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  • 「社長の哲学」を「社員のやる気」に等価交換! 葬儀業界の革命児に学ぶ魔法の企業理念

社長の熱い想いだけではダメ!社員のモチベーションアップに成功した会社の取り組みとは…  社員のモチベーションアップ術-vol.002

机 経営労務管理事務所
所長 特定社会保険労務士 
机 秀明

今回は、様々な取り組みによって、社員のモチベーションアップに成功した弊所のクライアント企業を紹介します。

「株式会社アーバンフューネスコーポレーション」について

業種:葬儀業 業歴:10年 従業員数:80名 所在地:東京都 年商:12億5000万円

株式会社アーバンフューネスコーポレーション(以下「アーバンフューネス社」という。)は、既存の葬儀は形式的な儀式が淡々と執り行われるだけで、故人の生きざまなどが参列者に伝わらないことに疑問を抱いていた現社長が、約10年前に創業した葬儀社です。現在、故人の生前を彷彿とさせ、故人の思いを残された人々に伝えるといった特色のある葬儀と徹底したハイサービスが好評を得て、業績を拡大しています。また、元来、非常に閉鎖的な業界ですが、オープン化に努めており、同業者とのネットワークも構築し、葬儀業界全体のイメージアップ、レベルアップにも取り組んでいます。

アーバンフューネス社の課題

創業から数年は、一般的に店舗展開で顧客獲得する葬儀業の中で、中々業績は上がらず、社長の熱い思いだけが空回りしている状況が続きました。葬儀業界の体質的に、優秀な人材が集まり辛く、また昼夜を問わない不規則な仕事ということもあって、同業他社同様に社員の定着率は低い状況でした。

社長の頭の中には様々な経営哲学がありましたが、感性を主とする業務だけに社員には書面等では開示せずに、社内訓練やOJTのみで社員は何をどう頑張ったら良いのか迷っていたようでした。また、従来より職人気質の業界であり、サービスマンというより葬儀を行うだけのオペレーターになりやすく、未経験の新人などは経営方針に基づく「お客様に寄り添うサービス」を、上司や先輩から具体的な指示がなければ業務を上手くこなすことができず、せっかく残った社員も戦力といえるレベルにはなかなか到達しませんでした。

創業からただひたすらに突っ走ってきましたが、このような状況を顧みて、社長は会社の将来に強い危機感を抱き、悩みに悩んだ末、従来の経営手法を刷新する決断をしました。

具体的に取り組んだこと

(1)企業理念の策定

経営学的に、企業理念とは、「組織の行動規範、目的を示すものであり、業務判断の最後の拠りどころとなるもの」と定義されています。会社と社員個々人のベクトルを一致させ、創業前から疑問を抱いていた「形式的な葬儀を家族の想いを形にした感動的な葬儀にしたい」、という社長の思いを全社員に明確に伝えるために、それを企業理念としてまとめました。そして、朝礼や終礼、並びに月1回の全体会議の場等で、理念の意義を繰り返し社員に説明していきました。また、各部署における業務の遂行がこの理念に適っているか、継続的に検証を重ね、理念を定着・浸透させていきました。

(2)経営の見える化

企業理念の策定により、会社として進むべき方向を社員に明示し、次に取り組んだことは、理念に基づく経営目標に対する会社の現在位置を示すために、経営陣の報酬や各社員の給与以外、ありとあらゆる経営数値を全社員に開示していきました。なお、売上目標に対する達成度については、随時、全社員のパソコンへメールを送信し、リアルタイムで会社の経営状況を把握させることにしました。

(3)権限委譲

前述の土台を整えた上で、会社目標達成のために、自ら何をしなければならないかを考え、行動させるために、社員に大幅に業務の権限を委譲していきました。具体的には、会社目標に基づく各部門目標や個人目標は、全て社員の決定に委ねることにしました。また、経験が浅い社員に対しても、事前に葬儀現場のロールプレイングを軸とした社内研修を徹底的に実施することで、実際の葬儀の進行を取り仕切らせるなど、積極的に権限委譲に取り組んでいきました。

