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オープンソースモデルのメリット コスト編 ―IT投資施策決定における重要な4要素からOSSを評価する 前編

株式会社イージフ 
取締役副社長 CTO
石井 昭紀

コンサルティングサービス × 商用オープンソースという、他分野の人には非常に不透明で、同業者には独創性を感じてもらえない、その割には国内では結果としてニッチというかマイナーな領域でお仕事をさせて頂いています。

今回はIT投資施策を評価する立場から「オープンソース」ということをどう評価すべきか、という点についてご紹介したいと思います。

RFP調達においてOSSはどのように取り扱うべきか

ここ10年ぐらいにかけて、RFP(提案依頼)を活用した「行儀の良いIT調達のお作法」は広くビジネスの世界に浸透しました。一方で、オープンソースモデルによって開発されたソフトウェアも社会の各所に行き渡り、それ抜きではビジネスだけでなく社会そのものも成り立たないような状況にあります。この2つの流れは、特に直接的な因果関係を持つものではありませんが、時期的には重なりあう形で普及してきました。RFPにはIT部門以外の部署から情報システムの専門家ではない人達がたくさん関わります。

一方で、オープンソースは技術サイド発祥のトレンドですから、これまではむしろこの2つのキーワードには距離があったと言えるでしょう。しかし、この2、3年、オープンソース製品の普及を受けて、RFPの文脈においてオープンソース製品やオープンソースであることそのものを評価する、という状況に出くわすことが増えています。このこと自体、業界に携わる者の端くれとして感慨深いものがあります。ただ、やはり首をかしげたくなるような評価・整理がされていることも、まだまだ多いと言わざるを得ません。

そこで、IT調達の効果を最大化しつつリスクのコントロールに努めるコンサルティングサービスと、商用のオープンソースアプリケーションの両方を主なビジネス領域としている人間として、IT投資施策を評価する立場からオープンソースということをどう評価すべきか、という点についてご紹介したいと思います。(ここでは、商用オープンソースとか、コマーシャルオープンソースと言われる、開発元などが有償の商用サポートを提供している製品を対象とします。SI企業が全体のコストを下げるためにリスクを許容してサポートのないOSS製品(オープンソースソフトウェア )を組み合わせてシステム構築を行うようなケースは議論の対象外になります)

これより

1. IT投資施策を評価するための手法
2. オープンソースモデルのコスト面での特徴
3. オープンソースモデルのコスト以外のメリット

という順番で、多くの企業にとってコストメリット以外にもオープンソースソフトウェアを採用すべき理由がある、ということを述べさせて頂きます。


前編では1. 2.を、後編では3. を取扱いたいと思います。

1. IT投資施策を評価するための手法

IT投資施策を評価する立場にも色々なものがあると思いますが、ここでは単純化して次のような2つの典型的なアプローチを想定しています。1つ目は、「限られたIT予算と人員をどういう目的に配置し、どのような経営課題から優先して解決していくのか」というIT戦略の領域。言い換えれば、『何をするのか』を決定するための検討、というものがあります。もう1つは、そうしてやるべき事を決めた上で、実現手段を比較検討する、IT調達の領域。言い換えれば、『どうやるのか』を決定するための検討、ということになります。本稿での中心的な関心は、RFP局面ということですから当然後者のことを論じていくわけですが、複数の施策や提案を評価するための基本的なフレームワークはどちらの場合でもあまり変わりません。コスト、ベネフィット、リスク、そして柔軟性の4要素を可能な限り精緻に比較評価する、という点に尽きます。

この4要素は、歴史的な経緯で言えば後ろのものほど新しい世代になって評価されるようになった軸になります。IT投資評価の成熟度がそれほど高くない組織においては、現在でもこれら全ての軸に対して評価を行ってはいないと思われます。投資対効果という言葉自体がコストとベネフィットの2要素のみを表現したものですし、廃棄までのライフサイクル全体を見るというTCO評価や、財務的に正味現在価値を算出するなどの形でこの2要素の評価を精緻化する、という比較的よく知られた手法ですら実際には行われずにIT投資の意思決定がなされることは非常に多いと言えるでしょう。

