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経営者が決算書を創る時代がやってくる!?(後編)  ―会計のプロが語るIFRSの本質とは? vol.002

監査法人A&Aパートナーズ
統括代表社員 公認会計士
進藤 直滋

いま企業価値を計る"ものさし"が、世界的に統一されつつある。

その"ものさし"とはIFRS(国際財務報告基準)。
IFRSはすでに世界100ヵ国以上で適用され、日本の上場企業にも2016年までに強制適用される予定だ。

―会計のプロが語るIFRSの本質とは?vol.2の今回も進藤氏と寺田氏のインタビュー形式でお送りする。

経理担当者への丸投げは絶対ダメ

―IFRSの導入を成功させるには、どうすればいいでしょうか。

進藤氏 まず経営者が率先してIFRSの導入に取り組むことです。IFRSの決算書は、自社の経営方針なくして創れない。つまりIFRSの導入とは、経理担当者マターではなく、経営者マターなんです。「IFRSの決算書は経営者が創る」くらいの覚悟が必要です。 そして経営者が取り組むべきことは、IFRSの本質を理解し、自社の経営方針を棚卸しすることです。まさに「敵(IFRS)を知り、己(自社)を知れば、百戦危うからず」というわけです。

―どうやって自社の経営方針を棚卸しすればいいですか。

進藤氏 販売方針、研究開発方針、購買方針、在庫管理方針など、経営に関するあらゆる方針を整理・確認することです。これらの経営方針の棚卸しが済めば、自然に自社独自の会計方針ができあがります。 たとえば販売方針なら、「一般市場に販売する形」をとるのか、それとも「お得意先の注文を受けて販売する形」をとるのかを明確にする。もし後者ならば、売上の計上基準は、検収基準でしかありえない。販売方針が決まれば、会計処理の仕方も自然に決まるわけです。

寺田氏 絶対にやってはいけないのは、経理担当者やコンサルティング会社への丸投げ。よく経理担当者やコンサルティング会社に任せきりの会社がありますが、それは絶対ダメ。経営者が経営方針を明確にしなければ、会計方針は決められないからです。 あとは、他社のモノマネもダメ。IFRSでは自社の経営方針に則って会計方針を決めるわけですから、そもそも他社のモノマネなんてありえないんです。

進藤氏 あとは実務レベルで言うと、「経営計画の策定」が重要です。自社の経営方針をもとに、実行可能性の高い計画に落とし込む必要があります。ここでのポイントは、計画年数をどう決めるかです。IFRSでは、実行可能性に基づき、将来キャッシュフローを見積もります。将来キャッシュフローの期間を自社で設定しなければなりませんが、その設定期間を5年にするか、7年にするかによって、企業価値の算定は大きく変わるんです。計画設定の考え方が、大きく変わります。実行可能性を前提での計画ですから、計画策定の考え方は、大きく変わらざるを得ません。

監査法人を選ぶ2つの視点

―IFRSが適用されることで、監査法人自体も変革を迫られると思います。実際、監査法人の業務も大きく変わるのでしょうか。

寺田氏 ええ、大きく変わります。従来ならば、監査法人は「企業の会計処理が会計基準に準拠しているか」を確認するだけでよかった。しかし、IFRSでは「企業の会計処理が経営実態に沿っているか」を評価しないといけない。企業が100社あれば、100通りの会計方針ができるようになる。定型的な答えがなくなるわけです。そのため判断すべき領域が格段に広くなります。

進藤氏 これまで会計士は「会計ルール」という自分たちの土俵で戦っていました。会計士は会計ルールにさえ精通していればよかった。しかし、今後は「企業経営」というクライアントの土俵で戦うことになる。会計士はクライアントの経営実態に精通していなければいけません。

寺田氏 言ってみれば“ホームの戦い”から“アウェーの戦い”に変わるわけです。規則主義にどっぷり浸かった監査法人は、この変化に適応する必要があります。この変化に適応できない監査法人は淘汰されていくでしょう。


―IFRSの適用に備え、監査法人をどうやって選ぶべきでしょうか。

進藤氏 2つの視点で選んでください。1つは、IFRSの本質を理解しているかどうか。たとえば、単に自社の同業他社の事例を持ってくるような監査法人はダメ。IFRSの本質を理解していないので、やめておくべきです。 もう1つは、自社の経営実態に精通しているかどうか。特にベテランの会計士が担当してくれる監査法人がお勧めです。経験が豊富なので洞察力に長けています。企業の経営実態を正確に把握し、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。

IFRSの導入を“コスト”ではなく“投資”と捉えよ

―最後に、経営者へメッセージをお願いします。

寺田氏 IFRSの強制適用まで、あと5~6年。導入までの準備期間は決して長くありません。繰り返しになりますが、IFRSの導入を成功させるには、まず経営者がIFRSの本質を理解すること。そして自ら率先して導入に取り組むことが最も大事です。

進藤氏 いま上場企業は、急ピッチでIFRS適用の準備を進めていると思います。ただ、私が懸念している点がひとつあります。それは、多くの企業がIFRSの導入を、単なる制度対応で済ませようとしていることです。「制度への対応さえクリアすればいい」と。 しかし、それではもったいない。IFRSの導入について本質的な対応をしてほしい。そして、企業はIFRSの導入を長い目線で見て、“コスト”ではなく“投資”と捉えるべきです。つまりIR戦略です。今後、ますます企業は、自社の的確なアピールが求められます。私たち監査法人はそのサポートを全力でしていくつもりです。


取材・文/丸山 広大 撮影/目黒 ヨシコ
※本コラムは「経営者通信第9号」(発行:株式会社幕末)から抜粋しています。


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監査法人A&Aパートナーズ
監査法人A&Aパートナーズ
進藤 直滋

1975年に監査法人中央会計事務所に入所。1990年から1992年までロサンゼルス事務所に駐在し、同法人の日系ビジネス北米統括担当。2007年に監査法人A&Aパートナーズの代表社員に就任。