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IPOを成功させるための基礎知識 株式上場に関わる様々なキャスト「監査法人」篇  ―IPO AtoZ vol.004

日之出監査法人
統括代表社員 公認会計士
小田 哲生

前回、「株式上場に関わる様々なキャスト」と題して上場準備企業を取り囲む関係者のうち主要な脇役である証券会社の役割について解説しました。今回はもうひとりの名脇役である監査法人について整理しましょう。

Q 監査法人の「役割」って何ですか?

監査法人の株式上場に当たっての役割は、上場申請に当たりその直前期までの2年分の財務諸表について監査証明することにあります。監査というのはそれを受け入れる側の会社に財務諸表の作成能力等を求めますので、通常初めての会社では準備期間が必要となりますから2年分の監査証明をするためには2年以上前から上場申請会社に関わることが必要となります。

Q 監査法人を「選択」する時、何に気をつければいいですか?

大手の監査法人の中には、株式上場関係の業務を中心に行っている部門と、中心に行っているほどではないが行っているという部門(担当者)と、国際的大企業や金融サービスあるいは官公庁関連事業体などに特化してサービス提供を行っているため株式上場関連業務はほとんど行っていない部門などに分かれています。

当然大手監査法人がその大手であることによる付加価値を高めるためには数千人の構成員が様々なサービスに特化していく必要があります。その意味では今後もこのような傾向は強くなってくるでしょう。一方中小監査法人の中にも株式上場業務を得意としているところがあります。これは主としてその中小監査法人の担当者がかつて勤務した大手監査法人などで株式上場業務を経験していて慣れがあることが原因であったりします。

かつてある弁護士が、弁護士というのは経験のない業務について依頼を受けた場合に、よほど忙しいか、専門分野の仕事でない限り、喜んでお受けしますと言っておいて、その日に家に帰ってから勉強するんですという話を聞いたことがありますが、株式上場業務と公認会計士にも同じようなことが言えるでしょう。

一度も経験したことがない会計士であっても株式上場に関して仕事の依頼があれば、大方はとりあえず引き受けてしまったりします。もちろん誰だって最初は経験のないところからのスタートとなりますが、周りに誰も経験者がいないとなると相当困難を伴うことが予想されると同時に、頼んだ方の会社も上場までの段取りやイベントなどがわからず、最も重要なのは実際に管理レベルを上げなければいけないとは言ってもどのレベルまでが必要なのか、経験がないとその匙加減がわかりにくいため大変な苦労をすることになるでしょう。

結果として非常に簡単に考えてしまっていたり、逆に難しく考えすぎてしまったりなどです。簡単に考えてしまった場合は上場審査の過程で原点に戻るような作業が多くなるでしょうし、難しく考えすぎてしまった場合は途中で挫折してしまうケースもあるでしょう。もっとも監査法人側に慣れがない場合であっても、会社側に慣れた人間がいたり、コンサルタントなどによって補完される場合もありえます。

しかし、実のところ監査法人側の慣れの中で一番重要なのは、継続的に監査を行っている会社ではなく上場準備会社のように新規に金融商品取引法に対応した開示を行う会社に対して、最初のレールを引く作業があって、それに慣れていることが必要ということです。

経験がない方にはわかりにくいかもしれませんが、前年度の開示があって当年度の開示を行うというのはマスを埋めるような作業に近いのですが、最初の開示を決めるためには、その会社の業務内容を十分理解したうえで、同業他社等の会計処理なども考慮しながら決めていく必要があります。

その際、事業内容に新規性が高いと同様なケースの開示事例がないということもしばしば起こります。大規模法人の監査を通常行っている会計士は、そのような場合に経験がないことによって判断がつかなかったり、間違いを犯してしまう可能性が高いということが言えるでしょう。そして、監査法人側が上場の仕事に慣れていない場合苦労するのは、監査法人ではなく会社あるいは幹事証券会社だったりします。

したがって、監査法人選択の鍵はやはり、株式上場の業務に慣れた熱意のある担当者を選ぶということに尽きるでしょう。

ところで、監査法人の公認会計士の中には、株式上場の専門家と呼ばれる者がそう多くはありませんが、存在します。これらの者は、新規上場時の監査報告書に署名しているものを調べればわかりますが、その公認会計士が何故、多くの監査報告書に署名できるのか(多くの上場会社を輩出できるのか)について問われることがあります。

