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財務会計と管理会計によるプロジェクトマネジメント 前編  ―プロジェクト型ビジネス企業のための「プロジェクトマネジメント完全読本」 vol.004

株式会社アドライト
代表取締役 公認会計士
木村 忠昭

私はこれまで、支援先企業の上場準備プロジェクト、資金調達プロジェクト、新規事業開発プロジェクト、産学連携プロジェクト、研究開発プロジェクト、業務システム導入プロジェクトなど、企業における様々なプロジェクトに関与してきました。最近では、バイオテクノロジーや環境技術など、最先端の技術を活用したプロジェクトにも数多く関与しております。

その経験や情報を活かし、本コラムでは、プロジェクトマネジメントの様々なテーマについて、具体的な手法や最新の事例などをふまえてお伝えしていきます。

前回は、「タテ」と「ヨコ」の会計視点でのプロジェクトマネジメントについてお伝えしました。今回は、財務会計と管理会計の考え方を用いたプロジェクトマネジメントについて考えてみたいと思います。

財務会計と管理会計

前回のコラムにおいて、「タテ」の会計視点として、会計ルールに基づき、一定期間の利益を把握し損益計算書として公表したり、その一定期間の区切りである一定時点の資産・負債などを貸借対照表として公表すると説明しました。

これは、会計の分類でいうところの財務会計(制度会計ということもあります)にあたり、英語ではFinancial Accountingと表記します。財務会計の目的としては、企業の利害関係者(ステークホルダー)に対して財務諸表を通じて情報提供を行うことが挙げられます。そのため、その財務諸表は会計基準などの会計ルールに準拠した正しい内容である必要があり、各社はひとつの会計ルールに従って社内の過去の情報を開示し、利害関係者は、会計ルールを共通言語として、その開示された財務諸表の内容を利用することになります。

一方で、管理会計とは、経営や社内管理などのために、さまざまな情報を会計的に集計・分析し、社内における様々な意思決定に役立てるためのものです。英語ではManagement Accounting、Accounting for Management、Accounting for Controlなどと表記され、英語の方が意味としては分かりやすいかもしれません。あくまで社内管理資料として企業の内部で利用するためのものであるため、各企業はその業界やビジネスモデルの特徴、経営者の意向などをふまえ、独自の管理会計制度を構築します。

このあとでは、前述の財務会計に合わせて「タテ」の会計視点で管理会計を捉えていきますが、前回のコラムのような「ヨコ」の会計視点を管理会計として整理することもできます。このように、管理会計は財務会計と異なり、既定の制約がないため、自由に定義・設計することができるのです。つまり、財務会計では、どの企業も必ずひとつの会計ルールに従わなくてはならないのと対照的に、管理会計はどのような方法であっても許容され、100社あれば100通りの管理会計の方法がある訳です。財務会計と管理会計の違いをまとめると次の図のようになります。

<図1>財務会計と管理会計の違い


財務会計・管理会計とプロジェクトマネジメント

さて、このような特徴のある財務会計と管理会計をプロジェクトマネジメントの世界に持ち込むとどうなるでしょうか。

ある企業で、ある年にA・B・Cの3つの事業プロジェクトがあったとします。まずは、財務会計の視点で、このプロジェクトの損益を見てみたいと思います。財務会計では、あくまで全社の会計数値を会計ルールに基づき開示することになります(セグメント情報等は除く)。よって、プロジェクト単位で財務会計に基づく会計数値を外部に開示することはありませんが、仮に外部に開示するための会計ルールに従う形でプロジェクト別の損益を考えてみたいと思います。財務会計において、ある一定期間の損益は損益計算書を通じて、売上と費用を定められた形式に従って開示していきます。プロジェクトごとに営業利益まで開示するとして、本社でプロジェクト共通でかかった費用は仮に何らかの基準で按分し販管費に計上すると、財務会計ベースのプロジェクト別の数値は次の表のようになりました。

