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税率引上げと経過措置が簡易課税適用事業者に与える影響は?  ―企業が避けて通れない「消費税増税」対策講座 vol.008

あいわ税理士法人
マネージャー 税理士
佐々木 みちよ

今回は、税率引き上げと経過措置が、簡易課税制度を適用している事業者に対してもたらす思わぬ負担増についてご説明いたします。

簡易課税制度とは

消費税の納税額は、自社が預った売上に係る消費税額から、自社が負担した仕入に係る消費税額(以下「仕入控除税額」といいます)を控除して計算するのが原則です。しかし、仕入控除税額を厳密に計算することに伴う事務負担を考慮して、一定の中小事業者(基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者)については、届出書の提出を要件に、簡便的な仕入控除税額の計算が認められています。この簡便的な方法を簡易課税制度といいます。

簡易課税制度では、売上に係る消費税額に『みなし仕入率』を乗じた金額が仕入控除税額とされます。『みなし仕入率』は、営む事業の種類別に、製造・建設業は70%、不動産業は50%等と定められています。

税率引上げ後に自社の売上に経過措置が適用された場合

簡易課税制度では、売上に係る消費税額と『みなし仕入率』により納付税額が決定されます。実際に負担した仕入に係る消費税額がいくらであったかは、納付税額の計算上、全く考慮されません。

不動産賃貸業を営むA社について、A社が賃貸人である賃貸借契約のすべてに対し税率引き上げに伴う経過措置の適用があるケースについて考えてみます。A社の売上に係る消費税額は、経過措置適用により税率引き上げ前と同額であることから、納付税額も税率引き上げ前と同額になります。しかし、消費税率引上げ施行日以後に発生する費用については、経過措置の適用がない限り全て新税率が適用されるため、下図に示すように、費用に係る消費税額の増額分がそのままA社の負担となります。

<図>不動産貸付業(みなし仕入率50%)の例



もともと簡易課税制度は、原則計算よりも納税額が圧縮できるメリットを享受するために選択しているはずですが、税率引き上げ後に自社の売上に経過措置が適用される場合には、そのメリットが縮小する可能性があります。簡易課税を選択している方が原則計算よりも納税額が多くなる可能性もなくはありません。

vol.003でご紹介したように、不動産貸付業や建設業・製造業などで経過措置の適用がある取引を行っている場合には、旧税率により契約を締結するために、指定日前の駆け込み需要の発生が想定されます。また、既に締結している契約が経過措置の適用対象とならない場合、経過措置の適用を受けられるように、支払者側から指定日前に契約条項の変更の申し出を受けることも予想されます。自社が簡易課税を採用している場合は、経過措置による旧税率の適用が自社の納税額に与える影響を慎重に勘案する必要があるでしょう。

【BRO編集部解説】消費税の納税を行う事業者の2区分について

※以下文章は、BRO編集部による解説文です。

今回の増税により、簡易課税方式が適用される課税事業者には思わぬ負担増がもたらされる可能性がありますが、そもそも、簡易課税方式とは何かについておさらいしたいと思います。

消費税の納税を行う事業者は、下記2つのグループに分類することができます。

 1. 原則課税方式の課税事業者
 預かった消費税から、支払った消費税を差引いて納める事業者です。原則課税方式では、課税売上割合等によって納める消費税の計算方法がさらに異なり、たとえばその課税期間における課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95%以上であれば、課税仕入れ等の税額を全額控除して消費税を計算できる95%ルールを適用することができます。

2. 簡易課税方式の課税事業者
課税事業者のうち簡易課税方式の適用を受けている事業者です。
預かった消費税の計算は原則課税方式と同じですが、支払った消費税は、預かった消費税にみなし仕入率を掛けた額を支払った消費税とみなして、納める税を簡易的に計算します。

簡易課税方式は基準期間における課税売上高が5,000万円以下の中小事業者にのみ認められている制度です。簡易課税方式を選択するためには、原則として適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。


今回のコラム本文内で解説している税率の改正に伴う”思わぬ負担増”は、2. 簡易課税方式の課税事業者において発生する可能性があります。経過措置により預かった消費税と支払った消費税の率が異なるような取引が発生する場合には思わぬ影響がでてきますので注意が必要です。

また、消費税率の引き上げに伴い納税しなければならない金額は増えるため、資金繰りへの影響は十分に考慮する必要があります。消費税は所得税や法人税と異なり、赤字でも納付する必要があるため、毎月の売上の中から一定割合を消費税預金として蓄えておく企業もあります。 

 

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あいわ税理士法人
あいわ税理士法人
佐々木 みちよ

2002年藍和共同事務所(現あいわ税理士法人)入所。大手・中堅企業への組織再編に関するアドバイス業務や連結納税導入前後の税務コンサルティング業務に従事するほか、税務専門誌への寄稿や各種セミナー講師に従事。

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