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業績の維持・向上のためのマネジメント(2) ニーズとシーズの把握が会社を永続させるポイント ―「社会に期待されつづける経営」 vol.004

新日本有限責任監査法人
シニアパートナー 公認会計士
三浦 太

社会に期待されつづける経営を実現するためには、業績の維持・向上策と企業不祥事防止策を同時にマネジメントしていくことが不可欠です。今回は、社会の期待に沿って、自社の事業内容をいかに決めて企業行動を起こしていくかについて説明します。

また、最後のコーヒーブレイク特集では、スティーブジョブズ氏が、これから説明するニーズとシーズの考え方に徹底的にこだわっていた!というお話をお伝えしたいと思います。

業績の維持・向上を実現する事業内容の決め方

まずは、自社の将来の方向性(経営ビジョン)を明確に定めることが重要です。その上で、定めたその方向に沿って事業内容を吟味、選択していくべきです。

そして、事業内容を決定するのは、現場対応ではなく、あくまでも経営者の専決事項であるという認識を持つべきです。なぜならば、会社全体の将来の方向性と各事業の整合性を鳥瞰できる立場にいるのは経営者のみだからです。各事業部門や子会社の責任者は、自身の管掌する分野については専門的な知見を持っているため、一定の経営判断を行なうことはできますが、他の事業部門や子会社に関する分野についてはビジョンを設定し経営判断をすることは難しい場合が大半です。経営が組織的になってくると事案を民主的に判断しようとする傾向が生じてきますが、それが行きすぎると誰も責任をとらない、なかなか結論が出ず物事が進まない、いわゆる大企業病に会社は陥るリスクがあるので、業績の維持・向上を実現するためには、どんな会社であっても、経営者のリーダーシップによる英断が重要な企業行動となります。

したがって、経営者が経営全体について掌握し、各事業が会社の将来の方向性とずれていないか、もっと適切な行動があるかなどを吟味し、部門や子会社の責任者と念入りに協議して実際の採るべき行動を決めていくことになります。

このように事業内容の決定は会社にとって非常に重要なことであり、経営者の良し悪しに左右されるといっても過言ではありません。まさに、「経営者の実力以上には会社は成長しない」ということだと思います。

また、経営者の役割については、将来の方向性を示したのち、部門別の独自目標を掲げさせ、当該目標に基づいて各部門が行動していく過程で、将来の方向性と整合させるように導くこともあげられます。よくあるケースとして、部門別の独自目標が他部門とのあつれきになるリスクがあるため、調整が必要となるなどがあります。そこで、経営者は各部門別の動きを見て、全体最適にならない部門の方針や行動があれば、軌道修正させることが不可欠になります。

このように、経営者は将来の方向性に企業行動を近づける不断の努力を行うことによって、できる限り将来の方向性と部門別の独自目標の間にズレが生じないようにして、現場管理部門や事業責任者以下においては、将来の方向性の実現に向けて、どのように目標を設定し、事業展開するかを検討することになります。

さて、将来の方向性を明確に定めたら、それに沿って事業内容を吟味、選択します。さらに、誰に何を売るかを入念に考えることによって、自社の立ち位置(ポジション)を見定めることになります。その際に、売上の最大化ではなく、利益の獲得が有利に行えるかを検討することを優先すべきであり、そうすることで会社の永続性を高めることに繋がるはずです。

経営者の中には、早く会社の規模を大きくしたい衝動からか、売上増大を最優先にする方がいます。確かに、売上が伸びれば、利益総額も増加する可能性は高くなります。しかし、低い利益率が常態化すると会社の規模に応じた内部留保が積みあがらないため、将来に向けた設備投資、研究投資、人員拡大などがしにくい会社となり、業績の維持・向上ができにくくなる可能性が高くなります。

収益性の高い事業をいかに選択していくか、また、収益性が低くなってきた事業を縮小しながら、いかに別の収益性の高い事業を見出して軸足をその事業にシフトしていくかが、会社を永続させるポイントとなります。
 

決定した事業内容の中味をいかに点検するか

事業内容の良し悪しの判断基準としては、独自のモノやサービスとして競争優位性があることが重要ですが、自社の独りよがりなものでないこと、社会から期待されるものであることなども同時に判断ポイントとしてあげられます。

これらを踏まえて、事業内容をいかに点検するかですが、色々と考え方はあるものの、次のように考え方を整理していくと網羅的に事業内容を吟味できます。

第一に、社会の流れや顧客の「ニーズ」を把握しているかどうかを点検します。ニーズとは、社会や顧客が必要としている欲求のことと理解して下さい。第二には、他社より優れたモノやサービスに関して「シーズ」が存在するかどうかを点検します。シーズとは企業が持つ技術、ノウハウ、アイデア、人材、設備などのことと理解して下さい。

