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円高がもたらした日本企業のグローバル化

円高がもたらした日本企業のグローバル化

概要

グローバル展開を進める日本企業による海外の現地大手企業の買収が活発に行われました。主なものだけでも、電通による英国の広告代理店イージス買収、ソフトバンクによるスプリント・ネクステル買収、三井住友銀行や住友商事による英大手銀RBSから航空機リース事業買収、丸紅による米穀物メジャーのガビロン買収、ダイキン工業による米国住宅向けエアコン大手グッドマン・グローバル買収、伊藤忠による米食品大手ドール・フード(加工品事業)買収、イオンによる仏カルフールのマレーシア事業買収などがあり、さまざまな業種かつ大規模な案件が多く、日本企業の世界におけるM&A市場での存在感が増しています。
このように円高を利用した日本企業によるクロスボーダーの対外M&Aはバブル期をも上回り過去最高記録を更新しました。これらの動きをうけて、外資系投資銀行は、クロスボーダー案件の増加を見込んでM&A部門の拡充を進めています。

コメント

日本の対外直接投資は、リーマンショック直前をピークに流出超の規模が減少していましたが、2011年以降はまた増加傾向に転じました。背景としては、円高による生産拠点の海外流出のほか、円高メリットを意識した海外企業に対する日本企業のM&Aが大きく影響したようです。
円高は、輸出産業にとってはマイナスと言われ、業績悪化要因として真っ先に挙げられます。また、円高は物価が安くなる効果もあると言われ、デフレ不況下の日本でこのまま円高が長引けば、デフレが更に進み、長期化する恐れも指摘されています。
しかし、日本企業による海外拠点の増強、世界中からの資源やモノの購入、世界の企業・技術・ブランドを買収するなどをより安く有利に展開できる円高メリットは大きいといえます。
多くの日本企業は、現預金が潤沢であるだけでなく、低コストで資金調達が実現でき、さらに円高傾向が重なり、日本企業は世界中で企業買収を行う絶好の立場に位置しています。
また、日本企業は国内マーケットだけでは成長が見込めない国内事情があるため、グローバル競争への対応が急務です。そのような中で、世界展開を優位に進めるために円高メリットを十分に生かして事業拡大を加速するために海外企業のM&Aを進め、競争力を保持、強化していくべきです。
なお、会計の観点から、M&Aが更に加速するためにはIFRSの導入が不可欠といえます。買収時に発生するのれん代は現行の日本基準だと毎期償却する必要があるため、巨額買収になるM&Aは財務会計上の負担が大きい場合が多いといえます。しかし、IFRSによると毎期の償却は必要なく、減損が必要になるまで資産のまま計上することが可能であり、M&A後の費用負担が日本基準より少なくて済むことになり、業績に与える影響をあまり気にせず、従来の日本基準よりもM&Aの実行を前向きに判断できるメリットがあります。
特に、ネット、IT、バイオなどの業種は売上や資産が少なくても時価総額が非常に高い場合が多く、営業権部分が巨額になる可能性があるため、IFRS移行で買収時の損益インパクトを軽減する効果が大きいといえます。

待ったなし!日本企業の東南アジアへの進出

待ったなし!日本企業の東南アジアへの進出

概要

東南アジアは豊富な労働力や低賃金で、2000年から10年間以上にわたり、海外企業誘致を進め、高い成長率を達成してきました。また、日本政府による尖閣諸島の国有化を巡って中国で大規模デモが起き、日系企業が略奪や放火に遭い、「脱中国」を検討する日本企業もあり、東南アジア進出が加速する可能性も指摘されています。
しかし、東南アジア各国で、最近は賃上げ圧力が高まっていて、上昇ペースが速すぎるとインフレ促進や競争力低下を招きかねません。
現在は、東南アジア各国はいずれもインフレが十分に抑制されており、世界経済が低迷する中、金融緩和による景気てこ入れが可能となっています。しかし全体的な賃金上昇で今後の政策は難しい決定を強いられる可能性もあります。
このような環境下でも日本企業による東南アジア進出の勢いは加速しています。

