経営者の「知りたい」を解決するプロフェッショナルによるウェブメディア

  • TOP
  • BROコラム
  • 従業員のミスで取引先から損害賠償請求! 結局誰が負担するのか…気になりませんか?

従業員のミスで取引先から損害賠償請求!「きみ、これ負担してくれる?」  ―中小企業経営者の素朴な疑問 vol.001

社会保険労務士事務所 Quest Partners
代表 特定社会保険労務士
島田 猛彦

商品の配送ミス、商品の破損、誤発注に誤入力、システムのプログラムミスによる誤発注等々、企業経営の中でリスクは付きものと、頭では分かってはいるけれど実際に起こった時には、その責任の所在を他に求めたくなるものです。

企業経営者としては、「厳しい経営環境の中で苦労して給料を払っているのだから、分割してでも損害を補填して当然だ」と考えるかもしれません。逆に従業員としては、「順調時の利益は会社に入るのだから、損害も会社が負担すべきだ。」と考えるかもしれません。



今回はそんな労使間での損害賠償請求に関して整理してみたいと思います。

法律上の決まりはあるの?

まず、労働関係法令では、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」というものがあります。ただ、ここでは賠償額を予定することを禁止しているのであり、必ずしも実際に発生した損害の請求を禁止するものではありません。(昭和22.9.13基発一七)また、労働契約法第3条第4項「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」とありますが、直接的に労使間の損害賠償請求に関する定めをしたものではありません。

ということで、一般的には従業員の行為が民法709条(不法行為)、または民法第415条(債務不履行)にあたるかどうかというところから判断されることになります。


民法第415条(債務不履行) 

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。


民法709条(不法行為)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ただ条文を眺めてみると、「従業員の業務上のミス=債務者の債務不履行」にも思えますし、「従業員の業務上のミス=会社の利益を侵害している」ようにも思います。では実際の裁判ではどのような判決が出ているのでしょうか?

茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷)

この事件はタンクローリーの運転手が起こした交通事故に関する損害を会社が従業員に求めたものですが、その判決の中で

「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができるものと解すべきである。」茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決有斐閣『労働判例百選[第8版]』62頁)

として、損害及び求償請求の4分の1だけを労働者の負担として認めるという判断が示されています。

過失割合、事案の状況によって、より高い割合で労働者の賠償責任を認める判例等もありますので、一概にこのケースは○%と言うことはできません。ただ、軽過失事例で0%~30%程度の賠償責任を認める判例が多い(細谷越史「労働者の損害賠償責任」参照)こと、及び請求後の訴訟リスク、社内のモチベーションの低下等を勘案すると、軽々に「この損害分は払ってね」とは言えません。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加

このコラムは役に立ちましたか?

読み込み中 ... 読み込み中 ...
社会保険労務士事務所 Quest Partners
社会保険労務士事務所 Quest Partners
島田 猛彦

平成22年 社会保険労務士事務所Quest Partnersを設立、現在は代表、特定社会保険労務士として、社会保険労務士業務全般から中小企業における評価制度の立案、実践までトータルにサポートしている。