(4)会社から社員に対する積極的なコミュニケーション

上記の取り組みを効果的なものにしていくためのベースとなるものに、社内コミュニケーションの円滑化が挙げられます。特に経営側と社員側のコミュニケーションの円滑化のためには、会社から社員に対して積極的にコミュニケーションを取っていくことが重要だと考えた社長は、次のような取り組みを実践していきました。

A毎朝、社長も膝をついて社員と一緒に事務所の雑巾がけをする。

B毎日、社長が全社員の携帯電話にトピックなメッセージを送信する。

C日々、社員の人間成長を目指し、希望者に対して自己啓発勉強会を実施する。

D毎月、社長が全社員の給与明細書に、良かった点、悪かった点など、社員1人1人に対するメッセージを手書きする。

E毎月、経営側は関与せず、全社員の投票により、頑張った社員、目立った社員の表彰を行なう。

F毎月1回、朝7時30分に社長以下全役員・社員が集合して、ある月刊誌の特定のテーマ等に対する感想文を全員が発表し、意見交換を行う。

G随時、社長が選抜した社員と食事会を実施する。

H随時、会社目標達成時、新入社員の入社時等に記念イベントを行う。

I.年に数回、社員旅行とは別に、子供のいる社員向けに、日帰り旅行やクリスマスイベントを実施する。

J毎年、役員同伴の下、新入社員(中途含む)を中心に富士登山を敢行する。

取り組みの効果

企業理念が浸透していくにつれて、社員のベクトルが徐々に同じ方向に向き始め、社員が一丸となって会社目標の達成に向けて邁進していく風土が形成されていきました。そして、進むべき道標を持った社員達は、売上目標に対する達成度等の経営数値を日々確認することで、何が足りないのかを自主的に考えるようになりました。さらに、大幅な権限移譲により、何も言われていなくても部下から上司へ改善提案が頻繁に行なわれるなど、社員の経営参画意識も醸成されていき、これらの取り組みが奏功した結果、アーバンフューネス社は着実に売上を伸ばしていったのです。

アーバンフューネス社についての考察

筆者が社会保険労務士として日常的な業務で企業に関与する中で、多くの中小企業において、同族経営が多い中小企業ならではの閉鎖性ゆえ、経営者の考え方等について、秘密主義がとられている事案にしばしば遭遇します。アーバンフューネス社も同じ中小企業でありながら、これに対峙するオープンな経営を実践してきました。企業理念という道標を確立・浸透させ、それに沿った経営目標・数値をガラス張りにし、目標達成のための方策を社員の決定に委ねる、というアーバンフューネス社の一連の取り組みは、社員の帰属意識の低下を食い止め、モチベーションをアップさせた典型的な好事例といえるでしょう。

アーバンフューネス社が実施した社員意識調査の中の「仕事は楽しいですか?また、楽しいと思う場合、その理由は何ですか?」という問いに対し、「自分のアイデアによる葬儀が執り行われ、葬儀終了後、お客様から感謝のお言葉やお葉書を頂いたときに、最大のやりがい、充実感を感じるようになりました。」という回答がかなりありました。これは、権限を委譲された社員が、人に指図されたものではなく、自分自身で考え、行動した結果が、他人に評価されることに自己実現の喜びを感じている証左といえるのではないでしょうか。

経営者、人事責任者のみなさま、社員のモチベーションアップのためには、やるべきことがたくさんあります。特に鍵となる、「会社から社員に対する積極的なコミュニケーション」は大変な労力を要します。いつからやりますか?それは今しかないでしょう!!

外部リンク:株式会社アーバンフューネスコーポレーション


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机 秀明

株式会社日本政策金融公庫にて、数百社の融資・審査を通じ、多くの経営課題解決に関与。現在では、人事労務管理全般のアドバイスに主事する他、金融機関等におけるセミナー講師等、活動の場を拡げている。