設立に参画し、成長企業の資本政策・資金調達・IPO実務に精通する。その後グローウィン・パートナーズを創設し上場企業の財務会計コンサルティング、経理アウトソーシングの提案、IPO支援などを主導。

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