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企業の成長ステージに合った戦略的人材マネジメントとは  ―企業経営と労務コンプライアンス vol.002

社会保険労務士法人 大野事務所
代表社員 特定社会保険労務士
大野 実

会社は事業と組織機能とが最適になるように、職務と従業員を編成する必要がある。機能を適正な規模で組織化し、人材を配置し効率的な経営活動を常に目指す。

今回は事業特性と会社成長のステージに合わせた組織構造と人事制度を、組織構造の設計を基礎に、人材処遇制度(役割制度、業績評価制度、報酬制度)、労使関係、人材戦略の観点から考えていく。

経営のフレームワーク

会社は、広範な社会的ニーズに応え利益を獲得する営利法人として、法と社会的合意に支えられている。この枠組みは将来も経済社会の中心的役割を担うものと考えるが、現在では単に利益の確保のみならず、環境への負の影響、雇用満足度等も会社の優良度を測定する指標である。 そのために、会社は事業と組織機能とが最適になるように、職務と従業員を編成する必要がある。具体的には、財務、経理、人事、総務、製造・調達、研究・開発、営業・販売、企画、IT等の機能を適正な規模で組織化し、人材を配置し効率的な経営活動を目指す。特に、現代はITによるインフラを構築し、迅速な情報共有を図る横断的なビジネス・プロセスの整備が極めて重要である。そのうえでこそ、多様で幅広く多彩な人間行動に支えられた組織活動とその経営戦略・計画の達成が可能になる。

経営戦略は会社成長(付加価値獲得)のみならず、人材の育成・配置・代謝などの人材マネジメントの戦略でもあり、人事諸制度と組織労働の運用戦略として考えることもできる。成長をもたらす要因である付加価値生産性の点からは、資本と組織労働の扇の要となる賃金制度について、売上高、付加価値率などの経営数値と人件費との関係を見失わないことがポイントになる。

経営戦略と人材マネジメント

人材マネジメントは、目標達成のための組織の編成・運営と人員配置全般にわたるものだが、経営活動は、より本質的には、投入資本を効果的に運営して社会的に有用な付加価値の創造を目的とするもので、この目的との関係では手段である。手段は目的達成のためには柔軟で、必要に応じて極めて可変的であるべきだが、生きた人間が対象であるために特有の困難が伴う。この困難さが事業を成功に導くための醍醐味でもあるが、複雑化した会社経営においては、目的と手段の関係を見失わないようにすることが事業の成功のための大切な要因になる。

目的と手段の関係は、一義的ではなく、ある時は手段だが他では目的となると点も考慮すべきだ。例えば、経営には人材マネジメントは手段だが、人材マネジメントには人材育成は手段となる。変化の激しい経営環境に対応するには、事業特性と会社成長のステージに合わせた組織構造と人事制度が不可欠となる。 人材マネジメントの骨格は、組織構造の設計を基礎に、人材処遇制度(役割制度、業績評価制度、報酬制度)と労使関係の2つの領域に区分できる。

人材処遇制度

人材処遇制度の基本は、役割制度、評価制度および報酬制度の3つから構成される。これらは、役割=「職務(分担業務)+職位(組織上の地位・権限)」を付与した人材を組織に配置して、達成成果を評価し、その評価に基づいた対価(報酬)を支給するというシンプルなものだ。機能的にはシンプルであるべき制度も、既得権益や人間の感情、欲求などが絡みつくことによって極めて複雑な問題を生じるので、常に原点に返って運営することが重要になる。

これら3つの制度は、パラダイムの転換をするような経営環境激変の時期あたっては、設定した経営目標の達成手段として、相互に有機的にリンクして設計することが極めて重要となる。

労使関係

協業によって成立つ職場では、個別の労働力を超えて一定の秩序付けられた集団的労働力の効果的な活用が重要課題である。また経営の自立と健全性を担保するためにも、従業員の集団、団体、組織との意思疎通が不可欠である。この労使関係は、労働組合がない場合には広義の労使協議制度として労使で育成していく必要がある。

