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「情報漏えい問題」 元従業員に顧客名簿を持ち出された企業が泣き寝入りしないために  ―ベンチャー企業法務 vol.003

フォーサイト総合法律事務所
代表パートナー弁護士
大村 健

今回は、ベンチャー企業でよく発生する退職従業員の顧客名簿の持ち出しについてです。

当事務所では、よく取り扱う案件ですし、それを予防するための誓約書を作成することもよくあります。

顧客名簿の管理ができてなかったばっかりに…

X社は、株式公開を目指し、急成長したコンサルティング会社です。

X社の営業スタイルは、昔ながらのテレアポです。顧客名簿・顧客見込み名簿(以下「顧客名簿等」といいます。)は、いつどのように顧客にアプローチしたか、どういった提案をして、どのような反応であったかがかなり充実した内容で記載されていました。

X社の営業部のA氏、B氏、コンサルティング部のC氏らは、ある年の年末ころから翌年の春先にかけて順次退職していきました。

X社が異変に気づいたのは、その初夏のころでした。顧客名簿等に載っている会社からA氏らが営業に来たが、X社と違う名刺であったのでどういうことかという連絡があったのです。X社がもっと調査したところ、A氏たち退職従業員がX社の顧客名簿等を持ち出したということ判明しました。

X社はすぐさま私のところに来て、法的措置の可否及び是非を相談しました。その際、問題になったのが、X社の顧客名簿等の管理状況でした。

会社の営業秘密を法律で守る

営業秘密の保護を規定しているわが国唯一の法律は、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)という法律です。この法律では、以下の3つを営業秘密として、保護の対象としています(不競法2条4項)。

1. 秘密として管理されている(秘密管理性)
2. 事業活動に有用な技術上または営業上の情報で(有用性)
3. 公然と知られていないもの(非公知性)
 

この中で最もハードルが高いのが、秘密管理性の要件です。経済産業省の「営業秘密管理指針」によれば、その情報を客観的に秘密として管理していると認識できる状態、すなわち、以下の2つの要件が必要であるとされています。 

(1)情報にアクセスできる者を特定すること(アクセス制限)
(2)情報にアクセスした者が、それが秘密であると認識できること(客観的認識可能性) 

X社においては、施錠もしていないロッカーに顧客名簿等が保管され、営業部所属の従業員であれば誰でもアクセスが可能でしたし、特にマル秘マークやconfidentialと付されていたわけではありませんから(1)も(2)も充足していると判断するのは難しいと判断しました。

不競法上の営業秘密として保護するのが難しい場合に備えて、退職従業員から秘密保持誓約書を取得しておく必要があります。[1]誓約書を取得しておけば、これに違反して、秘密情報を開示した場合、契約違反として、損害賠償請求する余地があるからです。不競法のように差止請求や刑事責任追及ができるわけではありませんが、この誓約書は、企業の秘密情報を保護する上で非常に重要です。

 

幸いX社は、日ごろの指導が行き届いていて、A氏らから誓約書を取得してありました。

私は、ただちにX社の代理人として、A氏らに内容証明郵便で、顧客名簿等の引渡しと損害賠償を求めたところ、そのような事実はないと拒否されましたので、X社はやむを得ず訴訟を提起しました。

最初は、A氏らのX社の顧客へのアプローチの立証や損害額の立証に苦労しましたが、最終的に、顧客名簿の返却・こちらの請求額の7割近くを認める和解金を支払うことで和解が成立しました。

誓約書をとっていなかったらこのような和解を成立させることができなかったと思います。

 

[1]なお、損害額の立証軽減のため、誓約書に損害賠償額の予定を記載したり、違約金を定めることは禁止されているので注意が必要です(労働基準法16条)。

 

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大村 健

取扱分野は、ベンチャー企業法務(IPO関連含む)、IT・ネット・web・エンタメ・バイオ関連法務、会社法、金商法、M&A、知的財産法、独占禁止法・下請法・景表法、労働法、不動産関連等