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個別原価計算により精度の高いプロジェクト管理体制を構築する  ―プロジェクト型ビジネス企業のための個別原価計算実践のポイント vol.004

株式会社アドライト
代表取締役 公認会計士
木村 忠昭

前回コラムでは、個別原価計算の2つの側面、つまり「財務会計」と「管理会計」のうち、「管理会計」の側面にスポットをあて、精度の高い管理体制構築の必要性と、その構築のプロセスについて個別原価計算を通して紹介しました。


今回は、その前提となる“個別原価”計算に焦点をあて、その内容と実務対応の要点をまとめます。

本当に「原価計算はできている」のか?

「原価計算はできている」という企業の話をよく聞いてみると、原価計算基準に準拠した形での単価設定や製造間接費の配賦が行われていない、といったケースが見受けられます。経営管理の視点からの原価計算を行っている、という意味では無意味とは言い切れないのですが、当然財務会計と管理会計の整合が求められる以上、これらを満たす個別原価計算を実施していく必要があります。そこで今回は、「原価計算基準」に基づく個別原価計算の手法をまとめます。

「原価計算基準」本文によると、原価計算の目的として、以下の5つが挙げられています。

1. 企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。

2. 価格計算に必要な原価資料を提供すること。

3. 経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること。ここに原価管理とは、原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう。

4. 予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない。

5. 経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行なわれる決定である。

「原価計算基準」本文の概説

1つずつ内容を見ていきましょう。

まず1.は財務諸表作成のため、言いかえると財務会計上、個々のプロジェクトや製品の製造原価を集計して売り上げと売上原価を対応させ、財務諸表を作成するために原価計算が必要である、ということになります。それに対して2.と3.は各プロジェクトや製品の製造原価を把握・管理し、プロジェクトや製品ごとの利益を確保していくためのものであり、4.と5.については、個々のプロジェクトや製品の原価管理や利益管理をベースにした、もう少し大きな視点での、全社的な予算実績管理や意思決定のためのものとして定められています。

つまり、財務会計においても管理会計においても、有意義な原価計算制度が、本来の趣旨における原価計算ということができます。では、個別原価計算の具体的手法として、「原価計算基準」ではどのように定められているのでしょうか。

個別原価計算の3ステップ

個別原価計算とは、最終的に各プロジェクトまたは製品のコストがいくらかかったのかというプロジェクトごとの製造原価を求める計算プロセスのことです。この計算ステップでは大きく費目別原価計算、部門別計算、製品別計算――という3段階の計算プロセスを経て行われます。間接部門の費用や、販売・管理のための費用は、製造原価ではなく販売費・一般管理費となるため、ここでは各プロジェクトには集計されないことに留意が必要です。また、原価計算は基本的に1カ月単位で実施されます。

最初のステップである費目別計算では、発生した製造原価を、大きく材料費、労務費、経費の3つに区分することになります。また、その費用が、各プロジェクトまたは製品に直接紐付けられるものなのか、そうではなくて複数のプロジェクトにまたがって発生するものなのかで、直接費と間接費に区分します。これらの組み合わせにより製造原価は、直接材料費・直接労務費・直接経費・間接材料費・間接労務費・間接経費――の6つに分類されることになりますが、間接材料費・間接労務費・間接経費はまとめて製造間接費として取り扱われます。

ここで、ソフトウェアを開発する場合に重要な費目としては、社内の開発者の人件費である労務費の計算です。よって、費目別計算のうち今回は労務費に絞って、実務上のポイントをまとめたいと思います。

労務費の金額については、「労務費単価×作業時間」で算出されるため、原価計算を正確に実施しプロジェクト管理を進めていくためには、労務費単価の設定と作業時間の区分が重要になります。

労務費単価については、分母を就業時間つまり勤務時間から休憩時間を除いた時間の合計、分子を人件費関連の費用を集計して算出します。そして、その労務費単価をプロジェクトに直接要した直接作業時間に乗じて直接労務費を算出するのです。

直接労務費は、特定の開発プロジェクトの直接費として、プロジェクトに直接集計されます。一方、手待ち時間や部門ミーティングなどの間接作業時間については、労務費単価を乗じて間接労務費として製造間接費に一度集められ、直接作業時間割合など一定の計算方法で最終的にはプロジェクトの製造原価として配賦されることになります。

 

部門別計算で製造間接費単価を求める

個別原価計算の次のステップ、つまり部門別計算について説明していきたいと思います。部門別計算を行う理由は、製造間接費をより正確に各プロジェクトに配賦するためです。そのために製造間接費を一度各部門に集計し、部門ごとの製造間接費配賦率(製造間接費単価)を求めることになります。その際、各部門の製造間接費の計算にあたっては、以下の両方の集計が必要になります。 

(1)部門個別費

(2)部門共通費配賦額

(1)の部門個別費とは、特定の部門に紐付けて把握することができる費用であるのに対し、(2)の部門共通費とは、複数の部門で発生する費用を意味します。これらは、人数や面積など、適切な基準で各部門に配賦されることになりますが、この際の配賦基準の設定も、原価計算の精度を高めるための重要なポイントとなります。

