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ケース1 MBO:資金調達と経営権の確保  ―実例解説によるM&Aこぼれ話 vol.002

グローウィン・パートナーズ 株式会社
代表取締役 公認会計士
佐野 哲哉

1回目のコラムはM&Aの概論についてご紹介しましたが、2回目以降はM&Aの事例などを用いながら、M&Aのファイナンス・会計・税務などに関する論点をいくつか紹介させていただこうと思います。

ケース1としてMBOの資金調達と経営権の確保について、ご説明いたします。

MBOってなに?

MBOとはManagement Buy Outの略で、経営陣が株主から株式等を買取り、企業の所有者となることを言います。類型として、従業員が買い手となるEBO(Employee Buy Out)、経営陣+従業員が買い手となるMEBO(Management and Employee Buy Out)などがあります。

MBOは一種の「暖簾分け」とも言えますが、主に下記のようなケースに利用されます

  • 後継者のいない非公開企業のオーナーが、会社の役員などに経営を譲ることにより、後継者問題を解決するために行われるケース
  • 企業のノンコア事業を、その事業を管掌してきたマネジメントに譲り、経営の自由度を高め、機動的に経営するために行われるケース
  • 上場企業の経営陣が、非上場化して経営上の意思決定を迅速に行うために実行するケース

上場企業によるMBOの増加と問題点

(1)増加する上場企業のMBO
近年は、いわゆるJ-SOXや四半期報告制度の導入による管理コストの増大や、リーマンショックによる株価低迷などを理由に、上場企業が上場維持コストを削減し、株式市場からの短期的な評価にとらわれず、長期的な視点から企業経営に専念する目的で、経営陣がファンドや銀行などのフィナンシャル・スポンサーと組んで非上場化するMBOが増えています。

2010年:株式公開買付(TOB)件数59件中、MBO 13件
2011年:TOB件数59件中、MBO 20件
2012年:TOB件数41件中、MBO 7件 (2012年10月24日現在)
STPEDIAのデータより、経営陣が買付者となっている案件を集計


(2)上場企業のMBOスキーム
上場企業のMBOは、一般的にTOBの手続きにより発行済株式総数の2/3以上の株式を買い取った後で、TOBに応じなかった残りの株主に現金を渡す、もしくは株式交換の手続きにより、スクイーズアウト(絞り出し)し、非公開化するというスキームで行われます。
(会社法・金融商品取引法に基づく、手続きの詳細な解説は省略いたします。)


(3)上場企業のMBO特有の問題点
上場企業の場合、非上場企業とは異なり、インサイダー情報を知らない株主が、証券市場を通じて株式を売買することにより株価が形成されており、当然経営陣と株主との間には情報の非対称性があります。MBOは対象企業のことを最も良く知る取締役(経営陣)が買い手になるため、対象会社を安く買いたいという誘引が働き、他の株主と利益相反の関係になります。

例えば、業績の低迷がしばらく続くものの、将来的には業績が上がるビジネスのネタを持っている会社の場合、経営陣がMBOを画策する際には、業績が悪く株価が安いうちに対象会社の株式を買うことができる可能性が高いということになります。

したがって、上場企業のMBOについては、株主に適切な判断機会を確保して、経営陣による恣意的な意思決定を排除するとともに、価格の適正性を担保する必要があります。これらは、証券取引所の上場規則や金融商品取引法などによるTOB全般の規制のほかに、MBO特有の論点として、経済産業省が平成19年に公表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」に記載されており、既存株主に納得してもらうための措置を講じるための手順等が示してあります。

しかしながら、実際にM&Aの現場で多くの案件に携わっている立場から見ると、株価低迷でIPO(新規上場)が激減したことや、リーマンショックによる不動産価格の低迷などにより、投資先に困っているプライベートエクイティファンドや金融機関のプリンシパルインベストメント(自己資金による投資)が、格好の資金提供先として経営陣にMBOを提案して実行させているケースもあり、私見ではありますが、非公開化の必要性が釈然としない案件が散見されるようにも感じます。

実際に、サンスター事件・レックス(牛角)事件・サイバード事件など、TOB価格に不満を持った既存株主が、MBOの買い手たる経営陣を提訴するケースもあり、上場企業のMBOは慎重に行う必要があります。

代表的なMBOのスキーム

経営陣による企業の買収といっても、経営陣が自己資金で買収できるケースは稀で、実際には買収資金を調達する必要があります。代表的なMBOのスキームは以下のようなものとなっております。


