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「株価を知って己(時価)を知る」 株価の算定方法と時価を学ぶ  ―後戻りできない!上場における資本政策の重要ポイント vol.005(最終回)

朝日ビジネスソリューション株式会社
代表取締役 公認会計士
蜂屋 浩一

株式上場における資本政策とは、現状の株主構成をスタートとして上場までの資本構成がどのように推移していくのかのシミュレーションを行い、適正な資本戦略についての考え方をまとめることをいいます。

前回のコラムでは、代表的な資本政策の手法についていくつか紹介させていただきました。

今回のコラムではそのうち株取引による資本政策を取り上げます。特に「株価」に焦点を当て、上場審査における「時価」の意味合いや、取引の留意点などをわかりやすい例を用いて解説していきます。

株価の考え方

(1)上場準備会社の株価

株価は株式の取引価格ですから、取引する相手同士が合意すればどのような株価がついても問題はありません。もちろん無償で譲渡(贈与)しても違法ではありません。ただし、時価以外の株価で取引をすると課税関係が生じることがあります。しかし、仮に税法で定める時価以外の株価で取引したとしても、課税関係さえ受け入れれば特に問題はありません。税法で定める時価で取引すれば課税関係も生じず、全く問題はないのです。

さて、一般的な会社の株式であれば上記の通りなのですが、これが上場準備会社の株式となると必ずしもそうはいかず、「時価」で取引することが求められます。とくに上場直前々期、直前期、申請期の第三者割当増資や株式譲渡についてはその内容を上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)に記載しなければなりません。そして、この間の株価については上場審査の対象となります。もちろん、上場準備会社であっても会社法や税法の取り扱いは一般の会社と全く同様ですので何か法的な問題があるわけではないのですが、上場審査の過程で合理的な説明のできない株価での取引は認められないことがあり、注意が必要です。

ここで「時価」とは何かが問題となります。「時価」は取引時点での客観的な企業価値であり、税法上の時価とは別のものとして考える必要があります。顧問税理士が税務上の観点からお墨付きをつけたとしても上場審査の観点からは問題となることがあるのです。

「時価」は業績が順調に推移していれば上場準備期間にわたって右肩上がりになっていくはずです。これに反して株価が下がったり、また同時期に複数の株価がつくことは合理的な説明が難しいことが多く、問題とされることが多いようですので、事前に主幹事証券会社等に相談しておく必要があります。

また、直前々期以降の増資や株式譲渡においては第三者専門機関による株価算定書が求められることもあります。

(2)第三者割当増資の株価

資本政策の前半期には主としてオーナーが出資することが多いと思われます。この場合にはできるだけ安い株価で出資しかつ課税関係が生じないようにすると良いでしょう。よって、所得税法上の時価を「時価」として第三者割当増資を行います。この場合、オーナー以外にも同時に割り当てる際の株価はオーナーと同額にしなければなりません。よくあるケースで解説します。

<設例①>
Aオーナーが1株当たり5万円で第三者割当増資を行うことを計画している。同時に知人Bと取引先C社にも株式を割り当てたいと考えているが、B及びC社には1株当たり8万円で引き受けてもらうことで合意した。


このケースでは同時期に2つの株価が存在することになりますが、上場審査では認められないと思われます。同時期に2つの株価5万円と8万円が存在することが説明できないからです。


 <設例②>
Aオーナーは1株当たり5万円で第三者割当増資を行った。この翌年、知人Bと取引先C社に1株当たり8万円で株式を割り当てた。その後、再びAが1株当たり5万円で株式を引き受けようと考えている。

このケースはまず、BとC社の株価8万円についてはAの5万円からの上昇の合理性を説明できれば問題ないでしょう。しかし、その後8万円から5万円に下落することについてAの利得行為ではなく合理性があるということを説明するのは困難と思われ、一般的には認められないと思われます。

資本政策の中後期には、ベンチャーキャピタルからの出資を受けることもあり、この場合には会社から見ればできるだけ高い株価で引き受けてもらうことが望ましいでしょう。ただし、このときシェア確保のために同時にオーナーも株式を引き受けることがありますがその株価はベンチャーキャピタルへの割当株価と同額でなければなりません。従業員や役員に株式を割り当てる場合も同様です。したがって、シェアの確保や従業員等への株式の割り当ては資本政策の前半期で株価の安いうちに行っておくことが望ましいのです。「資本政策は後戻りできない」と言われるのはこのことです。