コメント

東南アジアへの進出は既に生産拠点としての期待だけではなくなっているため、有望市場として日本企業の進出が今後も加速すると思われます。
一般に、賃金上昇は生産コストの増加に繋がるため、製造拠点としての観点からみると輸出競争力が低下するリスクがある一方で、国民の購買力がアップするため内需拡大を後押しする可能性があります。
既に、中国のほか、シンガポール、マレーシアなどは賃金レベルが高くなり、比較的低賃金なインドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、ミャンマーなどに生産拠点がシフトしていく可能性があります。しかし、安価な人件費もやがては上昇するため、低賃金の魅力だけではいずれ中国との賃金格差も縮小する可能性があるため、それ以外の進出メリットが必要になります。
これらの国々は人口の規模や増加率も大きいため、単なる生産への貢献だけではなく、多くの需要を生み出す重要なマーケットといえます。そして、多くの雇用が生まれ格差が縮まれば、貧困も解消し、東南アジア全体の社会不安が収まっていき、エリアとして魅力的なマーケットになる可能性があります。
今後、東南アジア各国は賃金上昇により生活水準が上昇し、それに伴い、購買力が上がっていくことを期待できる一方で、東南アジアがいくら発展しても中国の内需は東南アジア全体と比べてもなお圧倒的な人口規模であることから見て今後も重要性は変わらないと思われます。
したがって、中国と東南アジアを含めた巨大地域が面的に一体となり、メーカーの生産拠点としてだけではなく、小売業、サービス業など日本のさまざまな業界の進出も加速していくはずであります。
更には、東南アジア諸国が経済成長するのに合わせ、資本市場も発展していく可能性が高いので、今後は東南アジアに拠点がある国で現地子会社が現地において株式上場して現地で資金調達を図り、当該地域での事業展開を更に拡大していく日本企業も増えるかもしれません。
このように海外展開が進み、現地企業を現地人中心にマネジメントしていくことが当たり前になってきますと、グループ管理体制の強化や連結決算制度の整備などが経営課題にならざるを得ません。

東南アジア人口統計

相次いだ中国上場企業の会計基準緩和

相次いだ中国上場企業の会計基準緩和

概要

中国の上場企業が会計基準を相次いで緩和しています。固定資産の減価償却費計上の先送りが主な手法で、一時的に利益を押し上げる効果があります。中国景気の減速で業績の悪化が鮮明になっていることに対応したとみられています。ただし、会計基準変更による利益の計上は、長期的には企業体力を弱めかねず、市場は冷ややかに受け止めています。
会計基準の変更が目立つのは、供給過剰を背景に業績悪化が著しい鉄鋼会社などです。固定資産の償却期間を従来よりも2~10年延長すると発表した中国鉄鋼大手もあります。対象となるのは鉄鋼の生産ラインや生産設備、建築物などであり、償却に必要な年数を延ばすと、その分1年当たりの償却費用が減り、利益を押し上げる要因となります。

コメント

中国上場企業の上場廃止基準は、3年連続最終赤字で取引停止、4年連続で上場廃止となります。当期において、既に2年連続の赤字を出している上場会社も多く、会計方針を変更することで、益出しをしたい経営判断が生じやすいと見られ、上場基準との関係が指摘されています。
会計上、利益を多く計上するために、固定資産に関する耐用年数の延長により一時的に毎期の減価償却費を減少させるほか、売掛金の貸倒引当金計上基準を緩和し、引当金額を減少させる方法がありますが、いずれにしても損失が先送りされ、問題の表面化を回避するだけの行為になる場合が多いといえます。
もっとも、変更理由が合理的であれば会計操作による益出しに直ちになるとまでは言えないことに留意すべきです。ただし、会計基準をいくら変更しても業績が好転するわけではなく、キャッシュフロー自体は改善しないという事実を冷静に受け止める必要があります。まさに、2013年は会計処理を変更した中国上場会社とっては正念場と言えるかもしれません。
同じく、日本もバブル期以後の景気後退局面において、定率法から定額法に償却方法を変更した益出しなどの事例が上場大手メーカーに相次ぎました。しかし、実態として好転がないまま、バブル崩壊を迎えると、それ以降は本格的な実際のリストラが始まり、失われた10年に突入した過去があります。
現在、多くの中国企業が、リーマンショック、欧州危機のあとも一定水準の生産を行う傾向が続きますと、日本のバブル経済当時と同様に設備・債務・人員の3つの過剰が生じる可能性が高くなります。ちなみに、資金供給さえ続けばバブル崩壊は直ちには起こらないと言え、中国の金融機関は政府系が中心のため、必要な資金は潤沢に供給される可能性もあります。しかし、中国全体の融資残高は、少々行きすぎの感もあるため予断は許さない状況かもしれません。
一般的に、3つの過剰には、設備の減損、在庫の評価損、不良債権の損失などの将来課題が伴う場合が多いです。在庫を販売し資金化できれば課題の多くは克服できますが、過剰在庫の受け手、実需は景気後退局面では簡単には見つかりません。
かつて、日本が連結重視の会計制度になるまではグループ各社に過剰在庫を引き受けてもらい親会社の決算をよく見せる行為もありましたが、連結決算導入によりグループ間取引は未実現として扱われ不良在庫の状況が露呈することとなり、実際の損失処理が進むきっかけになりました。
しかし、中国の場合、政府系企業同士が双方に連結基準に定める支配関係がなくても政府主導で取引を融通し合う可能性もあります。そうなると、単純に連結会計制度を適用してもグループ取引でなければ、会計上も在庫販売が実現したと扱われる可能性もあります。冗談に聞こえるかもしれないが、中国の場合は、政府を親会社とみなした支配力基準による巨大な連結決算書を作成してみないと本当の実態は分からないかもしれません。

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新日本有限責任監査法人
シニアパートナー 公認会計士
三浦 太

上場会社監査をはじめ、IPO、M&A、事業再生・再編などの支援業務を展開するほか、事業計画・資本政策・内部統制などの助言業務を実施。大手金融機関、大学などでの講演実績多数。

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