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プロジェクト原価の見積手法に「王道」はない?自社独自の見積手法を構築する方法  ―ソフトウェアビジネスの会計監査の現場から vol.002

太陽ASG有限責任監査法人
代表社員 公認会計士
柴谷 哲朗

「そもそも、プロジェクト管理はどのような目的で行われるのか?」

私がソフトウェア開発を行っている会社の監査に関与し始めたころ、先輩会計士に何度も繰り返し言われた言葉です。会計上、ソフトウェアの開発中の費用は仕掛品として資産計上されますが、その仕掛品が完成時に受注額によって回収され利益を獲得できるのか、すなわち、仕掛品に十分な資産性はあるのかの検討は、会計監査上の最も重要な課題の一つとなります。

上記の先輩会計士の言葉は、仕掛品の資産性を検討する上で企業が整備しているプロジェクトの利益管理の手法を理解し、プロジェクトごとの計画利益が合理的に積算されていることを確かめることがいかに重要かを現しています。

そこで今回は、ソフトウェア開発において重要とされるプロジェクト管理について解説してみたいと思います。 なお、プロジェクト管理に関する問題は、ソフトウェア開発を行う企業だけではなく、プロジェクト別に利益管理や原価計算を行うあらゆる業種の企業にも当てはまる部分がありますので、ソフトウェア開発業以外の方も、ぜひ参考にしてみて下さい。

「利益管理」を目的としたプロジェクト管理

ソフトウェア開発におけるプロジェクト管理は、様々な目的をもって行われます。一般的なものとしては、下記がプロジェクト管理の目的として挙げられるでしょう。

  • 計画したとおりの機能を実現するため
  • 計画した期限までに完成させるため
  • 計画したとおりの利益を出すため


今回取り上げるプロジェクト管理の解説は、最後に挙げた利益管理を目的としたプロジェクト管理に関するものです。この目的で行われるプロジェクト管理は、営利企業、特に上場企業やそのグループ会社、これから上場しようとする会社において特に重要なものです。良いソフトウェアを制作することはもちろん重要ですが、できるだけ多くの利益を長期間に亘り安定的に生み出すことが上場企業の最終的な目標である以上、ソフトウェア開発のプロジェクト利益管理もそのような企業目的に合うように行われる必要があるのです。

プロジェクト利益管理の難しさ

最も基本的なプロジェクトの利益管理の手法は、プロジェクト別の収益と原価を見積もり、その差し引きから見積利益を計算し、会社として必要な利益(率)を獲得できることを確認してから受注に関する社内承認を得るというプロセスでしょう。収益の見積もりについては、顧客との交渉の過程で提案書や見積書を提出するのが通常ですので、あやふやなまま商談を進めない限り、それほど難しい問題はありません。

一方、原価の見積もりについては、難しい点が多々あります。開発を開始する時点では、顧客の要望がすべての面で把握できていない可能性があり、その場合、ソフトウェアの要件定義が十分ではないため、ソフトウェアの制作受託者が既に有しているノウハウやテンプレート、パッケージをベースにどれくらいの開発あるいはカスタマイズが必要か判断することが難しくなります。

また、ソフトウェア開発の現場においては、当初は予測できない機能上のトラブルにより開発期間が延びてしまうということは良くある話です。一方で、できるだけ正確な見積を行うために、見積もり工数を多くかけ過ぎるというのも問題です。受注が確実ではない時点で、見積もり工数にあまり多くのコストをかけることは、逆に企業全体の収益性を低下させてしまいます。このような理由によりソフトウェア開発の原価については、いかなる場合にも、見積もりの精度を完全にすることはできません。

必要とされるプロジェクトの原価見積の具体的手法 「王道」の手法はない?

では、上場企業ではどのような手法で原価の見積りを行っているのでしょうか。残念ながら、プロジェクトの原価見積の具体的手法として、どんな会社にも共通する“これ”というものはありません。自らの会社において過去から積み上げてきた経験により、ソフトウェア開発を行う上で把握できる定量的情報と原価の発生との関連性を把握し、独自の原価見積もりの手法を確立することが重要となります。しかし、上場前の会社では、自社の定量的情報と原価の関連性どころか、どのような定量的な情報が自社内に存在するかも把握できていない場合もあります。

ソフトウェア開発で利用される定量的情報の例としては、基本設計フェーズであれば、顧客との打ち合わせの回数や作成ドキュメントの項数、詳細設計フェーズであれば細分化された機能(モジュール)の数、プログラミングであればステップ数、テストフェーズであれば求められる品質の精度、それに応じたテスト件数や回数などが挙げられます。

これらの定量的情報は、あくまで例示ですから、上記以外にもプロジェクトの管理目的に適合する定量的情報があれば当該データを利用すべきことになります。肝心なのは、社内にどのような定量的情報があるのかを把握し、原価の発生との相関関係を導き出すこと、また、定量的な情報の計画値と実績値の差異の原因分析を行い、その結果に応じて原価の再見積もりを繰り返すというプロセスです。

また、ソフトウェア開発において発生する原価は、社内人員や外注先の人員の稼働 に応じて大きく左右されます。したがって、プロジェクトを実行するにあたり、どのようなランクのシステムエンジニアをアサインできるのか、外注先とどのようなフォーメーションを組めるのかを明確にし、それぞれのフェーズでどれくらいの人件費あるいは外注費が発生するのかを積算することは原価の見積もりの精度をあげる上で極めて重要な要素となります。

当たり前ですが、このようなプロジェクト管理のプロセスは、会計処理や会計監査のために行われるものではなく、あくまでも会社の利益管理のために行われるものです。利益管理を実行性あるものにするためには、会社としての利益管理方針を明確に提示し、これに応じた、組織体制、規程の整備を行うことがとても大切です。

また、プロジェクト別の収益と原価の予実比較が常に可視化され、マネジメント層がモニタリングできる業務システムを持つことも利益管理の大きな武器になります。是非、一度、定量的な情報の洗い出しは十分か、当該情報と原価との関連性の理解は十分か、これらの関連性を考慮した原価見積りの制度は確立されているか、さらには、プロジェクト別の見積り利益は常に経営陣によって確かめられているか等についてチェックしてみることをお勧めいたします。

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最後に、プロジェクト別の収益の額や原価の見積もりは工事進行基準の適用上も非常に重要な意味合いを持ちます。本コラムでは、工事進行基準の実務運用のポイントについても順次解説する予定ですので是非ご期待ください。


 

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太陽ASG有限責任監査法人
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柴谷 哲朗

平成10年公認会計士登録。大手監査法人を経て現在、太陽ASG有限責任監査法人の代表社員として活躍中。ソフトウェア、コンテンツ等の会計実務を専門としている。