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「情けは人の為ならず」から導くビジネスの教訓  ―企業経営のヒント vol.001

あがたグローバル税理士法人
公認会計士
井口 秀昭

「情けは人の為ならず」という諺があります。辞書を引くと、「情けを人にかけておけば、それは巡り巡って、自分によい報いがくること」という解説がされています。つまり、かけた情けは他人のためではなく、最終的には自分のプラスになって戻ってくる、ということを言っています。この諺はビジネスにも貴重な教訓を与えていると、震災後の対応を見ていて感じました。

震災時にも通常の値段で売るのは「日本人」だから?

昨年の3月11日の震災直後、東北地方は商品の補給経路が断たれ、極端な物不足に陥りました。被災された人たちは食料をはじめとした日常生活に不可欠な品物が足りなくなってしまいました。売ってくれるのであれば、どんな値段でも買いたいと思ったに違いありません。したがって、商品を売る方からすれば、相当高い値を付けても売れる状況であり、その結果、いつもより多くの利益が獲得できるチャンスでもありました。ところが、コンビニなどの店舗は、商品に高値を付けることなく通常の値段で販売しました。

このことは世界の他の国々からはある種の驚きを持って受け止められたとの報道がなされました。「なぜ、日本人はせっかくのチャンスを逃すような商売をするのだろう」と言うのです。

震災時にも通常の値段で売ることの「経済合理性」

経済学的に言えば、商品の価格は需要と供給の一致するところで決まります。需要が供給より多ければ、価格は高くなりますし、逆に少なければ、価格は低下します。震災後のように供給が大きく落ち込めば、需要が供給を上回りますから、販売単価を引き上げて、利益を大きくするのが経済合理的です。ところが、東北地方の店舗では価格を引き上げずに通常の値段で販売しました。

商店側が通常の値段で売ったのは、人が困っているときに弱みに付け込んで、儲けようとするのは、人の道に反するという純粋な善意からの発想だったと思います。それでは、この行為は道徳的にだけ是認される行動で、経済的には非合理なものだったのでしょうか。いえ、私はそうは思いません。非常時においても通常の値段で売ろうとするのは、経済的にも合理的だと言えます。それは次のような理由からです。

将来キャッシュフローの最大化を考える

経営の目的は将来キャッシュフローの最大化です。問われるのは“将来”の期間です。もし、そこにおける“将来”が1週間あるいは1か月間程度の短期であるなら、需要と供給のバランスで決定される高い価格で販売するのが経済的には合理的です。顧客が買いたいと思うに違いない最高値の値札を付けて、顧客からできるだけ多くのキャッシュを手に入れて、そこから消えてしまえばいいのです。

しかし、商売する人がその地でこれからもずっと長く何十年と商売しようとするなら、話は変わります。長期のビジネスにはリピーター客が不可欠です。消費者の立場に立てば、いかに経済学的には合理的な行動とはいえ、震災のどさくさに紛れて販売価格を高くするのは、人の弱みに付け込んで、利益を確保しようという行為に見えます。緊急時には他に売ってくれる店がないのですから、やむをえずその店から買うでしょうが、平時に戻り、商品供給が豊富になれば、その店にはもう行きたくはありません。緊急時にも消費者のことを思い、商売をしてくれた店に行こうとするのが人情です。

「情けは人の為ならず」改め、「ビジネスの基礎は信用」

短期の刹那的な商売に徹しようとすれば、その時点で最も高い価格を付けるのが得策です。しかし、長期の商売を考えれば、顧客からの信頼を得て、リピーター客を増やすのが合理的です。つまり、長期の将来キャッシュフローを最大化するための基礎は顧客からの信用なのです。

震災のような非常時にも通常の値段で売ろうとする販売側の態度は、顧客との信用を形作ろうという、長期的に見れば、経済的にも理にかなった行為だと言えます。

「情けは人の為ならず」という諺はビジネスの基礎は信用だ、ということを語っていると解釈できるのです。

 

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あがたグローバル税理士法人
あがたグローバル税理士法人
井口 秀昭

東京大学経済学部卒業後、農林中央金庫、八十二銀行、タクトコンサルティングを経て、2007年に宮坂醸造株式会社の監査役に就任(現任)。2011年にあがたグローバル税理士法人に入社(現任)。

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