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えっ?会社が傾く訴訟リスク!? 長時間労働の先にある大きなリスクとは  ―中小企業経営者の素朴な疑問 vol.002

社会保険労務士事務所 Quest Partners
代表 特定社会保険労務士
島田 猛彦

皆さんが長労働時間に関する経営リスクと聞くと最初に思い浮かべるものは何でしょう?未払残業を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。事実、平成23年度の東京労働局管内での是正結果(支払金額100万円以上の法人が対象)では、未払い残業代の遡及支払総額23億2290万円、対象労働者数17,471人、対象企業数136件、1社平均1,708万円、1人当たりに換算すると約13.3万円となり、決して小さな金額ではありません。従業員の就業管理については、どの企業でも残業許可制、残業代定額払、裁量労働制など、その対応に苦慮していることと思います。


賃金不払残業是正結果(対象企業数、労働者数、支払金額)


上記データの示すとおり、未払残業問題も無視できるものではありませんし、しっかりとした事前の制度設計と制度運営が必要になります。それでは、会社は裁量労働制などで未払残業だけの対応をとっていれば、いくらでも長時間労働させてもいいのかというと、そうではありません。

安全配慮義務とは?

労働契約法の第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められているとおり、会社には従業員に対する安全配慮義務があるとされています。労働契約法それ自体に罰則規定はありませんが、安全配慮義務を怠ったとされた場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)などを根拠に、使用者に損害賠償を命じる判例が多数存在します。

代表的な判例を挙げれば、電通事件(最高裁平成12年3月24日第2小法廷判決)ですが、この事件は長時間労働のうちにうつ病を罹患し、自宅で自殺した労働者について、遺族が会社に対し民法415条(債務不履行による損害賠償)、民法709条(不法行為)による損害賠償請求を行ったもので、最終的に1億6800万円で和解成立となりました。

最近では、精神疾患で休職される方も珍しいものではありませんし、もしかすると、皆様の職場にもいらっしゃるかもしれません。このような世の中の流れと前述の損害賠償請求訴訟などを潮目に、行政サイドも平成11年に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を策定、その後も順次見直しが図られ、最近では平成23年にも改正が実施されており、より労災の認定基準の明確化が図られております。厚生労働省から公表されている労災補償状況をみると、その増加傾向は下表のとおり明らかです。

具体的な認定基準 「精神障害の労災認定」厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf

精神障害の労災補償状況

労働者の精神障害について労災認定がなされること自体は、適正に保険関係が成立していれば、短期的に大きな経済的負担が発生するわけではありません。ただ、その後、業務上の疾病であることを根拠に、企業側の安全配慮義務違反を問う裁判に発展すれば、大きな経済的負担が発生することになります。

順調に思えていた会社経営も、長年積み上げてきた内部留保も一瞬で吹き飛ばす訴訟リスク。怖くないですか?中小企業経営は個人への依存度が高いため、どうしても長時間労働になりがちです。この厳しい時代に杓子定規に経営して生き残っていけるか?という御意見もお聞きしますし、もしかするとそれも一面事実なのかもしれません。ただ、精神障害の労災認定とそれに伴う損害賠償請求訴訟が増加傾向にあるということは、事実としてしっかり認識し、対応しておく必要があるように思います。

現代の中小企業経営には従業員をひきつける熱いハートだけではなく、その背後に潜むリスクを冷静に読み切る判断力が必要なのかもしれません。

 

【BRO編集部解説】会社を取り巻く経営リスクとリスクマネジメント

※以下文章は、BRO編集部による解説文です。

不払残業代(サービス残業)の遡及支払いや過重労働による健康障害など、長時間労働が会社を取り巻く経営リスクは多岐にわたります。中でも労働者の心身の健康に配慮しない労働管理を行い、過重労働が原因で起こる過労死、過労自殺、うつ病を発症し自殺するケースは、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。この場合、自社の名誉毀損や多額の損害賠償支払い責任を負うこととなり、コンプライアンス上も大きな問題になりかねません。

また、社員が残業や長時間労働、不規則な勤務による過重労働が理由で健康障害を招いた状態も、労災の対象となります。労災の認定には仕事と発症の関連性が総合的に判断されますが、厚生労働省は平成13年に脳心臓疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準を改正し、平成23年には心理的負荷による精神障害(うつ病)の認定基準を新たに定めました。労災の対象疾病は認定基準によって定められるため、こうした労災認定基準の緩和は、企業側の労働状態を改善する必要性をより高めるものとなりました。

そこで、リスクを事前に認識し心身ともに健康的に働ける労働環境を整備することは、会社の雇用主としての義務を果たすとともに有効なリスクマネジメントにつながります。手段のひとつに、適正な労働時間を管理する勤怠システムの導入があります。システムを導入することで労働時間を把握し、長時間労働の抑制や配慮、サービス残業の削減に役立てることができます。

リスクマネジメントの推進・徹底は会社にとって重要かつ必要不可欠であり、社員は欠くことのできない人的財産です。CSRを今一度再認識し、責任ある行動を行うことが企業価値の向上につながります。(解説:BRO編集部)

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社会保険労務士事務所 Quest Partners
島田 猛彦

平成22年 社会保険労務士事務所Quest Partnersを設立、現在は代表、特定社会保険労務士として、社会保険労務士業務全般から中小企業における評価制度の立案、実践までトータルにサポートしている。