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「モチベーション3.0」であなたの会社にいる消極的で、やる気のない社員に喝!  ―社員のモチベーションアップ術 vol.001

机 経営労務管理事務所
所長 特定社会保険労務士 
机 秀明

武田信玄。言わずと知れた戦国武将の一人です。戦国最強と名高い「武田騎馬軍」を率い、あと一歩で天下を手中に収めるまでに上りつめた「豪の者」と言った印象が強いかも知れません。しかし、この強さの裏には信玄の細やかな家臣掌握術が隠されています。信玄が治めた甲斐の国(現:山梨県)には、躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)という信玄の住居が残るだけで、天守閣等から構成される城はありません。これには、「人は城、人は石垣」といった信玄の哲学が貫かれている気がしてなりません。つまり、戦を勝ち抜くには堅固な城を構えるよりも、兵を育て、その能力を最大限に発揮させることの方が大事である、という考えが具現化されているのではないでしょうか。

また、「武田二十四将」と呼ばれる信玄の家臣団も高名です。信玄はトップダウン型の織田信長とは異なり、戦の戦略等を練るに当たり、この二十四将と合議して決定していきました。身分の上下のやかましい時代に、家臣団とコミュニケーションを密にし、その意見をよく聴き、優れた意見を採用することで信玄の求心力は増し、その結果、武田軍の団結力は強固となりその強さにも一層磨きがかかったのだと思います。

正に人の命を預かる戦国時代の領国経営において、信玄のような「人を大切にする」という経営手法は、現代の企業経営においてもお手本となるべきことが多々あるような気がします。信玄の生きざまに思いを巡らせているうちに、「人=社員」に焦点を当てた企業経営について、いくつかの視点からコラムとしてまとめたいと思い立ち、ペンを取ることになりました。

モチベーションとは?

バブル経済崩壊後、失われた20年の間に日本の社員のモチベーションは下降の一途を辿っています。まずはこの対策を解明すべく、「社員のモチベーションアップ術(全4回)」から始めていきたいと思います。

果たしてモチベーションとは何なのか?辞書には「動機を与えること。動機づけ。」と載っています。「欲求」と言い換えても良いかも知れません。一見単純な言葉ですが、人間の内心を表すものであり、それを他人がコントロールすることは難解なことです。これを研究したアブラハム・マズロー(※1)は、“人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである”と仮定し、人間の欲求を5階層に区分(図表1参照)しました。
この理論は、第1階層の生理的欲求(Physiological needs)から第5階層の自己実現の欲求(Self-actualization)へと、段階的に欲求が生じるというものです。


図表1:人間の欲求の5階層

社員のモチベーションは、何らかの集団に所属したいという第3階層の社会的欲求(Social needs/Love and belonging)で考察できます。これは、正に社員として会社に所属したいという欲求と言えるでしょう。この欲求が低下しているということは、他人から認められたいという第4階層の尊厳欲求(Esteem)や、第5階層の自己実現の欲求が生まれないことになってしまいます。これを例示すると、仕事の成果が会社に評価され、その結果高い報酬を得て自分の夢を実現したい、と考える者が減少しているということであり、経営の要となる優秀な人材が枯渇しつつある、という企業にとってはゆゆしき事態と言っても過言ではありません(日本にとってゆゆしき事態と言った方が良いかも知れませんが…)。

ここで、モチベーションについて別の見解も紹介しておきましょう。米国のジャーナリストであるダニエル・ピンク(※2)の提唱する「モチベーション3.0」と題する考え方で、人間を突き動かす3つのモチベーションをパソコンのOSに例えて解き明かしています。食欲、睡眠欲等の根源的な欲求を「モチベーション1.0」、金銭や名誉の獲得等、外発的な欲求を「モチベーション2.0」、ワクワク感、人の役に立ちたいと言った知的好奇心の充足、社会貢献など自発的な欲求を「モチベーション3.0」と定義しています。

これからの企業活動においては、創造的な組織を構築し、付加価値の高い商品・サービスを生み出すためには、社員が人間成長を実感できる職場環境の構築、自社に誇りを持てる企業文化の創出等、社員の非金銭的な欲求=「モチベーション3.0」に応えることが大事だと言っています。

帰属意識の低下

昨今、社会問題化しているニート、フリーターと呼ばれる者の増加を鑑みると、会社に所属したいという欲求、即ち「会社に対する帰属意識」が低下していることは論をまたないところでしょう。ではなぜ帰属意識が低下していったのでしょうか。

戦後、日本企業は終身雇用、年功序列といった日本的経営の下、社員を保護し、社員は高い忠誠心を持ち、欧米からエコノミックアニマルと揶揄される程に猛烈に仕事をこなしました。そして、復興に向け懸命に坂を上ってきた結果、日本は高度経済成長を成し遂げました。いわば「家族的経営」という日本的経営手法が功を奏した時代だったのでしょう。しかし、経済成長は徐々に鈍化し、バブル経済の崩壊を機に家族的経営は終息します。

その後、日本企業は国際社会の中で生き残りをかけ、整理解雇を断行し、成果主義を導入し、社員の自己責任を追及することで、不要な社員を排除していきました。このように、日本の労使関係は、家族の関係から契約に基づくドライな関係へ変遷していき、それが引き金となり、帰属意識は低下していったのではないかと考えます。

また、会社に対する忠誠心を持てなくなった社員は、仕事以外のことに「豊かさ」や「幸せ」の価値観をシフトさせ、ますます帰属意識が低下していったのではないでしょうか。これは、敗戦から高度経済成長という谷底から山頂に登りつめた日本人が、バブル経済崩壊を分水嶺として山を下り始めたことに起因しており、このように考えてみると、経済の上り坂世代と下り坂世代の価値観が同じであるはずがなく、自然の成り行きとして価値観が多様化してきたのであり、これからも繰り返していくでしょう。

前置きが長くなりましたが、長引く不況で高い報酬を支払うことができない現在の日本企業が、如何にして社員に仕事の達成感や自己実現の喜びを感じさせられるかが、社員のモチベーションアップのためのポイントになりそうです。現実に、この厳しい経済環境の下でも、ピンクの提唱する「モチベーション3.0」にも通じる「世界を変える」という目標が、社員のモチベーションの源泉となり、業績を上げ続けている企業もあるのです。そのためには何をしなければならないか、次回以降で考察していきます。

※1 アブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow,1908-1970)は、人間性心理学の生みの親とされる米国の心理学者。

※2 ダニエル・ピンク(Daniel H.Pink,1964-)は、クリントン政権下で、ゴア副大統領の主席スピーチライターを務めたジャーナリスト。

 

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机 秀明

株式会社日本政策金融公庫にて、数百社の融資・審査を通じ、多くの経営課題解決に関与。現在では、人事労務管理全般のアドバイスに主事する他、金融機関等におけるセミナー講師等、活動の場を拡げている。