それでは実際に、事業についてニーズとシーズの条件を満たす内容になっているかをいかに吟味するかですが、まず、ニーズの把握については、CSの尺度からの点検が有益です。CSとは、 Customer Satisfactionの頭文字であり、顧客満足度のことをいい、企業の提供する財・サービスに対して顧客が顧客の基準で得られる品質や価値の度合いによりCSの水準が決まります。

顧客に満足してもらえるモノやサービスを提供できれば、自然と業績は上がり、企業の持続可能性は高まります。

次に、シーズの把握については、ニーズ重視の発想とは逆に、自社が提供できる優れたモノの販売手段を考え、売っていくという尺度からの点検になります。シーズの中でコアコンピタンスがあるものを見極め販売していくべきです。ここでいうコアコンピタンスとは、競争優位の源泉のことをいい、顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術、他に真似のできない核となる能力が含まれ、独自性があり、他社よりも競争力を持つモノやサービスです。現時点における自社のビジネスの中に、コアコンピタンスがあるか十分吟味し、経営資源をなるべくコアコンピタンスに集中すべきであり、他の分野に進出するときも常にコアコンピタンスを見出せる事業内容を厳選しながら、事業の多角化を実現することが会社の永続性を保つことになり、そのような会社運営をコアコンピタンス経営といいます。

ニーズとシーズを経営学の観点で考えるポイント

ニーズとシーズを経営学の観点から考察してみると2つの有名な考え方と結びつけることができます。

まず、顧客のニーズを反映するように自社の販売するモノやサービスを企画開発して売ることを中心に事業内容を考えることをマーケットインと呼びます。売れるニーズのあるものに絞ってモノやサービスを提供していく方法です。会社が商品開発・生産・販売活動を行ううえで、顧客や購買者の要望・要求・ニーズを理解して、ユーザーが求めているものを求めている数量だけ提供していこうという経営姿勢のことといえます。同じマーケット内に競合他社がいる場合などに適したアプローチです。その際に、顧客は価格のみならず、品質、レスポンス、接遇態度など広範な目線でニーズを持つので、顧客ニーズを十分把握したうえで販売計画を立てるべきです。

次に、コアコンピタンスのあるモノやサービスを販売する場合、自社のシーズの良さを説明し、それを反映した事業内容を展開し、積極的に顧客開拓を進め収益拡大を目指すようにすべきであり、この考え方をプロダクトアウトと呼びます。自社の持つ技術・スキルを活用してモノやサービスを作り、それに合った売り方を考え、実行する方法といえます。会社が企画・開発・製造・販売活動を行ううえで、会社都合(保有する技術・スキルを自社の論理や思想、感性・思い入れなどで提供)を優先するアプローチです。この考え方は、世の中にまだないものを周知しPRしながら提供していく場合などに適しているので、自社の独自の競争力あるシーズを反映したモノやサービスを十分把握したうえで販売計画を立てるべきです。

 昨今のようにモノやサービスが売れにくい時代においては、顧客にすり寄り少しでも多く販売できるようにひたすらマーケットインを追求する会社がどうしても多くなってしまいます。そのため、激しい低価格競争を繰り返す業界が目立ちますし、品質や内容量の水準を下げて表面的な値ごろ感を出し、手に取りやすいパッケージにするなどの手法も見かけます。

しかし、社会に役立つ革新的なモノやサービスがどんどん現れてこなければ社会の進歩がなくなってしまうので、人々の生活を向上させるようなモノやサービスを積極的に売っていく攻めの経営をする会社が社会全体にとっては必要不可欠といえます。

 したがって、自らが提案するモノやサービスをどんどん創造し、売っていくプロダクトアウトを中心に事業展開する会社が求められます。そのような会社は、他社に先駆けて事業展開するため、世の中に受け入れられれば先行者利益を得て、高い収益力を生み出す会社に発展成長する機会に恵まれる可能性も高くなるといえます。

 このように、全ての会社が同じ事業展開をするのではなく、マーケットインとプロダクトアウトのバランスをどのように取ればいいのかを入念に検討し、自社の事業内容を決め、独自性を磨くことが重要になります。

ニーズとシーズをより良く把握するためのポイント

ニーズを把握する場合、単純に顧客ニーズを吟味するだけでは持続的な成長を果たせないかもしれません。なぜなら、たとえ顧客との関係は良好であっても、何らかの社会的な批判を浴びるようなビジネスであれば、事業を継続的に行なうことに障害が生じる可能性があるからです。