Step 1 対象会社株式を取得するための買収目的会社(SPC)を設立




Step 2 SPCが対象会社株式を取得




Step 3 対象会社とSPCが合併



※メザニン:Mezzanine.については後述。
※上記の図は、SPCが存続会社となる合併を前提としている。


Step3の最終形を見ていただければお分かりの通り、ファイナンススキームを組んで借入金やメザニンによってレバレッジをかけることで、MBOに参加する新株主(=経営陣)は相対的に少ない自己資金で、対象会社を買収することができます。最終的には、数年かけて事業で稼いだキャッシュで借入金やメザニンローンを返済することで、新株主は完全に対象会社のオーナーとなることができます。

このスキームによるMBOは上場企業を対象とするケースだけではなく、非上場企業でも広く利用されている株式買収方法です。

MBOのための資金調達

MBOはStep1におけるファイナンスをどのように行うかで、MBO実行後の資本構成や返済方法に大きな違いが出てくるため、資金調達はやや複雑になります。ここでは、どのような順序でMBOのファイナンスが行われるかを解説いたします。実際は、ほぼ同時並行的に行われる検討ですが、以下では論理的な検討順序を記載します。

(1) 対象会社のバリュエーション
(2) 自己資金
(3) 借入金(買収ファイナンスの用語では「シニアローン」と言います。)
(4) メザニン

なお、3.Step1の図からもお判りの通り、買収金額(1)=(2)+(3)+(4)となります。


(1) 対象会社のバリュエーション
まず最初に、これから買収しようとしている対象会社の企業価値(=買収金額)がいくらなのかを知る必要があります。企業価値の算定方法には市場株価法(上場企業のみ)、DCF法、類似会社比較法、修正純資産法など様々な方法があり(詳細はここでは割愛させていただきます。)、売手の株主と買手の経営陣が交渉して買収金額を決めることになります。

MBOは借入金により資金を調達することが多く、その返済原資となるのは、対象会社の事業から得られる将来キャッシュフローが中心となります。したがって、DCF法による評価が重視されています。


(2) 自己資金
次に、 (1)で計算された買収金額のうち、自己資金でいくら用意できるかを考えます。自己資金と言っても、ここでは「自分の名義で用意できる資金」のほか、「経営者の議決権としてカウントできる資金」も含まれます。

したがって、下記のように様々な資金調達方法が考えられます。

1. 経営者一人で用意する資金
経営者が個人的に用意する資金については、自己資金のほか、親族や知人、金融機関から個人的に借入れをして用意する資金が考えられます。

このような借入金の返済方法には、キャピタルゲインによる返済、役員報酬による返済、配当による返済などがあります。当然MBO全体のスキームにおいては、役員個人への資金還流(株式の売却・役員報酬・配当など)については、借入金を提供する金融機関から厳しく制限されるため、資金の出し手は長期での返済を前提に資金を拠出する必要があります。

2.複数の経営陣や従業員と合わせて用意する資金
一緒に経営を行う役員候補者や従業員と一緒に資金を拠出する場合には、当然退社や仲間割れもあり得ますから、その時にどのように株式を買い取るか、買い取り時の株式譲渡価額はどのように決定するか、ということについて株主間であらかじめ合意(=株主間契約書の締結)しておくことも必要です。

3.ファンド等と協調して用意する資金
MBOに参加する経営陣がファンド等と協調して買収する方法は、大型MBOでは最も一般的に行われる方法です。当然、経営者よりもファンドの方が資金量が多く、株式シェアも多くなるケースが大半であるため、経営者とファンドとは議決権の行使についてあらかじめルールを決めておく必要があり、株主間契約が締結されます。

こうなると、ファンドは経営陣を監視するために様々な制限条項を加えるとともに、取締役も派遣してくるのが一般的であり、MBOと言っても経営の自由度はかなり低くなります。

また、ファンドは当然いつかは株式を売却(=EXITという)してしまうので、経営陣があらかじめ買い取ることができる権利(=先買権)をつけておく、等の措置が必要となります。

4.事業会社と協調して用意する資金
MBOを実行する際に、事業上の補完関係がある会社から出資を受けるケースもあります。
事業会社はファンドと異なり、必ずしもEXITを目的としていないため、ある程度融通も効き、友好的かつ安定的な株主となることが期待できますが、出資契約のほかに業務提携契約の締結や、役員の受け入れなど、ファンドと同様に制限を受けることもあります。
さらに、上場企業から出資を受け、連結対象や持分法適用対象となる場合には、上場企業グループとしての会計方針や内部統制が適用されるため、ファンドとは異なる意味で経営の自由度が低くなることがあります


