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IPOを成功させるための基礎知識 株式上場に関わる様々なキャスト「その他の関係者」篇 ―IPO AtoZ vol.005

日之出監査法人
統括代表社員 公認会計士
小田 哲生

前回、前々回と、上場準備企業を取り囲む関係者のうち主要な脇役である証券会社と監査法人の役割について解説しました。今回はその他の関係者を整理しましょう。

キャスト1 「ベンチャーキャピタル(VC)」

未上場会社に株式の購入という直接金融の形で資金を提供し、上場に至るまでのアドバイスや諸提案を行い、上場が達せたれたら、株式を売却してキャピタルゲインを得るというのがベンチャーキャピタルのビジネスモデルです。このことを財力のある個人投資家が行う場合、その投資家をエンジェルといいます。

日本にあるベンチャーキャピタルについて調べるには、経済産業省の外郭団体である財団法人ベンチャー・エンタープライズ・センター(通称VEC)のホームページのリンク先の中にあいうえお順にまとまってみることが出来ます。

日本最初のVCであるJAFCO(旧日本合同ファイナンス)の投資戦略を見ていると、時期によって、絞り込んだ銘柄に集中的に投資を仕掛ける時期と、可能性がある程度あると判断された多くの銘柄に分散して投資する時期があると判断され、その傾向は他のVCに関しても基本的に当てはまります。これは最も大きく影響するのが新規上場市場の勢いであり、次に金融市場を含む経済界全体の勢いということでしょう。

VCが資金を出資するに当たって、会社法上の株主の権利を超えた、会社の経営に関する介入権を記載した株主間契約の締結を要求することがあります。これはアメリカなどで行われていたものが日本にも導入されたものですが、まともな会社から見れば介入し過ぎではと思われるような内容も記載されていることがあり内容の確認が必要なのですが、このようなことが行われるようになった背景には、VCからの資金が入ったとたんに、役員報酬を数倍にし、高級外車を乗り回すような不届きの経営者が存在したということがあります。

また、上場後にVCが株を売却して利益を上げることに対して、騙されたとか、売らないで欲しいという経営者もいました。(流石に最近はいないかもしれませんが)これはさすがに自らの勉強不足を戒めるべきで、VCは上場後に何時までも株を売らなければ自らの株主に対して背任になってしまう、そういう性格の会社であって、それは銀行からお金を借りておいて、金利を取るとはと嘆くような話と同じレベルといえるでしょう。

実際にVCがベンチャー企業に投資したうちどれくらいの会社がIPOを達成し、VCがキャピタルゲインを得ているのでしょうか?

この点については、時代によってもVCによっても異なるでしょうが、大雑把に考えて7社投資して1社くらいが上場できるくらいではないかと思われます。さらに7社のうち1社ないし2社が投資後2~3年の間に破綻してしまいますが、まだ残りの会社が5社程度あることになります。この会社のことを業界ではリビング・デッドと読んでいます。つまり会社は生きているのですが、業績が泣かず飛ばずでIPOできない死亡銘柄というわけです。

ところで、日本のベンチャーキャピタリストは、自分がその情報網から発掘してきて社内の投資委員会を通して、投資することとなった案件に対して、自らも個人的に同時に何株か買うとしたら、イメージとして社業を通じて得た知識を以って、自らの利殖を図る行為であり、背任に当たるのではないかと考えられる可能性が高いと思われます。これは日本の会社人としては当然の倫理のように思われます。

しかしながら、アメリカではむしろ、その案件の担当者が自ら自腹をはたいてでも買いたいような銘柄でもないものを会社の金だからといって投資するのかというように考え、そのようなことが容認されています。このことは、会社勤めの優秀なベンチャーキャピタリストが大金を掴む可能性を示唆しています。そしてこれらの人たちがエンジェルにと変貌していくことになるのでしょう。

キャスト2 「金融商品取引市場」

金融商品取引所は利益追求を目的とする株式会社という性格と市場経済の秩序と調和を保つための調整機能を果たすという公共的な役割の2面性を持っています。市場での取引が活況となり、不祥事も少なく経済全体も上昇基調にあるような状況では利益追求的な面が表出し、市場間競争の激化、新興市場の開設、審査基準の緩和など、さらに活況を導くような施策が行われます。