これらを合わせて部門別に製造間接費を集計し、直接作業時間などを配賦基準にして製造間接費配賦率(製造間接費単価)を設定します。部門別計算によって、より正確な原価計算が可能になりますが、このような部門別計算を実施せず、全社で1つの製造間接費配賦率(製造間接費単価)を使用する方法も許容されています。これは、部門数の数が少ない小規模の企業や、部門間における製造間接費配賦率のバラつきが少ない企業に適した方法と言えるでしょう。

製品別計算でプロジェクト原価を集計

個別原価計算での最後のステップが製品別計算、すなわち各プロジェクトや製品の製造原価を集計する段階です。

直接費については、各プロジェクトに直接賦課し、間接費については、部門別計算を実施する場合には一度部門に集計した後に、直接作業時間などの配賦基準を用いて各プロジェクトに配賦します。開発プロジェクト別の製造原価と受注額を比較することで、プロジェクト別の粗利、すなわち売上総利益が算定されますが、ここでは販売費や間接部門費などの販売費・一般管理費が含まれていないことに留意してください。このように、原価計算基準での費用集計は製造原価のみであるため、最低限必要な制度上の原価計算を行ったうえで、経営管理上、必要な情報を加えて管理会計上も有意義なプロジェクト管理体制を構築していく必要があるのです。

【BRO編集部解説】正確な原価計算は、プロジェクト管理のレベルを上げる第一歩

※以下文章は、BRO編集部による解説文です。

プロジェクト管理では、“いかにスケジュール通りにプロジェクトを進行させるか?”という「納期管理」の観点が重視されがちです。しかし、本コラムで取り上げた「正確な原価計算」が遂行されるようになると、組織のプロジェクト管理は「利益管理」というレベルへと自然に発展する傾向にあるようです。

プロジェクトごとの正確な原価が判明すると、組織の意識は予定コストと実績コストの差異へと向かいます。“どうすれば予定コストの範囲内でプロジェクトを進行させることができるのか?”という課題感は、組織に会計アプローチからのプロジェクト管理を指向させ、「利益管理」のためのプロジェクト管理を開始するきっかけとなります。正確な原価計算は利益体質の組織をつくる上での必要条件といえるのです。

やがて、プロジェクト管理が「納期管理」から「利益管理」の領域にステップアップし、これもまた実現に至ると、組織は次の段階として「品質管理」「リスク管理」なども含めた統合的なプロジェクト管理を目指していくことになります。

世の中には数多くのプロジェクトマネジメントのためのツール、システム、考え方がありますが、統合的なプロジェクト管理を目指す上で有効なのが「PMBOK(ピンボック)」です。PMBOKは統合的なプロジェクト管理を目指す組織のための知識体系であり、すでに国際標準となっています。

正確な原価計算が組織に定着した後に、統合的なプロジェクト管理を目指す上での道しるべとなるPMBOKをご紹介して、本解説の結びにしたいと思います。

【BRO編集部解説】国際標準のプロジェクトマネジメント知識体系=PMBOKとは?

PMBOKとは、プロジェクトマネジメントを効果的に達成するための知識体系であり、プロジェクトマネジメントにおける各種の手順、処理、情報管理を文書化したガイドです。プロジェクトマネージャーはこれにそって、プロジェクトチームのリソース、タスク、スケジュール管理などを行うことで、ソフトウェア開発から製造、建設まで、幅広い領域のプロジェクトを適切にマネジメントすることができます。

PMBOKは、プロジェクトマネジメントにおける47個のプロセスを、5つの基本プロセス群と、10個の知識エリアに分類しているのが特徴です。

5つの基本プロセス群とは、「立上げプロセス群」「計画プロセス群」「実行プロセス群」「監視・コントロール・プロセス群」「集結プロセス群」であり、プロジェクトのはじまりからおわりまでを網羅的にカバーするものです。

例えば「計画プロセス群」においては、プロジェクトマネジメント計画書の作成から、スコープ計画、スケジュール作成など、どの組織でも日常的に行われているプロジェクトマネジメント基本中の基本についてのガイド、手法、ベストプラクティスをまとめています。 
※スコープ・・・プロジェクトマネジメントの文脈においては、プロジェクトの範囲、成果物、それに必要な作業のことを指します。

「監視コントロールプロセス群」においては、品質管理、実績報告、契約管理、リスク監視など、プロジェクト終了後に抑えておくべき手順を網羅的におさえています。PMBOKは、納期厳守が第一となってしまい、プロジェクト品質やリスクにまで意識がまわらないプロジェクトマネージャーのレベルアップにも貢献するでしょう。

設立間もない成長企業や自社純粋培養によるマネジメントを行う組織が、プロジェクトマネジメントの標準手法を学ぶという観点では、PMBOKは極めて有効なガイドといえます。(解説:BRO編集部)

 

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木村 忠昭

東京大学大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。 2008年、株式会社アドライトを創業。経営・ファイナンス等における実践的プロフェッショナルサービスを展開している。

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