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会社の不正は防げるか?不正リスク対応基準(仮称)を考える  ―フォレンジック会計で組織の利益を守る vol.004

監査法人アリア
監査法人アリアコラム担当

今回は、フォレンジック会計とは直結しませんが、会社不正について考えてみたいと思います。

去る12月11日、金融庁は「監査における不正リスク対応基準(仮称)(案)」を公表しました。この基準(案)の内容を確認しながら、監査と不正について述べていきたいと思います。

「監査における不正リスク対応基準(仮称)(案)」とは?

監査における不正リスク対応基準(仮称)(案)(以下、「不正基準(案)」という。)は、金融庁所管の企業会計審議会においてまとめられ、12月11日の会議資料として提出・公表されました。

不正基準(案)設定の趣旨は、オリンパス等の会計不正に対して、公認会計士監査が有効に機能していなかったことから、より実効的な監査手続を求める、というものです。併せて、上位規定である監査基準も改訂を予定しています。

不正基準(案)の要求事項としては、次のようなものがあります。

1.不正リスクのある部分については、より強い監査上の証拠を得ること

2.抜打ちでの監査手続などを検討する

3.残高確認状の回答が不十分な場合には、安易に他の手続で代替しないこと

4.不正リスクの程度に応じて、専門家の利用を検討すること

5.基準の適用は、平成26年3月決算に係る財務諸表監査から

1.より強い監査上の証拠

この要求事項により、監査人は、不正が存在するリスクに関連する項目について、より強い証明力のある監査証拠の入手が必要とされます。具体的には、「よくわからない点があったものの、金額的にそれほど大きいものでなかったことから監査上は突っ込んだ検討をパスした」というような、監査人の言い訳を認めませんよ、ということになるでしょう。

この点は、監査人の注意義務が少し大きくなったものと考えられます。

2.抜打ちでの監査手続

これは、「監査人は、財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合には、抜打ちの監査手続の実施、往査先や監査実施時期の変更など、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になる」というものです。

一見、監査人に強い権限が与えられたようにも見えるかも知れませんが、新たな権限が付与されるわけではなく、実施すべき手続が増えただけです。監査人に強制捜査権はありませんから、抜打ちで訪問予定のない日に突然訪問したら、会社から非難ごうごうでしょう。このような抜打ちでの監査は、協力体制を前提とする公認会計士監査において、現実的ではありません。

ところで、監査人は監査対象会社から報酬をもらっていながら、その会社の財務諸表を批判的に検討するという、ねじれた立場にあります(「インセンティブのねじれ」といわれるものです)。

会社としては、高い監査報酬を支払っているにもかかわらず、面倒な注文をつけられたくありません。うるさい監査人とは監査契約を更新しないという選択をする会社があっても当然です。あずさ監査法人から新日本監査法人へ交代のあったオリンパスのケースが、これにあたるのではないかという勘繰りも、容易に浮かんできます。

また、監査人としては、監査基準の要求事項を満足することは当然としても、会社から契約を打ち切られることのないよう、会社に気を遣って監査を行うことになります。

この点、内部統制監査・四半期レビューが開始された数年前などは、監査法人も業績がよく、リスクの高い会社との契約を打ち切るという強気の営業姿勢をとっていた時期もあります。不正防止の観点からはよかったかもしれませんが、法定監査を受けなければならないにもかかわらず監査契約の受け手がいない会社が発生するという事態が生じました。

内部統制監査導入による監査法人バブルが去った後は、大手監査法人であっても業績が悪化し、採用を控えたり、リストラが行われてきました。このような状況では、大口のクライアントは離したくないというのが監査法人の本音ですから、会社に対して強い主張をしにくいことになります。

大口のクライアントの粉飾可能性に遭遇した場合、監査人は、監査契約終了(監査報酬減)による監査法人の経営リスクと、後になって会社の粉飾が判明した場合などのダメージ(業務停止命令等)を天秤にかけることになるかもしれません。もっとも現在は、昔に比べ、後者の方が大きくなっていますから、監査人が不正を容認するインセンティブはかなり低くなっています。

3.残高確認状の回答

オリンパスの監査人の確認手続においては、やや不可解な経緯がありました(気になる方は同社公表の調査報告書をご覧ください)。不正の兆候を見逃さないよう、または、監査人の言い逃れを認めないために、監査人の義務を重くしたものです。

4.不正リスクの程度に応じて、専門家の利用を検討

この場合に利用すべき専門家とは、誰でしょうか。基準(案)に例示されているのは、金融商品の評価、企業価値評価、不動産の評価、不正調査、IT等に関する専門家です。

これらのうち、不正調査の専門家としては、民間資格の公認不正検査士が注目されはじめているようです。ただ、現実的には、財務諸表監査に精通している必要があることから、公認不正検査士資格も有している公認会計士が、ここでいう専門家に該当することになるでしょう。

不正対応の議論が高まったまま今後も推移すれば、極端に言えば、公認会計士試験の試験内容に犯罪学や刑事法の内容を加えるべきという意見が出てくるかもしれません。監査制度の担い手は増々変容していくかもしれませんね。

以上の事項をまとめると―

不正基準(案)の印象としては、監査人の義務が従来より重くなっています。不正があればどこかに矛盾点という形で兆候が現れるため、そのような兆候に留意しなさい、又は、兆候を見て見ぬ振りは許しませんよ、というメッセージが伝わってきます。

公認会計士監査は、会社のガバナンスの一部に過ぎません。「何か怪しい」と感じても、強制捜査権がないために最終的には監査役への情報提供で終わってしまう、というような監査の限界があります。そのため、不正基準(案)が適用されても不正の根絶は難しいのではないかと思います。

では、監査人に強制捜査権を与えたら丸くおさまるでしょうか。ある監査人が強制捜査を行って不正を発見したとしましょう。

社会的な評価としては「それくらい当然だ」ということになります。翻って、その監査人の別のクライアントからすれば「危険な存在」と認識されることになるでしょう。監査契約を打ち切られて監査人の監査収入は減少し、監査法人としての経営が立ち行かなくなります。

つまり、監査人にとって、現行制度のままで強制捜査権のみ付与されても、強制捜査権の発動にはメリットがなく、監査の限界の打開には不十分です。また、現実的には、民間人に過ぎない監査人に強制捜査権を与えること自体、難しいでしょう。

 

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監査法人アリア
監査法人アリア
監査法人アリアコラム担当

2006年設立。国内外の企業の適正評価(デューディリジェンス)に対しても高い評価を得ており、国内では数少ないフォレンジック会計に強い監査法人としてお客様を強力に支援している。