一方、不正や粉飾などの事件が続発し、また経済全体も停滞から下方局面に移った状況では、当局(金融庁等)からの指導などが行われ、既上場会社に対する監視、監督の強化と罰則の適用、新規上場申請会社に対しては審査の強化および申請前段階における主幹事証券会社の審査への指導強化などが行われます。

このように金融商品取引所の対応は市況に反応する面が多いといえますが、一方で審査基準の強化の歴史はかつて起こった不祥事を繰り返さないためにもぐら叩きのように強化されてきたという経緯があります。したがって現在の審査対応は過去における歴史の集大成ともいえるでしょう。

このことは会計監査における監査手続きの強化の歴史とも共通しており、最初からすべての過ち等を予見して規制することは不可能であり、このような対応は人間社会の発展を意味するものでもあり、過ちを繰り返すという人間の条理でもありそのために審査や監査が必要なのだと思います。

さらに金融商品取引所の機能は徐々にグローバルマーケットに向けられるようになっています。イギリスが英語という言語の優位性を利用して金融を中心に経済再生を果たしてきていること、日本においても製造業の空洞化が進む中で金融などのサービス業の更なる進化、発展が経済の牽引役となることが望まれるところですが、日本の金融マーケットがアジアの金融センターとなりうるかにに関してはまだ各金融商品取引所においても模索状態といえるでしょう。

キャスト3 「株主名簿管理人」

従来証券代行業務といわれていた業務について2009年1月より株券の電子化に伴い会社に成り代わって電子化された株主名簿の書き換え、管理を行うということになり名称についても株主名簿管理人と称されることとなりました。

従来この業務は信託銀行と専門証券代行業者のみが行ってきましたが、これらの業者の株式上場との関わり合いとしては下記のような内容が考えられます。

1.株主名簿の管理業務を行う
2.最初の一般株主を含む株主総会からの総会運営について指導を受ける
3.上場前の増資、新株予約券の発行など株式事務に関する指導を受ける
4.1~3以外の上場に関する様々な疑問に関する相談窓口となる
5.上場に必ずしも関しない事業提携、不動産関連などの相談に応じる

基本的に1以外にはあまり依頼する可能性がないのであれば、どこに依頼するかの決定は上場申請の直前期くらいでもよく、事前にいろいろ相談しておきたいのであればそれに応じて早めに、また対応力のあると判断されるところに決めるのが良いでしょう。

主幹事となる証券会社には系列、あるいは関係の深い株主名簿管理会社があるので、相談すればそこを推薦されることになるが、同じ系列で決めるか、別の系列にするかについてはケースバイケースで会社が判断すべきでしょう。

なお、株主名簿管理以外の会社法務に関するサービス、特に複雑な株式に関わる法律問題や株主総会の運営に関するノウハウを特に必要とするような場合においては、旧東洋信託、中央信託の現在の会社である三菱UFJ信託、中央三井信託にそれらのナレッジが多くあると思われます。

キャスト4 「証券印刷会社」

証券印刷会社については開示書類の電子開示の義務化や株券の電子化によって紙に印刷するという本来の業務は減じつつあるが、この会社の存在意義はそもそも紙に印刷するという事業にあるのではなく、金融商品取引法その他の法令、規則に定められた開示ルールにしたがって会社の開示書類が作成されているかについて校正すること、および開示ルールに従って会社の開示書類がスムーズに作成されるように作成要領、作成の手引き、開示例、雛形を配布することにあります。

開示書類の作成が難しくなっている現状では証券印刷会社の開示に対する指導的役割の意義が高まってきているといえます。

上場準備の段階で証券印刷会社の会員になっておくとこうした資料のほか研修への出席が可能となるので、早めに対応しておくことが望まれます。

キャスト5 「銀行、その他の金融機関」

かつて銀行マンは株式上場が資本市場からの資金の調達を意味するところから特に信用力のある会社については借入の返済につながっては困るということから上場について消極的であることもありました。しかし上場会社が非常に増えたことによって、優良会社であっても競争力の面から上場を考えざるを得ないような状況になって来て、銀行は、むしろその一大プロジェクトにあたって中心的役割を演じ、飛躍的に規模が大きくなった後の会社と強い取引関係を確保したいと考えるようになりました。

銀行には将来有望な会社は小さいうちに恩を売って将来大きな取引につなげるという考えがあり、この成功事例としてよく松下電器と住友銀行の話が引用されることがあります。最近ではソフトバンクと第一勧銀の例も有名でソフトバンクは本社が移転してもわざわざ恩を受けた支店との取引を継続しているという話が伝えられています。