しかし、実際によりよい意志決定を行うためには、リスクや柔軟性についての洞察が不可欠です。ここでいうリスクは、評価した通りのコストで評価した通りのベネフィットが享受できるか、という観点になります。ベネフィットについては、より見積が難しいケースがあります(例えばECサイトを設置した場合にどれだけ売上げが向上するか、既存販路の売上げに影響がでないか、などは、サイトそのものの構築費用よりも見積が難しくなります)。コストが思ったより安く収まる、ベネフィットが上振れする、などの可能性を含めて、検討すべきです。もちろん、新しい技術、新しい取引先、新しい事業、などについては、実現可能性という点について冷静な評価を行う必要がありますが、一方でいわゆる枯れた技術については○年後の維持コスト向上について考慮しなければなりません。この様な意味で、投資施策の評価において、コスト・ベネフィットに加えてリスクを捉えなければならないというのは、IT以外の世界においても共通の問題意識であると言えるでしょう。(具体的に、定量評価に落としていく手法については、今回は省略します)

柔軟性は、IT投資評価の分野で近年強く主張されるようになった評価軸です。IT投資は通常5年前後の償却期間を想定して企画されますが、多くの業界においてその期間の間にもビジネス環境は変化していますし、技術的にもより性能が高く価格が安い選択肢が後から出てくることがよくあります。例えば予想よりも利用者の数が増えてしまい障害が多発するようになったシステム(社外サービス用のシステムで顧客数が順調に伸びた、ですとか、社内システムであってもM&Aなどにより想定の範囲を大きく超えてユーザが増えることがあり得ます)に対して、追加のHWなどを増設すれば良いか(クラウドならさらに簡単です)、現行の機械を捨てて買い換えと移行作業が必要か、ソフトウェアそのものの抜本的なリプレースが必要か、というのは、非常に重要な問題です。しかし、通常の評価では投資時点でのコスト、ベネフィット、リスクの評価には含まれません。

また、ITの投資は「プラットフォーム投資」としての性質を持つことがあります。例えば、通信環境を改善したりスマートフォンを社員に配布したり、ということを事前にしている企業は、さらにその上に乗るアプリケーションの選択の幅が広がったり、一度にインフラ部分までの投資をしなくてよくなるわけです。あるいは、今期は会計システムを次年度以降に販売管理システムを導入する、という計画がある場合、個別に評価すると専用パッケージの方が安いが、今期にERP(経営の効率化を図るための手法・概念、およびこれを実現するITシステムやソフトウェアのこと)を入れておけば次年度のインテグレーションコストで評価がひっくり返る、なんてこともあるかもしれません。(多くの場合は、それでも簡単にはひっくり返るというような結論にはならず、後にBI(必要な情報を素早く手に入れるためのツール)をやりたくなったら、とか、物流を繋げようと思ったら、という計画外までを考慮するかどうかが判断の分岐点になったりしますが、これも本論から外れるので今回は省略します)

以上のことを踏まえ、お行儀の良いIT投資評価のあり方としては、コスト、ベネフィット、リスク、柔軟性の4要素を捉えた評価、というものが推奨されています。この評価が十分でないと、「コストとリスクを低減するためにフルスクラッチ開発を止め、パッケージ製品ベースのシステム作りに舵を切ったが、数年後カスタマイズ部分が原因でパッケージのアップグレードに想定外の時間とコストがかかった」なんていう災難に見舞われるわけです。それでは、オープンソースという特徴は、これらの4要素にどのように反映されるのでしょうか?

<図>4つの要素の前提
 

2. オープンソースモデルのコスト面での特徴

オープンソース製品がジェネリック薬品とのアナロジーで説明されることがあります。私が初めてこの表現を見かけたのは小飼弾さんのBlogです。この記事は、オープンソースプロジェクトの多くがそうであるように誰からも強制されない開発チームが何故高い生産性を発揮できるのか、という問いかけに対しての回答になっています。製品開発というものは、元来うまくいくかどうかわからないものであり、何をどういう方法で作るとうまくいくのか、ということをお金をかけて試行錯誤した結果、たまたまうまくいったものだけが、ビジネスとして成立する。いわゆるオープンソースソフトウェアはそうやってすでにうまく行くことが実証されているものを真似て作られることが多いので、生産性が高い、と。つまり、一番お金がかかる、リスクが高いところを省略しているから、生産性が高いの当たり前であるという主張です。