人材戦略

(1)人材:どのような経営戦略を採用し、人材マネジメントの仕組みを作っても、事業の実質を担うのは人材である。人材以外に事業を行うことはできない。人材は、組織での役割を基準にこれを大きく区分すると、次の三つに区分できる。

      1. 経営陣(社長とこれを支える経営層)
      2. 管理職(経営陣の下で日常業務をコントロールする管理・監督職)
      3. 一般職(経営陣、管理職の指揮下で実務を担う一般従業員)

このうち、事業の成否に直接責任を持ち、最大の人的資源である経営陣の養成については、経営者育成戦略として別途考察されるべき事柄である。

(2)育成:人材戦略は、経営陣の下で「組織された労働」の担い手として、業務を遂行する管理職および一般従業員の、経験の蓄積を兼ねた配属と活用の人材マネジメントを指す。仕事を通して最も効果的に人材は育つものであり、この中から将来の経営層を担う人材も育っていく。事業の実質はこれら人材の適切な組織的活動、つまり組織労働によって遂行されている。

如何に特色ある事業や優れた組織構造であっても、適材を得なければ成功への道筋は難しく、逆に適材を得れば、かなりの困難も克服できる。「人材」自体が「戦略」の時代ともいえるのである。この点について、2007年制定の米国競争力法とそれに関連する事項を見てみよう。

アメリカの競争力戦略と「パルミサーノ・レポート」

競争力の源が「人材」にあることは間違いない。2007年8月に米国で競争力法が制定されているので、「H20年科学技術白書」を参考にみてみる。この法律は、中国やインドの急速な経済発展等でますます激化する国際競争において米国の競争力優位を確保するために、研究開発によるイノベーション創出の推進や人材育成投資の促進をはかることを目的に取りまとめられた画期的なものとされる。

この法律制定の背景にあるのは、2004年12月にアメリカの国際競争力、経済成長、雇用確保を根源から支えるイノベーション力の強化についての衝撃的提言、通称「パルミサーノ・レポート」である。 そこでは21世紀型のイノベーションの環境と仕組みの変化を受けて、イノベーション力の礎となる人材、資本、インフラについての国家の総合戦略を提言している。その問題意識は「アメリカは歴史的転換点に立っている。それはかつてなかった事態、つまりグローバル競争の新段階とイノベーション自体の変質から生じている。この状況はかって経験したことのない地政学的状況でありアメリカに機会と危険をもたらしている。この新しい歴史的現実にどのように対応するのかの選択が問われている」というものである。

「地理的に、産業別にもイノベーションがどこで、どのように、なぜ、生じるのかが流動化してきた」ので「経済と社会が変化して価値の創造の仕組み、成功の尺度、競争の優位条件などで転換が生じる。21世紀においてこの変化は加速化し、その中で従来の政策、インセンティヴ、経営戦略を墨守、漸進的な組織の改革や教育課程の改善を重ねることは十分でないどころか非生産的ですらある」という認識である。

では、アメリカは何をなすべきか?「短期の経営成績に近視眼的にとらわれることなく長期的視野に立った経営計画と投資を実行して人材、資本、インフラを、21世紀のイノベーション成功のために動員すべきで」あり「進むべき道はよりオープンに、より新しい試みの遂行と未知への挑戦である。アメリカの諸組織が内向きになることなく、集権化することなく、硬直化することなく、リスク回避的になることなく、企業経営に例えれば、自由と探索をコア・コンピタンスにすべきである。イノベーションを遂行する力が競争力という果実をもたらす」との宣言である。 会社国家米国の上記の宣言は、まさに会社経営においての人材戦略とそのマネジメント方針でもあり参考となる。


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大野 実

開業以来35年、経営労務監査や労務診断等を多く手がける。栄える会社のキーワードを「顧客支持」「社員活性化」「社会調和」と考え、「社員」が生き生きと働ける処遇制度やシステム構築のための設計から運用・実務に関する支援業務を行っている。