その理由はおそらく3つくらいあるでしょう。1つ目はベンチャー企業等の未上場会社が好きで、そのことによっていろいろな人から紹介を受ける機会が多いということ。当然その会社に関わる業界に対する知識も豊富であることが要求されるでしょう。

2つ目は多くの未上場会社の上場を経験することによって、上場準備作業に関する適切な的を射た助言ができるということ。的を射ない助言は振り回され労力を消費するばかりとなるから返って上場が遠のくということになるでしょう。

3つ目は適切な監査ができるということ。重要な論点を見過ごしてしまっては、上場目前の審査で大きな問題となってしまうこともあるでしょう。一方で厳しすぎる監査によって、監査意見が出なかったりするのも問題です。ただし証券会社や取引所の審査が十分機能していない場合、監査が甘いことによって上場できてしまった会社も中にはあるでしょう。監査が甘くはなかった会社でも上場後に問題を起こしてしまうケースはあるのですから、ましてこのような会社は上場後に問題を起こしてしまう可能性の高い会社と言えるでしょう。

新規上場会社というのは最近監査を受け始めた会社ばかりなので、対象会社及びその置かれている状況を的確に判断して、適切な監査ができるということは実は経験等がないと難しい内容であり、このあたりの安定感について主幹事証券会社等は監査法人の中でも誰に担当して欲しいか指名したりすることになるのでしょう。主幹事証券から見れば上場準備作業が安定的に進められ、確実に上場が達成されるかという最も重要なことのキーを握るのは実は監査法人の担当者の選択であるとも言えるでしょう。

もちろんこのことは上場したい会社にとっても重要な選択なのですが、会社側が株式上場に習熟した担当者を選択し監査を依頼するというのは、それらのデータが十分開示されていない現状では困難でしょう。主幹事証券の審査部門の方の話を聞くところ、上場審査の中で最も重要かつプリミティブな問題として申請を断念あるいは延期せざるを得ない事由は適切な監査ができていなかったことに起因することが多いと言ます。

Q 株式上場と監査の「本質」ってどこにあるのですか?

監査の機能論として、以前から監査論の中では批判的機能、指導的機能、創造的機能の3つの機能があるとして論じられてきたところです。近年になり監査対象会社による不正や粉飾の発覚が相次いで、監査法人側の監査が十分に行われていなかったり、粉飾を見過ごしてしまったりした事例が出てきたことにより、金融庁の外郭団体として公認会計士による監査の遂行状況を監視するための組織として公認会計士審査会(CPAAOB)が設置され、監査の監査が行われるようになりました。

このような状況下で、監査人はその監査対象企業とは常に一線を引きその不正や粉飾を未然に防ぐべき機能つまり批判的機能の十分な発揮が社会的なニーズに合致しているように思われています。

しかしながら、そもそも監査とはそのほとんどを会社が入手した証拠に基づいて記録の正確性を検証するものであって、犯罪の捜査のように反面調査を行ったりするものではありません。そのようなことを行わないでも監査が入ることによって不正や、粉飾の大きな抑止力として機能していると考えられています。

つまり、現在の監査の方法には全ての不正や粉飾を防ぎえないという限界はあるものの、それらのほとんどのものは未然に防いでおり、かつ監査という社会的な便益を受けるための費用対効果という意味においてのバランスも重要と言いえます。監査の責任追及を強化し、そのためのレビュー制度を強化すれば、監査に対する社会的な費用負担はそれに比例して増大していくことも監査を受ける会社のみならず、マスコミや投資家は考えておかなければならないでしょう。

もっとも監査報酬が高くなるのは、従来監査のレビューが行われなかったことにより低廉受注が行われてきたことへの反動でもあり、従来が監査という便益の対価としては低すぎたということも理解しておく必要があるでしょう。

また、特に上場準備段階の会社などはそうですが、この数年間に行われた会計基準のグローバル化による複雑化、例えば税効果会計、退職給付金会計、固定資産の減損会計、金融商品会計、企業結合会計、連結決算における支配力基準の適用、棚卸資産の時価評価、などの問題は非常に複雑な内容を含んでおり、公認会計士間や監査法人間においても解釈が完全に統一されているとまでは言い切れません。

つまり、このような会計基準の適用における解釈が難しくなっている現況下で、全ての開示対象会社が適切な開示を行っていくためには批判的機能というよりも指導的な機能が有効であって、むしろその機能が生かされてこそ今までも上場企業の財務内容の適切な開示が促進されてきたということを考えるべきでしょう。

Q 監査人の「交代」ってどういうことですか?