(3) 借入金(シニアローン)
(2)で足りない資金については、シニアローンで補完することになります。資金の出し手である金融機関(銀行またはノンバンク)の貸出審査においては下記のような項目を重点的に審査します。

  • 対象会社のキャッシュフロー予測
  • 対象会社のバリュエーションの適正性
  • 買収金額全体に対する自己資金の割合


対象会社が将来獲得できるキャッシュフローが少なければ、当然返済原資が確保できないため、融資に消極的になります。また、キャッシュフローが潤沢でも、バリュエーションが高すぎると返済期間が長くなり、不確実性が高くなるため、やはり融資は難しくなります。さらに、MBOに参加する経営陣が(2)で調達できる自己資金が少ないと、自己資本比率が小さくなってしまうため、融資額が少なくなってしまいます。

 
一般的に、シニアローンの出し手である金融機関は、特別な財務制限条項(=コベナンツ)を付け、債務不履行となるリスクを減少させます。


(4) メザニン
(2)(3)でもまだ資金が足りない場合には、メザニンで調達することになります。
メザニンとは「中二階」という意味で資本(エクイティ)とシニアローンの中間的な資金のことを言います。

具体的には、シニアローンよりも返済順位や会社清算時の配当順位が劣る代わりに、金利が高め(7%~15%程度)に設定される劣後ローン/社債や、普通株式よりも配当順位や清算時の残余財産分配権が優先する優先株式などが該当します。前者は負債に近く、後者は資本に近いものであり、利用方法はケースにより異なります。

負債に近いメザニン・ファイナンスは、シニアローンと自己資金で調達しきれなかった金額について、シニアローンよりもリスク・リターンを高めに取りたい、といった金融機関のニーズを満たすことになります。

また、資本に近いものは、計算上の自己資本を補強しつつも、経営陣が資金の出し手にあまり経営をリードさせたくない場合に利用されます。

一般的には、シニアローンの返済が終了した後に、優先株式も償還できるオプションが付いている一方で、当初事業計画よりも財政状態が悪化した場合など、一定の条件を満たせば、メザニン・ファイナンスの出し手が優先株式を普通株式に転換し、経営権を奪取することができるように設計されます。

このように、メザニンは、まさに負債と資本の中間的な性格を持ち、ケースによって資金の諸条件も異なるため、ファイナンス・アレンジメントには専門的な知識が必要となります。

MBOにおける経営権の確保

最後にMBOにおける経営権の確保について述べます。MBOにおいては、調達金額と経営権の確保には強い相関関係があるため、原点に立ち戻って、何故MBOをするのか、MBOによりどのような経営を行うのか、ということを強く意識しておく必要があります。
MBOの典型的な失敗事例は以下のようなパターンとなります。

  • 資金調達を優先させるあまり、最初から方向性の異なる経営陣と同床異夢の自己資本構成となってしまうケース
  • ファンドが主導しすぎるあまり、本来経営陣が思い描いていた方向と経営方針が合致しないケース
  • 当初バラ色の事業計画を描いて多額のローンでMBOを実行し、後に事業計画がとん挫して借入金が返済できず、財務制限条項に抵触して再度スポンサーを探して売却されるケース
  • 協調していたファンドの担当者が退社し、ファンドとの関係がうまくいかなくなり、業績が低迷するケース
  • 出資を受けた事業会社との提携がうまく行かず、事業提携解消および事業会社持分の譲渡をきっかけとして、事業が回らなくなるケース


これらのケースは、いずれもMBOすること自体が目的化し、本来のMBOで実現したい経営を犠牲にしてしまった場合や、投資銀行やファンドの提案をきっかけとして、あまり本質的な意味を理解せずに安易にMBOに走ったような場合に見られるパターンで、いずれも無理なファイナンスがもたらす不幸な結果と言えます。

MBOは、マネジメントが経営権を買い取ることにより、オーナーシップを持って迅速かつ大胆な経営のかじ取りをするための手法であり、金融機関がフィーを稼ぐための手段ではありません。

そのためには、経営陣は金融機関からのMBO提案を鵜呑みにせず、MBOを計画する初期段階から専門家と相談して、

  • どのような資本構成で
  • 買収資金を調達し
  • どのような経営組織で
  • 事業から得るキャッシュフローを最大化するか


という会社経営そのものの原点について、経営陣が方針を明確にしておくことが肝要です。



 

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佐野 哲哉

2000年、ベンチャー企業(現東証上場)の設立に参画し、成長企業の資本政策・資金調達・IPO実務に精通する。その後グローウィン・パートナーズを創設し上場企業の財務会計コンサルティング、経理アウトソーシングの提案、IPO支援などを主導。