さらに、場合によってはユーザコミュニティからの貢献という形で、もう1つのコスト要因である品質保証のところもお金をかけずに実現されている、ということにも言及されています。これは本稿の関心事である業務用アプリケーションの世界に限った話ではなく、もっと一般的な意味でオープンソースモデルの特徴を論じた記事ですが、オープンソースモデルの経済的な合理性を端的に表現したものであると思います。(業務用アプリケーションパッケージの分野においては、ここで語られた製品開発の上流部分や品質保証以外に、マーケティング費用が節約できる、というポイントに言及する人が多い印象があります。恐らく、より技術から遠いところで決着がつく類いの激しい競争環境に晒されているせいではないかと思われます)

ここでまず重要なポイントは、開発者がボランティアでコードを書いている分が安上がりになっている、わけではない、ということです。また、この議論はオープンソースソフトウェア一般の開発効率の良さの理由を説明しているので、業務用アプリケーションをオープンソースモデルで開発しつつ商用サポートを提供して利益を上げる、というビジネスモデルの議論にそのままスライドさせるわけにはいかない、という点にも注意が必要です。ここでは単にオープンソースモデルで良いソフトウェアが効率的に開発され得る、ということを言っているに過ぎません。

多くのアプリケーションソフトウェアはミドルウェアやライブラリと呼ばれる部品の上に成り立っています。オープンソースモデルで業務用アプリケーションのパッケージを開発している企業のほとんどがこれらの部品をオープンソースコミュニティから調達しています。有償サポートが得られるものもあれば得られないものもありますが、彼らは上位レイヤに位置づけられる自らの製品もソースを公開するという判断を行いながら、そうしたオープンソースの合理的なソフトウェアを採用して自社製品の開発を効率よく行っているわけです。業務アプリケーションの世界に限って言えば、小飼さんの記事で説明されたオープンソース一般の生産性メリットは、まずはこうした形で間接的に影響を及ぼす形になります。

また、コストの負担の仕方も以前のソフトウェアとは違っています。多くのオープンソース製品が、サブスクリプションモデル(利用期間に対して対価を支払う方式のこと)の課金体系を採用しています。ソフトウェアを使用する権利を許諾する部分にライセンス料という形で課金するのではなく、サポートのサービスに対して年額いくら、という料金が設定されています。いわゆる保守料の部分だけで成り立っているようなイメージになりますが、ライセンス料がない分このサブスクリプションの価格は規模的に同等な従来製品の保守契約料に比べれば高くなるのが一般的です。そのため調達にあたってはイニシャル(コンピューターやシステムを新規に導入・構築する際に必用となる経費の総称)とランニング(コンピューターの機材やシステムを保守、管理するために必要となる費用のこと)の案分について公式非公式の慣例や基準があるとすると、そことのギャップが問題になることがよくあります。

イニシャルが低く年毎の支払いが多いというモデルは、何か大きな前提が変わって作り直したり利用を停止したときに契約・支払いをストップできるというメリットがある一方で、当初計画の通りに償却して新しいシステムへ移行していくようなプランが立てられずそのまま同じシステムを延命して使い続ける場合にコストが高くなるように見えてしまうので、そうした失敗を経験している組織ほど心配になってしまうようです。(実際には従来型のライセンスモデルであっても古い世代の製品を使い続けるための追加コストは発生するはずですが、心理的には過小評価されがちです)

以上をまとめると、オープンソース製品は相対的に効率良く作られているため原価差の分だけ低価格であることが多いが、課金体系が従来製品と異なるため比較が難しくなりがちである、ということになります。

次回は、オープンソースモデルのコスト以外のメリットについて述べさせていただきたいと思います。

 

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石井 昭紀

外資系コンサルティングファーム入社後、、バイオ分野ソフトウェアの研究開発などの分野でオフショア開発のプロジェクトマネジメントと並行して、文書管理専門のコンサルティング業務の分野において活躍する。