最近は時勢柄、監査人の交代の話が後を絶ちません。会社側と監査人の意思の疎通に障害を起こしていると思われる事例が多くなっており、中でも十分な説明をしないままにある一定の処理しか認めないとする経験の浅い監査人の対応にベテランの会計士も説明ができず会社側が不信感を抱き、交代を考えるようになるというケースがあります。このような場合、経験の浅い会計士の方が正しいことを言っているケースもありえます。

最近は監査法人内でも従来容認してきた処理についてこだわることなく正しい会計処理しか認めてはならないという指導が徹底されているからです。しかしこのケースで問題となるのは何故そうしなければならないのかという十分な説明ができていない場合です。この説明責任は監査法人にあるというべきでしょう。

ただし、半ばだめと分かりきっているような無理難題の主張を声高に主張し続ける経営者が存在するのも事実で、あまりに理解力に欠如するような経営者は監査を受ける資格そのものがないとしか言いようがありません。(このような判断した場合、監査人は契約リスクが高いとして監査契約を締結しないあるいは更新に応じないなどの対応をとることが求められています。)

ただし、最近は会計のグローバル化の進展と共に今まで良かったことがだめになったり、経営実態から考えれば容認できると考えられるような会計処理が認められなかったりするケースも増えています。したがって会計処理の適用が厳しくなっている背景にこういった事情があること、しかも監査法人が受ける責任追及も厳しくなっていることから許容範囲が狭くなっていることを理解しなければなりません。

また、最近では、意見の齟齬や対応の悪さ以外にも、報酬の高さを理由に監査人交代を考える会社も増えてきています。実際に業界内で報酬に対する考え方が統一されているということはなく、成功報酬が禁じられていることくらいですから、実際のところ報酬額に大きな隔たりが生じる可能性は否定できません。特に上場準備会社は監査法人の受注状況にも影響を受けるので、報酬はますます透明性に欠ける傾向にあります。

会社側から見て大事なことは、報酬額の合理性について説明を受けられ、納得できるかということでしょう。合理性なく高いのは論外ですが、合理性なく安いのはもっと問題です。大手監査法人の請求内容も確認せずに大幅割引などと称しているディスカウント法人は品質管理等いろいろな面で問題を含んでおり、依頼者側も問題に巻き込まれるリスクがあると言えるでしょう。監査報酬の安さだけで決めてしまうことのないように注意いただければと思います。

なお、監査人の交代については、監査基準委員会報告第33号(新しい委員会報告のナンバリングにより900となりました。)に基づく引き継の実施が、当事者となる監査人に義務付けられていますので、前任監査人は後任予定監査人に対し会社の監査に関わる諸問題を全て引き継がなければなりません。

したがって、会社の業績が悪化しただけであれば後任監査人はすぐに決まるでしょうが、その他のリスクを抱えている場合には後任監査人が決まらない状態、最近の言葉で言えば監査難民ということになってしまうでしょう。会社側は監査人を選別しなければならないと同時に、監査人に問題会社と看做されることのないような対応をしておく必要があるということでしょう。

ちなみに監査人の交代は、この数年間は年間100社から200社くらいの数となり、これを平均すれば20年に1回の割合での交代ということになります。したがって監査人の側から見れば、交代というのは滅多に起こらないものと考えていますので、7年ローテーション・ルールが始まったとはいえ、会社側の意図とは別に財産のように考えている面があります。会社側は、有価証券報告書において監査報酬の開示も始まっている状況下でもあり、適切なサービスと適切な対価という考えをよりしっかりと持つ必要があるでしょう。

したがって、上場後においても7年のローテーション・ルールが適用され、責任者が変更になる際には、他の監査法人も含めて選定について再検討するのも良いと思われます。

 

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小田 哲生

1985年からIPOを専門に扱う企業公開部に所属し、20年以上に渡りIPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となり公認会計士業界では最多となる。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。

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