<図2>財務会計ベースのプロジェクト別損益

財務会計によるプロジェクトマネジメントとその限界

さて、このように財務会計ベースで把握したプロジェクト別損益を、どのように活用することができるでしょうか。例えば、プロジェクトごとに財務会計ベースで予算を策定している場合、実績値もこの図のように財務会計ベースで損益集計し、予算実績比較を行うことができます。各プロジェクトが予算に対して実績がどう進捗したかを比較検討し、その結果を踏まえたうち手を考えることによって、プロジェクトごとのPDCAサイクルを回すことができるのです。

PDCAサイクルとは、ご存じのように、plan-do-check-act cycleの略称であり、事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法です。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善することができ、これはプロジェクトマネジメントにも適用できる手法になります。

<図3>PDCAサイクルのイメージ


このPDCAサイクルで考えると、財務会計によるプロジェクトマネジメントによって、Plan(計画):財務会計ベースのプロジェクト別予算設定、Do(実行):プロジェクト別予算に基づくプロジェクト実施、Check(評価):財務会計ベースのプロジェクト別損益集計と予算実績比較、Act(改善):予算実績比較をふまえたプロジェクト別のうち手(アクションプラン)の検討実施、となる訳です。

前回のコラムでもお伝えした通り、上場企業の場合には、過去の数値は財務諸表として、将来の予測は業績予測として、それぞれ「タテ」の視点とルールで数字を外部に公表します。そして、公表している業績予測から一定の乖離があった場合には、業績修正として適時開示を行う必要があるため、企業はタイムリーに予算と実績の比較を財務会計ベースで把握する必要があるのです。財務会計によるプロジェクトマネジメントは、このような外部への業績予測・業績修正の観点からは有用な手法といえます。

一方で、財務会計によるプロジェクトマネジメントには限界もあります。先ほどの図のように、財務会計は会計のルールで集計する形式や数値が定められており、各社が重視する業績指標や財務数値(KPI:Key Performance Indicators)などは一致しない場合もあります。例えば、対広告宣伝費における売上高や利益(付加価値)、プロジェクトメンバー一人当たり売上高や利益(付加価値)など、各社のビジネスモデルにとってマネジメントすべきKPIが、財務会計ベースだと集計されず、PDCAサイクルによる業績改善に直結しないことがあり、プロジェクトマネジメントの観点からは必ずしも有用でない場合もあります。他にも、そのプロジェクトに対して一定のコストをかけた売上強化や撤退などの意思決定を行う際に、財務会計ベースの数値だと判断できない場合があるからです。

これらを具体的数値を用いて考えてみましょう。 

管理会計ベースのプロジェクト別損益と意思決定

ここで、先ほどの図2を振り返ってみましょう。プロジェクト別の営業利益をみると、Cプロジェクトが一番多く70(営業利益率7.8%)、次がBプロジェクトで55(営業利益率6.9%)、最後がAプロジェクトで10(営業利益率1.0%)となっています。

ここで、例えば、どこかのプロジェクトをひとつ撤退しなければならないという決定を行う場合、どのプロジェクトを撤退すべきでしょうか。獲得しているプロジェクト別営業利益の一番低いAプロジェクトでしょうか。または、例えば、広告宣伝費を10追加してどこかのプロジェクトの売上を200伸ばすことができるオプションがあったときに、みなさんはどのプロジェクトに広告宣伝費を追加するでしょうか。プロジェクト別営業利益率の一番高いCプロジェクトでしょうか。

結論から言いましょう。結論は、どちらも共に「分からない」です。このケースの場合、財務会計ベースのプロジェクト別損益では、プロジェクトの撤退も、広告宣伝費の追加投入も、それぞれの意思決定の影響を定量的に把握することができないため、意思決定することができないのです。これを意思決定するためには、プロジェクトの撤退した場合、または広告宣伝費の追加投入を行った場合、それぞれいくらのインパクトがあるか、管理会計ベースのプロジェクト別損益を用いて定量的に把握する必要があるのです。しかし、私が経験のある実際の企業の意思決定プロセスをみても、財務会計ベースの数値などを用いて、実際の定量的な影響を把握せずに意思決定している場合が散見されます。「営業利益が多い」「営業利益率が高い」を理由に意思決定を行うと、判断を誤ってしまう場合があるのです。このような問題を解決するためには、管理会計ベースで判断・意思決定を行う必要があります。