(3)株式譲渡の株価

株式の譲渡を行う場合、株式の譲渡承認を必要とする会社であれば取締役会で決議が必要となりますが、この場合でも譲渡株価については決議する必要はありません。よって、本来であれば課税関係は別にして譲渡当事者間で自由に株価を合意して決めることができるはずです。しかし、直前々期以降の期間における株式取引はすべて「時価」で行われるべきであるという原則から、たとえ当事者間が合意しても「時価」以外での取引は認められないことが多いようです。

よくある事例として次のようなケースが考えられます。

<設例③>
株主D(取得原価1株当たり5万円)が個人的な事情で株式を手放したいと申し出て、AオーナーがDの取得原価である1株当たり5万円で買い取ることで合意した。当該会社の直近の増資は1株当たり10万円で行われた。

直近の増資により「時価」は1株当たり10万円になっています。このときにAとDが個人間で合意して1株当たり5万円で取引することは認められないことがあります。この点は主幹事証券会社に相談する必要があります。

このように一見問題なさそうな取引でも上場審査上では問題視されることがありますので注意が必要です。顧問税理士が大丈夫といっても後で問題視されることがあるのです。

株価算定の方法

「時価」は取引時点の企業価値を表すものです。この企業価値を算定する方法はいくつもの種類があり、会社の状況や取引目的に応じて合理的な方法を選択しなければなりません。以下、代表的な株価算定の方法を紹介します。

(1)純資産価額方式

企業のストックとしての純資産に着目して、企業の価値及び株価を算定する方法であり、最もポピュラーな方法といえます。この方式によって算出された株価は、企業の静態的価値を示し、貸借対照表を基に算定するためその計算は理解されやすく、比較的客観性を確保しやすいというメリットがあります。一方で、企業の過去の実績の蓄積のみで算定するため企業本来の収益性や将来性は加味されないというデメリットがあります。

(2)収益方式

企業のフローとしての収益等に着目して、企業の価値及び株価を算定する方式であり、次の2つの方法が一般的に用いられます。

  1.収益(または利益)を基礎として展開する収益(または利益)還元法
  2.収益を資金上の収入として展開するDCF法

この方式によって算定された株価は、組織体としての企業の動態的価値を表し、継続企業の株価を算定する場合、理論的に最も優れた方法といわれています。その反面、その算定過程に将来収益の予測という不確実な要素が混入するために算定の客観性を確保しにくいという短所もあります。

(3)比準方式

上場会社のうち算定対象会社と業種、規模等が類似する会社(類似会社)の株価、または算定対象会社が属する業種の平均株価との対比により、対象会社の株価を算定する方式で、対比する株価により以下に分類されます。

  1.算定対象会社と(ア)事業内容、(イ)企業規模、(ウ)収益の状況等で比較的類似するとみられる
    複数の上場会社の株価と対比する類似会社比準法
  2.算定対象会社が属する業種の平均株価と対比する類似業種比準法

この方式によれば、現実に株式市場での取引で形成されている株価と算定対象会社の評価額との整合性を保つことができるのですが、類似会社選定が困難であったり、類似業種の範囲が広すぎて会社の特徴が反映できないことがあり、合理的な適用が難しいケースが多いようです。

最後に

これまで5回に渡り、「上場における資本政策の重要ポイント」というテーマで、資本政策のシミュレーションにおいて押さえておくべき大切なポイントをお話してきました。

表題の通り、資本政策では後戻りができません。後悔しないためにも、事前によくシミュレーションを重ねて、最適と思われる計画を策定する必要があります。細かい部分については専門家に相談するのがよいと思いますが、まず資本政策の立案のためのグライドデザインを描くにあたり、本コラムが役に立てば幸いです。

最後までお読み頂きました読者の皆様、誠にありがとうございました。 

 

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朝日ビジネスソリューション株式会社
朝日ビジネスソリューション株式会社
蜂屋 浩一

2002年朝日税理士法人立ち上げに参画。上場企業から中堅・中小企業まで幅広くサービスを提供している。税務・会計、組織再編、株式上場支援、事業承継など幅広いジャンルのコンサルティングで活躍中。