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「組織IQ」の高い企業が継続的な成長を実現する  ―企業経営と労務コンプライアンス vol.001

社会保険労務士法人 大野事務所
代表社員 特定社会保険労務士
大野 実

多くの経営者は、いわゆる会社の管理分野はコストセンターであり、例えばコンプライアンスと聞くだけで、経営の自由度を拘束する法的な規制としてイメージし、受動的な対応に終始しているのではないだろうか。実際にも、会社の成長を促進するための管理ではなく、「管理のための管理」に留まっているのがいまだに多くの実態であるかもしれない。


ところで、会社は成長なくして存続できない。成長には量的側面と質的側面があるが、いずれにせよ成長のためには絶えざるイノベーションが必要である。中国語ではイノベーションを「創新」と書くそうだが、字義通り新しい価値を創りだすことであり、このことなくして企業活力は維持できない。残念ながらそのための成功の方程式はない。


しかし、成功例も失敗例も教訓として多くのケースに広く共通する要因を生かすことで、成功の確率を上げることはできる。そのための基本が「属人的経営から組織的経営」へと変革し、持続可能な経営の仕組みを作り上げることだ。持続するとは世代を超えて存続することであり、そのためには多種多様な属人的要素を受け継いで活かすための仕組み、会社の構成員とは独立した組織基盤が不可欠なのである。


その具体的な実践には、財務・会計・総務・人事労務・製造・研究開発・営業などの組織機能の整備と、これを支える「内部統制」の仕組み造りが鍵となる。このような組織的経営を確立することで、企業価値を向上させていくことも可能となる。「コンプライアンス(法令遵守)」とは、この内部統制の基礎となるものなのである。


「経営労務とコンプライアンス」と題した今シリーズ8回を通して、「経営と労務」の原点に帰って、ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」を考えてみたい。それは、単なる法令遵守のチェックリストを超えた、会社の成長に不可欠な経営のツールであり、労務監査や労務診断、ひいては持続的に成長する会社であるのための戦略的人材マネジメントにもつながるものだと確信している。


なお、ここでは会社を、業として商品あるいはサービスを提供する法人格を付与された営利法人と想定している。経営形態の具体的な姿には、オーナー会社、株式会社、合同会社、持株会社等があり、法的構成や利害関係者が異なる側面もあるが、特段の区別はしていない。

1.成長する会社

セミやトンボは脱皮する。子供の乳歯は永久歯に生え変わる。生き物は絶えざる変身を遂げなければ成長を望めないどころか生存すら危うくなる。「会社は生き物である」と言われる。会社も持続的に成長していくためには、その時々のステージに合わせて経営システムを変化していく必要がある。

変化は環境への適応であり同時に絶えざる体質の強化でもある。変化は変革に、成長は発展へと次元を上げていく努力が必要であるが、その前提にはまず変化を受け入れなければならない。その意味では変化こそが唯一不変の真実かもしれない。

会社は一般論として、少人数の創業期に競争力のある製品やサービスを開発することで売上が増大し、それに伴う組織・人員を拡大し大きく変貌していく。しかし急速な変貌期には、事業拡大に追われて、定例的人事ローテーションまでは手が回らないことが多い。 また、退社等で人員の補充はなされても、入社以来同じ部署に在籍したままや、取引先の担当もほとんど入れ替えがなされていないケースも多い。

実務能力やノウハウが蓄積され、専門化することで、より大きなパフォーマンスをあげられるという側面もあるが、無駄の削減やリスクの回避などの組織面からの更なる効率性の追求については、見逃される点もよくある。また何よりも次世代の人材育成ができず、やがて組織が慣れと惰性に陥り、革新的な活力を持続することが困難になる。 経営者は、創業時から、競争力のある製品の開発、新規顧客の開拓、販売・購買・外注管理、資金回収、組織整備、人事管理、銀行交渉等の資金調達など、企業経営に関する事項の全てにわたって目配りしている。売上が減れば、どこに問題があるのか、利益の低下要因がどこにあるのか、製品クレームがあった時の対応の仕方など、様々な問題について、直感的に問題の所在を絞り込む能力が身についている。

経営者だけでなく、多くのベテラン社員も能力の差はあれ、これと同じことが言える。ここに属人的経営の限界、いやほとんどの企業が避けて通れないジレンマがある。経営者やベテラン社員が、病気や急な理由で退社や引退していなくなった場合、多くの企業において、パフォーマンスが低下してしまう要因がここにある。だから持続的な成長のためには、経営の組織力を養い、この最大のリスクに備える必要がある。「属人的経営から組織的経営」へ脱皮、これが持続的な成長を目指す企業経営のキーワードである。

2.持続する成長

属人的経営から組織的経営へと移行していくなかで、いかに企業体質の強化をはかり、組織的経営力を高めていくかが、持続的成長への礎を作っていくうえで決定的に重要なポイントとなる。