次回の後編では、先ほどと同じケースを用いて、定量的な意思決定のための管理会計ベースのプロジェクト別損益について、みていきましょう。

【BRO編集部解説】プロジェクト会計を実現するソリューション

※以下文章は、BRO編集部による解説文です。

会計をベースにしたプロジェクト管理は、一般に「プロジェクト会計」ないし「プロジェクト管理会計」とも呼ばれ、上場企業のみならず、上場を志向していない企業においても採用されるケースが非常に多くあります。

上場企業では、外部に公表する業績予想の精度を高めるため、個別のプロジェクト管理を必要とするケースが多いですが、一方、上場を志向していない企業においては、組織成長にともない増加した部門間の適切な評価や公平な競争を促進するため、また、社員数やプロジェクトが増加してもプロジェクト進行の手法やプロジェクトの品質を一定に保つため等の理由から、プロジェクト管理に取り組むケースがあります。

公平で客観的な定量指標をもとにしたプロジェクト管理会計を実践することは、企業がさらに成長するためのステップとして必要不可欠な取り組みであるといえるでしょう。

本コラムで紹介したようなプロジェクト管理を行うためには、すべてのプロジェクトにおいて負担されるべき共通の経費やコスト、あるいは間接原価を何らかの基準によって公平に配賦するなど、経理部門やバックオフィスに高度な業務が求められます。そのため、プロジェクト管理に取り組む企業では自社独自開発の会計システム、管理会計システムを構築したり、ITベンダーの提供するソリューションを採用しているケースが一般的です。

Excel等のアプリケーションを活用して、手作業などマニュアルフローが多く介在する形で管理を行うことは不可能ではありませんが、関連するプロジェクトメンバーが増え、組織規模が大きくなるにつれその作業は困難になります。マニュアルフローを多く含んだプロジェクト会計は、正確性、スピードの面において、経営管理に活用できるレベルに至らないことが多く、結果としてなんらかのソリューションが検討されるケースが多いようです。 

プロジェクト管理会計を実現したいというニーズは、サービス業を中心に根強いものがあり、すでに市販のシステムにおいては一つのソリューションカテゴリとして分野が確立されています。個別原価管理編、プロジェクト原価管理バージョン、プロジェクト管理統合ソリューション等の名称で製品化されているものがその代表的なものです。

各社のソリューションに搭載されている標準的な機能としては、以下のようなものが挙げられます。

・プロジェクト契約ごとにプロジェクト予算を設定することができる
・発生した売上、費用をプロジェクトに紐付けることができ、プロジェクト収支管理を行える
・会計期間をまたぐ長期プロジェクトの管理を行うことができる
・プロジェクトに階層の概念があり、下位プロジェクトの損益を集計した上位プロジェクトを作成できる
・プロジェクト進行中の仕掛原価、利益の着地見込を表示し、コスト管理に役立てることができる
・経営者、プロジェクトマネージャ、プロジェクトメンバーなど、それぞれの業務範囲ごとに必要とされる指標をアウトプットすることができる

このように、多くのユーザーの要望や意見がパッケージ化されている製品を採用することは、プロジェクト管理会計を実現する上で有効な選択肢の一つといえるでしょう。また、このようなシステムの活用を検討する以前に、PMBOKなどの体系化されたプロジェクト管理手法を学ぶことも有効ですし、各企業や団体が主催するプロジェクト管理セミナーなどに参加してみるのも、プロジェクト会計を実現するための一つの手段といえます。

 

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木村 忠昭

東京大学大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。 2008年、株式会社アドライトを創業。経営・ファイナンス等における実践的プロフェッショナルサービスを展開している。

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