このように考えて、将来有望と目されるような会社に対して銀行マンは当面の利益を考えずに取引先企業の紹介などをしてくれることがあります。ただし銀行の未上場会社に対する方針は銀行によってまたそのときの方針によって異なることになり、伝統的にベンチャー企業の発掘に非常に熱心だった銀行もあります。

一方生命保険や損害保険などの金融機関もほとんどの会社が系列VCを有しており保険契約獲得のための情報網を生かして優良企業の発掘に努めています。これらの会社も銀行同様、将来大きくなったときを考えて当面は採算を考えずに情報提供などの事業協力をしてもらえる可能性があります。これらの教訓から考えて、上場を考えるような会社は金融機関の営業マンを味方につけて、社外からの協力をうまく得ることが成長のためには是非とも必要ということですが、そこで受けた恩は成長した後には何倍にもして返すことによって、恩に報いる必要があるでしょう。

このような行為は社外の人間も必ず見ていて、義理堅い会社という評判になり、その後の取引を有利に繋げていくことが可能となるでしょう。またこのような行いは、若手でやる気のある金融マンを刺激し、ベンチャー企業に対しても良い効果をもたらすことになるでしょう。逆に未上場の際にお世話になった金融機関を大事にしないと、上場後に厳しい資金状態となったときに、どこも助けてくれないということになる可能性が高いといえるでしょう。 

キャスト6 「金融庁」

金融庁の上場有価証券等に対する開示規制は、発行開示と流通開示に分けられ、財務局の中でも担当課が分けられています。従来、企業が有価証券を発行する場合の開示規制である有価証券届出書の提出に関しては、届出制であるにもかかわらず、主幹事証券が事前に提出して、証券会社、発行会社、監査法人がそれぞれ財務局に呼ばれヒアリングを受けていました。

また、質問に際して事前に数十問程度の質問をFAX等で送付されることもありました。質問の内容は監査法人に対しては、監査概要書のドラフト(これも事前提出書類)を見ながら、具体的にどのような監査が行われたのかというような話が多かったと思います。発行会社に対する質問は、開示書類の数字の整合性などに関する内容が主で、これは証券会社の審査部と同じ視点とも言えます。なお、かつての指摘の中には目論見書の中に使われる写真がきれいに取れすぎているので変えるようにというようなものもありましたが、最近では有価証券届出書に関するヒアリングは行われなくなっています。

これは将来的にどうなるのかは明確ではありませんが、西武鉄道の大株主に対する虚偽記載があって、流通銘柄全体を対象とする開示の点検が行われたこと、公認会計士の監査に対するチェックに関しては、発行開示の際にヒアリングによらずともCPAAOB(公認会計士審査会)を通じて恒常的に行われていること、などによって行われなくなったように思われます。さらにいえば、この数年金融庁は処分官庁といわれるほど、証券取引所や証券会社、監査法人等に対し処分を行っていますので、そのことに注力せざるを得なかったとも思われます。

また企業会計審議会の下には内部統制委員会というものもあり、そこが主となってJ-SOXの制度が導入されることとなりました。日本の経済社会は内部統制が必ずしも十分でないくらい業務範囲を幅広く1人がカバーすることによって効率的な業務処理を達成してきた面があり、このような制度を強制的に導入することは、日本の良さを失わせ全てにおいてアメリカ追従型の社会にしてしまう恐れがあったのですが、この制度は内部統制委員会の面々により議論されたうえで施行されました。

確かに日本の会社にあってもグローバル化しているような会社に関しては、内部統制の強化は必要であり、上場会社であれば小規模の会社といえども自社の内部統制に関して、しっかりと考えてみる良い機会ともなり、導入することによるメリットは少なからずあるということを実感としても思います。

しかしながら、各界からの反発も強く、金融庁から出された3回のQ&Aによって、当初の考えよりもずいぶん緩い制度運用が行われることとなりました。この点についてもアメリカのSOX法の運用が年を経るごとに緩くなってきていることに近いのかもしれません。


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小田 哲生

1985年からIPOを専門に扱う企業公開部に所属し、20年以上に渡りIPO業務推進の中心的役割を果たす。関与先でIPOを達成した企業数は30社以上となり公認会計士業界では最多となる。2009年上場準備・中堅企業のための日之出監査法人を立ち上げ、現在に至る。

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