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IPOを成功させるための実務各論「資本政策」篇 資本政策ケース・スタディpart1  ―IPO AtoZ vol.006

日之出監査法人
統括代表社員 公認会計士
小田 哲生

前回までIPOの目的の考察や上場準備企業を取り囲む関係者といったIPOの概要を説明してきました。いよいよIPO実務の各論に入ってまいります。まずは、今回から5~6回にわたり資本政策について解説してまいります。

まずは、資本政策の定義と目的を考えてみましょう。

資本政策の定義と目的

資本政策とは通常、株式上場を決意してから株式上場に至るまでの資本の部にかかわる、増資や株式分割、ストックオプションの発行などのアクションプランを示すもので、このプランの作成の出来は株式上場の成功を左右するくらい重要なものです。

なお、資本政策には株式上場後の数年にわたる会社の資金調達やオーナーの持分売却を計画しておくという長期的なプランもありますが、一般的には株式上場までの間の計画を意味します。

資本政策は、株式上場が会社の所有と経営の分離を必要とする中で、所有に関する部分をどのように分割保有するかということを決めるためのプランですから、第三者の手を借りて作成するにしてもオーナー経営者自身がその内容、意味するところを十分に理解していることが後になって後悔しないためには絶対的に必要です。特に資本政策は具体的な実行に移した場合、元に戻ることは原則として出来なくなりますので、スタートの段階でIPOに至るまでのプランを概略でも立てておく必要があります。さらにいえばIPO後についても考えておくくらいの展望を持つことが望まれます。


それでは資本政策はどのように考えて作成していけば良いのでしょうか?

資本政策策定のケース・スタディを通じて考えてみましょう。

資本政策策定のケース・スタディ1

この問題に関しては、前述したようにオーナー経営者自身の価値判断も伴うものなので絶対的な正解が存するような性格のものではないでしょう。しかしながらオーナーが一人勝ちするような資本政策も、その他の株主の中に飛びぬけたメリットがあるような資本政策もバランスを欠いたものといえるでしょう。IPOを達成するまでの貢献度合いとのバランスを考えることがまずは重要といえるでしょう。

具体的な策定法については、まずはしっかりした事業計画が出来ていることが前提ですが、その上で、すでに上場している会社の中で自社に近いと思われる会社をピックアップして、その会社の財務数値、発行済株式総数(潜在株がある場合はそれも考慮)、株価の関係を調べます。特にPER(Price earning ratio 株価収益率 株価と税引後利益の比率)についてはこの1年くらいの推移を確認しておきます。

仮にこの似ている会社のPERがこの1年間の平均で20倍ということでしたら、自社の事業計画とこの会社のIR情報を比較してみて特にお互いに遜色がないということであれば、自社のIPO時におけるPERも20倍程度となる可能性が現時点では高いということになるでしょう。もしIPO時において一番近い将来である申請期における経常利益を4億円(税引後利益は2億円)と想定し、上場直後の株価を50万円くらいが好ましい水準と考えれば、 上場直前の発行済株式総数(潜在株は無しとする)は計算上8,000株となります。


200,000千円×20(PER)÷500千円(株価)=8,000株


つまり税引後の利益にPERを掛ければ時価総額となり、一方発行済株式総数に株価をかけたものも時価総額となりますので、その関係で上記株数が求められます。

PERはわが国の証券業界の歴史的変遷で見て総平均的にみると20倍くらいということが言われます。現実には暦年では平均値で見ても10倍くらいから50倍くらいまで変化しており、個別銘柄で見ればさらにその乖離は広がります。



PERは株価と業績(税引後利益)の相関としてその市場に属する銘柄が業績の何倍まで投資に値するかという意味合いを持っており、マクロ的にはその市場の属する国の経済成長率、特にその期待値との関連性が強いといわれます。内閣が変わって経済成長に対する期待値が膨らめば株価が上昇しPERも高くなるというわけです。しかしながら資本政策策定時点の市況が極端に良かったり悪かったりした場合において、それを前提に資本政策を組むのはむしろ問題が有るでしょう。総平均的な指標である20倍程度を前提に、自社の属する業種における会社の値なども考慮した上で考えておいた方が無理が少ないように思われます。