創業企業の実に60%が設立1年以内で倒産、5年以内に80%が倒産といわれる現実を考えれば、ある程度の年数、売上規模を築いて持続してきた企業は、やはり環境に適合して選ばれた能力を持つと評価できる。しかし、いまだに経営に関する判断基準を明文化していないことも多く、その判断基準はすべて経営陣と古参従業員の経験と頭の中にあるのが経営の現状かもしれない。

もちろん、経営は理屈だけでできることではなく、決算の数値は既に過去のものである。数字がでてきてから経営のかじ取りをしているようでは致命傷となる。数値を待つまでもなく、その時々に最善と思われる判断を積み重ねて現在まで会社は存続しているのである。

しかし、それが全て経営者や古参従業員の頭の中に積み重ねたままでは永続はできない。 上述した会社の5年後の生存率20%が高いか低いかはわからないが、会社の存続期間が普通30年くらいと世間で言われることが仮に正しいとして、30年間の生存率がかなり厳しい数値であることは想像できる。

では、どうするか?人材を「組織化」しマネジメント体制を着実に作り上げていくことである。あたりまえのことだが、これが最善の方法である。そのうえで、「組織とその人材マネジメント」を持続的な成長へとつなぐ近道が、内部統制体制を整備することである。

さて、生き物たる日本の会社の数はいまどれくらいか。直近の中小企業庁の統計によると、全国の法人企業数は、約150万社で、そのうち、上場会社数が約3,700社(0.2%)であり、約1,000社に2~3社が株式公開を果たしていることになる。 例えば、上場企業の場合には、内部統制体制の構築・運用に関して適用される金融商品取引法がある。これは上場会社を対象にするものだが内部統制のエッセンスは持続的な成長を目指す経営に共通する極めて重要なものである。

上場会社というのは、一言でいうと属人的ではない組織的な会社ということあり、極端にいえば誰が社長をやっても安定した経営がなされる組織基盤を持った会社ということである。でなければ、投資家は投資しない。「属人的経営から組織的経営への転換」に「人材マネジメントと内部統制体制の確立」を加えてキーワードが出揃った。

3.組織的経営

上場企業は、株式換金性・資金流動性が高まり、企業の成長性や収益の継続性が求められ、事業の独自性、製品・サービスの競争的優位性が求められる。株式公開のハードルは高いが、上場に要求される経営体制は、企業飛躍の契機となるものでもあり参考に価する。

例えば、上場に向けては次のような様々な取組みが必要となる。 合理的事業計画の立案、予算統制の運用、株主総会、取締役会の法令に基づく運用、組織運営ルールの整備と運用能力の確保、適正な権限委譲、税務会計から企業会計への変更、決算体制の強化(月次決算の迅速化、連結決算体制の導入)、開示体制(透明性と説明責任)の強化、内部統制・監査体制の整備・強化、コンプライアンスの強化、反社会的勢力との関係遮断などがあげられる。

その他にも投資家保護のための多くの整備事項があり、その整備度合いを確認するために、取引所等の審査や、法令に基づく外部会計監査が実施される。これらは、単なるコストの増加として捉えられがちだが、取組みによっては企業体質がより強化されコスト以上のメリットを会社は享受できる。

いったん不祥事などが発生して信用を失墜した企業事例を想像してみれば十分納得できよう。 一般に会社の能力は、「組織メンバーの資質×組織の優秀さ」で示される。組織メンバーの資質は、人材の知力、スキルなど技能である。

では、組織の優秀さとは何か。組織IQ(知能指数)の考え方を見てみよう。それは組織を「意思決定マシーン」とみなして、組織と組織メンバーとを厳密に区分する。組織の優秀性は、組織メンバーの能力とは別のものであり、その組織IQの測定要素として、

(1) 外部情報感度
(2) 内部情報流通
(3) 効果的な意思決定機構
(4) 組織フォーカス(組織方針に組織全体が経営資源を投入)
(5) 継続的革新

を掲げる。これを援用すると、組織はその構成員とは別個独立のものとして考察できる。

組織IQの高い企業は全体的に収益性も高く、人件費を高めることでの収益増加への貢献も高いとの研究がある。逆に組織IQが低い場合には人材への投資は無駄ではないまでも効果を生まないとされるので、上述の(1)~(5)の組織IQ各要素を高めるべく組織改革を遂行しなければならない。その前提条件は、環境変化を素早く察知する知的組織をつくるという経営者のリーダーシップだとされる。

次回以降、会社における組織と人材マネジメントの関係、会社組織の運営と内部統制の仕組みについて考えていく。


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大野 実

開業以来35年、経営労務監査や労務診断等を多く手がける。栄える会社のキーワードを「顧客支持」「社員活性化」「社会調和」と考え、「社員」が生き生きと働ける処遇制度やシステム構築のための設計から運用・実務に関する支援業務を行っている。