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工事進行基準の適用要件3つのポイントとは~工事進行基準適用のための管理手法【後編】  ―ソフトウェアビジネスの会計監査の現場から vol.005

太陽ASG有限責任監査法人
代表社員 公認会計士
柴谷 哲朗

前回と今回のコラムでは、工事進行基準適用のための2つの要件に関する詳しい説明や、この2要件をクリアするための実務的な管理方法、工夫について連続して解説しています。

また、本頁の最後に「工事進行基準適用のためのチェックリスト」をご用意しています。 ぜひ最後までお読みいただき、ご利用ください。

工事進行基準適用のための2つの要件とは?

前回のコラムでは、工事進行基準適用上の「契約金額の合意」という1つ目の要件について、システム開発ビジネスの実務において判断が難しい以下のポイントについて説明をしました。

(1) 契約金額の合意時点をどの時点と判断すべきか
(2) 契約金額の合意時点以前は工事完成基準、契約書の締結により契約金額が合意できた時点以降は工事進行基準を適用するという煩雑な処理を避けるための実務的な方法はないのか

また、2つ目の「信頼性の高い制作原価予算の存在」という要件については、この要件をクリアするための精度の高い原価予算の立て方や原価の予実管理に関する基本的な考え方について説明しました。

今回のコラムでは、2つ目の要件を満たすように原価予算の見積もりの精度を高度化させるためには、実際にどのような社内体制や仕組みを整備すべきかについて例示をしていきたいと思います。

原価見積の精度を高度化するための社内体制3つのポイント

原価見積の精度を高度化するための社内体制としては実に様々なものが考えられます。以下に、その具体的な対応方法について説明をしていきますが、その全てが整備できないと原価見積が高度化できないというわけではありません。各企業の文化や既存の制度と組み合わせて目的が達成できれば良いはずですし、また、最低限の体制を整えた上で、徐々に整備を進めていくという方法も考えられます。企業がそれぞれ直面している状況に合わせて検討することが大切です。


【ポイント1】プロジェクト別予算制度の整備

当たり前ですが、プロジェクト別予算制度とは予算制度の一つです。通常、予算と言うと事業計画を達成するために作成される年度予算を指します。年度予算を達成するために月次予算が作成され、さらに、ソフトウェア開発を行う企業などでは、月次予算をプロジェクト別に詳細化したプロジェクト別予算を作成するのが通常です。プロジェクト別予算制度は他の年度予算とか月次予算と一体となり、また、関連性をもって整備・運用することが重要です。 では、このプロジェクト別予算制度をうまく機能させるために必要なことは何でしょうか。下記にいくつか例示をしながら解説を進めていきます。

(1)プロジェクト別予定原価の承認手続

最初にプロジェクト別の予定原価をたてる場面は、受注承認のときに来ます。通常、顧客への営業活動の後、正式に受注を受ける前に受注金額とその予定原価を積算し、差額である利益が企業の得ようとする利益水準や方針に合致することを確かめる手続として社内で受注承認を行った上でソフトウェアの制作を開始することになります。

ただし、このとき承認を受けた予定原価は正確性を重視した積み上げ方式の予定原価ではなく受注承認のための概算であることがあります。当然、原価の概算額によって受注承認を行うこと自体が否定されるものではありませんが、このような原価の概算額は工事進行基準を適用するために必要な精度の高い原価見積とは言えないのが通常でしょう。

したがって、工事進行基準を適用する企業では、概算としての原価見積が承認された後、再度、積み上げ方式の精度の高い予定原価が積算され、これを承認する手続が整備されている必要があります。精度の高い予定原価が承認された時点で工事進行基準の適用が開始されますが、もし概算見積のまま制作を開始する場合は、積み上げ方式の予定原価が承認されるまで工事完成基準で会計処理されることになってしまいます。

(2)プロジェクト別予算について承認を受けるべき事項

原価予算書では単に最終的な原価見積額のみが承認されれば良いというわけではありません。予算書は、以下の書類と一緒に承認される必要があると考えられます。

  • 受注額あるいは受注予定額・要素別
  • 費目別の予算内訳書
  • 予算策定の前提条件となるソフトウェアの仕様書や要件定義書 
  • 仕様や要件に基づいて設定した原価積算の仮定(定量的情報と原価発生の関連性・相関性など) 
  • ランク別の稼動予定数・稼動期間
  • 開発体制図(開発線表等)