重要なのは、株価が低いときにそれを前提として資本政策を作成すれば、少なくとも資金調達に関しては上場のメリットがないという結論になる可能性が高いのですが、それは株式市況には波があるということを無視した判断といえるでしょう。一方、株価が高いときにそれを前提として資本政策を作成するのも同じことが言えるでしょう。


さて、上場前に発行済株式総数を8,000株にしましたので、IPO時に2000株の公募増資を行うと上場直後の発行済株式総数はちょうど10,000株となります。IPO時に公募増資する株式の量は通常15%から20%くらいが標準的で、また、この程度の流動化で日本国内の証券市場における形式基準は満たされるといえます。(各市場の形式基準を参照のこと)

もし、2,000株を公募増資(新たに株式を発行して増資すること)し、売出し(既存株主の株をIPOに際して売却すること)を500株とするとIPO時の資金調達額は、以下のように予想されます。


公募増資予想額 2,000株×500千円×80%×93%=744百万円

売出し予想額   500株×500千円×80%×93%=186百万円


ここで上場直後の予想株価に80%を掛けているのは、いわゆるIPOディスカウントを考慮しているからです。またIPO時には申請会社は証券会社より引受価格によって株式の対価を受取り、証券会社は投資家に公募価格で売るのですが、その差は通常7%であり、その差額は証券会社の引受手数料相当額となりスプレッドといわれています。

このようにIPOに際して引受価格と公募価格を分けることによって、引受手数料相当額は申請会社のPLに計上されることがなくなりました。またIPOディスカウントといっているのは、証券界で初値騰落率といわれている用語を逆から見たもので、IPO銘柄は証券市場の需給によって株価が決定されるメカニズムに入る前に、機関投資家等によっていわゆるブックビルディング方式で株価を算定されそれが公募価格となるわけですが、その際にその時点で未上場株であり上場直後に株価が下落するという事態を回避するために、ある程度実力より低めに株価を算定します。そのため上場した最初の株価(=初値)と比較した場合、通常の状態でもある程度の上昇が見込まれます。この公募価格から初値への上昇率を初値騰落率といいます。

初値があまりに上昇したり下落したりするのは、その後の当該株式の株価形成上好ましいとはいえないので、株価を安定させるための方策としてオーバーアロットメントによる売出しが利用されます。

この初値騰落率についても証券業界における歴史的な平均値は20%といわれています。しかし2007年の年間データを見ると新規上場121社のうち公募割れ(初値が公募価格を下回ったもの)が29社あり、最低の初値騰落率は-33%であり、最も上がった銘柄では309%と、公募価格の4倍にもなっています。

なお最近年度の初値騰落率は07年49%、08年18%、09年35%、10年24%、11年22%、12年49%と、08年を底に全般的には回復する傾向にあります。

資本政策策定のケース・スタディ2 (次回のテーマ)

さて、上場直前に8000株にするとして、現在の株の発行状況が400株で1株あたり50,000円を会社設立時にオーナー経営者が払い込んだものとすると、その後8000株にするまでどのようなことを考えて資本政策をプランすればよいのでしょうか。


この点について考慮を要する事項はおおむね下記の3ポイントあるといえるでしょう。

1. 創業時から現在に至るまでの間の役員、従業員等の貢献を考え適切なキャピタルゲインが得られるように考える。

2. 上場までの間に銀行からの融資では足りない資金調達が想定され、その資金をVCやエンジェルから調達する必要がある。

3. 上場前から今後の事業発展に向けて、提携を強化すべきパートナーがいて資本提携についての申し入れを受けている。


次回はこのケースのプランニングを中心にお話していきます。

 

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日之出監査法人
日之出監査法人
小田 哲生

1985年からIPOを専門に扱う企業公開部に所属し、20年以上に渡りIPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となり公認会計士業界では最多となる。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。

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