昨今のように成熟社会、モノが売れない時代には会社として一度マイナスイメージを持たれると販売面に悪影響が出て、業績悪化に至ることになります。そのため、CS、つまりは顧客満足度だけではなく、より広範なステークホルダーのニーズも入念に把握し、自社が対応できる課題に全力で取り組み、社会の期待に応えることで会社の永続性を確保していくことが重要になってきます。

しかしその際に、社会のあらゆるニーズを把握し、全てに対応するということは所詮無理な話です。自社として活動可能な作業、かつ負担できるコストの範囲で、最大限努力すべきであり、そうすることで顧客だけに対応しているよりは広い視野で社会のニーズを捉えることになりますので、少しでも努力が報われるようになるはずです。

一方、シーズを把握する場合、コアコンピタンスがあることは必須条件でありますが、本当の意味で長期的に競争力を確保するためには、自社の事業展開が社会的に受け入れられることも重要であり、企業の社会的責任(CSR)を果たす努力が重要になってきます。例えば、顧客にとっては使い勝手が良いモノやサービスであっても、社会的に悪影響をもたらすような内容であると、最初は問題なく販売できたとしても最終的には社会的な批判が噴出し、販売したモノの回収やクレーム対応に追われ、業績が悪化し、会社の永続性に問題が生じる可能性が出てきます。

したがって、単純に売れるモノやサービスを提供するのではなく、公害、社会ルールに抵触する取引、自然破壊、劣悪な就業環境での製造、不十分なプライバシー対策、紛争鉱物の使用など社会的に悪影響がありそうな事象が業務プロセスの中で発生している、または将来的に発生しうるかなどを点検し、それらの検討結果で問題ないと判断したモノやサービスに特化して事業展開していくというスタンスが不可欠になります。このように、CSRまで踏まえて販売し、社会の批判を受けずに長期間事業展開することで、「永続性」が確保されるようになるはずです。

以上のように大きく分けて2つの側面から事業内容を決定していくことが肝要です。この両面から点検することができれば、社会の期待に応えつつ、業績の維持・向上を実現できる会社になることができます。

今回は、業績の維持・向上を図るために、事業内容をいかに決めて企業行動を起こしていくかについて説明しました。次回は、企業行動の選択と実施をいかに経営判断していくかについて説明します。

なお、以下は、ニーズとシーズの考え方について理解を進めてもらうために、アップル社の事例を使って説明してありますので、ご興味ある方は続けてご覧下さい。

コーヒーブレーク!「ニーズとシーズ」

米国アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は生前、マスコミのインタビューに対して「消費者は賢い」と繰り返し語っていたようです。自社のシーズを消費者に押しつけても消費者の支持は得られずモノを買ってくれないという意味であり、ニーズの把握が大事であるともいえます。そのため、アップル社の出すモノは、外観や便利な機能に徹底的にこだわり、常に消費者に感動とサプライズを提供し続けました。

一方、ジョブズ氏は「消費者は自分ではどんなモノが欲しいのか分かっていない」という矛盾するようなことも語っていたようです。これは、最先端のモノを提供する場合、世の中で誰も使ったことがないので、消費者の生活や仕事の中にどのように取り入れるかを提案し、そのモノを使ってどんな行為や経験ができるかを想像できるようにして新市場を生み出していくしかないため、そのようなモノは消費者には分からないという意味かと思います。そのため、実現可能な技術を見極めて生活や仕事のスタイルを一変させるようなシーズを自社として発掘することも大事であるということです。

また、画期的なモノではないが、例えば使い勝手が悪い、あるいは見た目や大きさなどに不満があっても、技術的に解消しようがないと皆が諦めていたモノを斬新なアイデアや新技術で解消していくこともシーズ重視で事業展開し、消費者に感動を与えることができます。これは、知恵を絞り、技術を磨くことで、既成概念を打破し、消費者に訴求していくことといえます。

このように、ジョブズ氏はニーズとシーズに徹底的にこだわり、顧客満足度(CS)とコアコンピタンスの双方のバランスをうまく採ることで、生き馬の眼を抜くIT業界の中で永らく君臨することができたのだと思います。まさに、ニーズとシーズをバランス良く見定めて事業展開すべきという本コラムで説明していることを実践した好例といえます。

したがって、社会の期待に応え、永続する会社を作るには、CSとコアコンピタンスを常に追求する経営者の真摯な態度が必要不可欠といえ、その経営者の思いを会社全体に浸透させ、世の中に感動を与えるモノを提供し続ければ、消費者に受け入れられるのみならず、広くステークホルダーに認められ、CSRにも対応して、会社の安定成長を計れるはずです。

 

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三浦 太

上場会社監査をはじめ、決算早期化、グループ管理、内部統制整備、IFRS導入、IT 統制、業務改善、事業計画・資本政策策定などの助言・支援業務を実施。大手金融 機関、大学などでの講演実績多数。