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経過措置って何?増税前に打つ手あり? そんな疑問が解決できる!  ―企業が避けて通れない「消費税増税」対策講座 vol.003

あいわ税理士法人
マネージャー 税理士
佐々木 みちよ

「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」とは、「孫子の兵法」の有名な一節です。

改正消費税法もまた然りです。改正消費税法を攻略するためには、経過措置の内容をよく理解し、自社の売上取引・仕入取引を分析して、消費税率引き上げと経過措置が、自社の取引にどのように影響を及ぼすことになるのかを、今から検証しておくことが非常に重要です。

適用税率の原則

改正後の消費税率は、原則として下記の「施行日」以後に行われる課税資産の譲渡等(資産の譲渡・資産の貸付け・役務の提供)に適用されます。




資産の譲渡等の時期については、従来より消費税法基本通達に下記のような基本的な考え方が定められており、これらの日が施行日以後であれば、原則として新税率が適用されることになります。


 

指定日前に契約締結することにより適用がある経過措置

上記の原則に対し、「指定日」(「施行日」の半年前の日)の前日までに契約を締結するなど一定の要件を満たすものについては、「施行日」以後の資産の譲渡等についても旧税率を適用するという経過措置が設けられています。その代表的なものには、請負工事等と資産の貸付けに係る経過措置があります。

・請負工事等



※平成9年税率改正当時の消費税法施行令では、映画の制作やソフトウェアの開発等の請負契約、建物の譲渡契約や内装工事の請負契約等かなり広い範囲の契約について、発注者や購入者の注文が付されているなどの要件を満たすことを条件に上記「請負工事等」に含むとされ、経過措置の対象とされました。

・資産の貸付



※上記の他、平成19年3月31日までに締結したファイナンスリース契約にも経過措置の適用があります。

※従来の契約が上記の適用要件を満たさない場合に、指定日前までに契約を変更して適用要件全てを満たしたならば、経過措置の対象となります。

 

自社の取引に与える影響の検証

消費税率の改正や経過措置が与える影響について、不動産賃貸業(主に事務所の賃貸)を営むA社の例で考えてみます。

・仕入側としての影響

A社の課税売上高が5億円超の場合や課税売上割合によっては、課税仕入に係る消費税額が全額控除できない場合があります。したがって、施行日以後の課税仕入で仕入税額控除を全額とることができないものには、経過措置の適用がある方がA社にとっては有益です。改正後の消費税率が適用されると、それだけ控除できない消費税額が増加することになるからです。

A社が賃借人の立場である事務所の賃貸借契約や、発注者の立場である工事・製造に関する契約を締結する予定があるのであれば、経過措置の適用を受けられるように、指定日前の契約締結が有益です。既に締結している契約が経過措置の要件を満たしていない場合、指定日前までに要件を満たすように契約変更ができれば経過措置の適用を受けることができます。

また、そもそも経過措置が設けられていない取引(固定資産の購入取引等)を行う予定があるのであれば、「施行日」前に購入する方が適用消費税率は低くなり、仕入税額控除への影響を小さく抑えられます。

・売上側としての影響

課税対象となる事務所の賃貸等については、指定日前の駆け込み需要が多くなることが想定されます。

また、既に締結している賃貸借契約が経過措置の対象とならない場合、指定日前に賃借人から契約内容変更の申し出を受けることも考えられます。従来の契約がもともと経過措置の対象となるものであるならば、契約内容はそのままで契約期間延長の申し出を指定日前に受ける可能性も考えられます。賃借人が病院・薬局等の課税売上割合が低い業種であるほど仕入税額控除額への影響が大きいため、特にその可能性が高くなるでしょう。

契約変更に関しては、A社の短期的なキャッシュフローを考えると、施行日以後の貸付けには経過措置の適用がない(適用税率が8%になる)方がA社にとっては有益ですが、預かった消費税はいずれ税務署に納付することになりますから、長期的なキャッシュフローに与える影響はありません。消費税率にこだわるあまりに、商機を逸してしまっては本末転倒です。契約内容の変更や契約期間の延長をすることによる当社側のメリット・デメリットと、顧客側のニーズとのバランスを計りながら、最善の意思決定をすることが重要です。

安倍首相は、景気動向等を勘案して今秋に消費税率引き上げを決定すると発言していますが、消費税率8%引き上げの指定日まではあと半年余りしかありません。駆け込み需要をどう獲得していくのか、顧客からの契約変更の申し出にはどう対応するのか、資産の購入等を急ぐのか先送りするのか等、的確な経営判断が求められていると言えるでしょう。

 

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あいわ税理士法人
あいわ税理士法人
佐々木 みちよ

2002年藍和共同事務所(現あいわ税理士法人)入所。大手・中堅企業への組織再編に関するアドバイス業務や連結納税導入前後の税務コンサルティング業務に従事するほか、税務専門誌への寄稿や各種セミナー講師に従事。

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