(3)予算作成方法の標準化

(2)で記載した書類を十分に用意して原価見積書を作成・承認したとしても、見積書の作成者によって作成方法がまちまちであれば、企業全体としては原価積算の精度は上がっていきません。そのためには以下のような予算作成方法の標準化のための工夫が必要となるでしょう。

  • 予算作成マニュアルの制定 
  • 予算編成方針の提示
  • 予算作成上必要となる標準書式の制定 
  • 採用する開発手法ごとの原価積算のための各種定量的情報と標準的な原価発生額の関連性(標準的な単金等)


(4)プロジェクト別予算書の変更承認手続

開発当初の時点で、適切に原価の積算を行い予定原価の承認を受けたとしても、開発の進捗により顧客の要求する仕様が変化したり、開発体制や開発方法の変更を行うことは良くあることです。そのような場合に、適時にプロジェクト別予算書を再度作成し、社内で承認する手続は、工事進行基準を適用するために必須の体制です。適時に予定原価の見直しが行われなければ、工事進捗度の計算は正しいものではなくなり、その結果、計上される工事売上高は不適切なものとなるからです。プロジェクト別予算書の変更承認に際しては、以下のような事項が承認される必要があると考えられます。

  • 変更された予算内訳書(前回予算書との相違を説明する比較分析を含む) 
  • 変更された仕様書や要件定義書 
  • 変更された原価積算の仮定(仕様・要件) 
  • 変更された開発体制図や開発線表


また、適時に予算書が変更承認されるように、一定額あるいは一定率以上の予定原価の変更が生じた場合に予算書の再承認を行うべきことを定めた社内規程を定めることも重要になります。


【ポイント2】組織

原価見積の精度を高度化するためには、そのための組織作りも重要です。例えば、各組織に所属するSEをそのスキルからランク別に区分し、ある特定のソフトウェアの制作にどれくらいの稼動が必要か容易に積算できるような仕組みを持つことは有効なアプローチです。その他、原価見積の精度のばらつきを平準化するため、プロジェクトマネージャーの教育や社内の第三者(PMO等)による予算書の妥当性をチェックする組織を整備することも非常に有効です。


【ポイント3】規程と評価制度、その周知

プロジェクト別の予算作成方法や承認方法はきちんと規程やマニュアルにし、全員に周知することが重要です。規程化しなければ、これに準拠しない方法で精度の低い原価見積をした者がいても、改善を促すことができません。また、精度の高い原価を積算した場合には高い人事評価がなされる、逆に予定原価を大幅に超過したプロジェクトの責任者には低い評価がなされるなど原価積算の精度を向上させるための企業基盤を整備することも重要です。

工事進行基準適用&プロジェクトのリスク評価に使える、実践的チェックリスト

上記2.では原価見積の精度を高度化するための様々な社内体制について説明をしましたが、たとえそのような体制をきちんと整備しても、顧客との関係、社内開発体制など様々な事情によって精度の高い予定原価が積算できないプロジェクトが発生する可能性は十分にあります。

そのようなプロジェクトには工事進行基準は適用できないと判断する必要がありますが、その判断基準やプロセスは個別プロジェクトごとに事情が異なりますので非常に複雑になりがちです。本コラムでは、なるべく簡単に工事進行基準を適用すべきか否かの判定ができるようにチェックリストを例示したいと思います。このチェックリストはあくまでも例示です。本コラムの読者の皆様は、このチェックリストに会社の固有の状況を加味した上でご利用いただくようにお願いいたします。

なお、下記チェックリストは、工事進行基準適用のためのチェックリストとして作成してみましたが、プロジェクトのリスク評価のためのチェックリストとしても利用できます。本コラムでは何度も触れていますが、プロジェクト管理は会計処理のためだけに行われるものではありません。このようなチェックリストを利用することによって、プロジェクトのリスクを評価し、利益管理の一助となれば幸いです。
 

工事進行基準適用チェックリスト



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太陽ASG有限責任監査法人
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柴谷 哲朗

平成10年公認会計士登録。大手監査法人を経て現在、太陽ASG有限責任監査法人の代表社員として活躍中。ソフトウェア、コンテンツ等の会計実務を専門としている。