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儲からないワケは「スライス&ダイス」で一目瞭然  ―”確実に”利益を伸ばすための損益管理術 vol.001

有限責任監査法人トーマツ/トーマツベンチャーサポート株式会社
公認会計士/アドバイザリーサービス事業部長
木村 将之

「利益を如何に上げるか」は経営者に課せられた最重要課題ですが、売上は伸びているが利益が伸びないという相談を数多く受けます。そのため、今回のコラムシリーズでは企業規模が拡大する中、いかに損益管理体制を構築し、利益を伸ばすかというポイントについて考えます。

損益管理は一般に以下の流れで行われます。



損益管理を行う第一歩として、全社の損益のどこに課題があるかを発見しなくてはなりません。そのためには、全社の損益データを様々な視点から分析する必要があります。一般的にデータ分析をする手法として、「データを様々な角度から切り取り、サイコロの目に切り出す」スライス&ダイスという言葉がありますが、損益管理にもこの考え方を適用することが有効です。そのため、第1回目の今回は、数値例を用い、スライス&ダイスの考え方に基づき損益管理単位を設定する方法について考察します。

「利益率25%を目指している会社」をスライス&ダイス

利益率25%を目指している会社の損益計算書で、検討してみます。

表1 損益計算(全社)


第1期は利益率30%と見事目標達成。しかし、第2期は売上を拡大したものの、利益率が目標の25%(100×25%=25)を下回った上に利益も減少しています。何が業績悪化の原因だったのでしょうか?まず、事業という切り口を軸として考えてみましょう。


表2 損益計算(事業別)


事業毎に分割すると、どの事業の損益に問題があるか一目瞭然で、B事業に課題があるようです。ここで更に踏み込み、B事業の課題を特定するためには、スライス&ダイスの考え方を用い、様々な角度から損益データを分析することが有効です。損益の改善を考える上での分析軸として 1.サービス 2.組織 3.マーケットを考えます。
サービス別損益は、サービスの収益性を加味したサービス販売戦略やサービスの原価設計を考える上で、組織別損益は組織毎のパフォーマンス評価を考える上で、マーケット別損益は販売戦略のうち、エリアや重点得意先を考える上で、有用なデータを提供します。

各分析軸に基づき検討する際は、実務上はまず第一に軸の深さを検討します。例えば、組織という軸一つを考えても、数値を部門で切り出すのか、課、チームまたは個人で切り出すのか等、様々な軸の深さが考えられます。軸の深さを決定する際に、最小の損益管理単位である個人別に数値が切り出せるようにしておけば、チームや課や部門といった更に大きな単位での集計も可能となるため、会社としての最小の損益管理単位を決定することが重要となります。

例えば、個人別に損益の集計を行った場合、売上の成績が個人別に把握でき個人の業績評価が行いやすいというメリットがあるものの、費用の集計では直接的個別的に対応する項目が限定的となるため、間接費を配賦する基準をいかに設定するかが重要となります。特に、管理単位毎に把握された損益を業績評価と連動させる場合には、管理単位では管理できない間接費用を管理単位に配賦し負担させることにより、評価に納得感が得られなくなるおそれがある点にも留意が必要となります。

組織を例にとって考えましたが、1.サービス 2.組織 3.マーケットそれぞれの軸としてどのような深度の軸を採用するかについては、各企業のビジネスの形態、費用の発生態様を十分に考慮し決定していくことが必要になります。

本コラムではサービス別として個別サービス組織別として部門マーケット別として個別の取引先企業という軸を設定し、損益分析をする際に軸を用い損益実績を分割把握することにより、どのような実態把握が可能になるか数値例を用いて検討します。

今回の分析対象企業の前提

今回分析を行う仮想企業の前提です。

前提1 B事業-サービス別販売の状況


前提2 B事業-組織別販売の状況


前提3 B事業-得意先別販売の状況


前提4 販売状況まとめ
(縦軸がサービス、横軸が販売先、マスの中が販売主体)

スライス&ダイス1 ―サービス別損益計算

Aサービスの部門費負担 [2=甲2(6÷3)]
Bサービスの部門費負担 [6=甲2(6÷3)+乙4(4÷2×2)]
Cサービスの部門費負担 [4=甲2(6÷3)+丙2]
※部門費の按分は、各部門の販売サービス数でサービス毎に負担させている 

表3 損益計算(サービス別損益)

サービス別損益では、Aサービス及びBサービスはある程度の採算が取れていますが、Cサービスは採算が悪いことが分かります。部門費の影響を除いたサービス利益率を考えても、Aサービス及びBサービスのサービス利益率が25%を超えているのに対し、Cサービスのサービス利益率は25%を唯一下回っており、利益を生みにくいサービスであることが分かります。会社の目標とする25%の利益率達成という観点からは、Aサービス、Bサービスを重点的に販売するか、もしくはCサービスの利益率を改善すべきであることが分かります。

スライス&ダイス2 ―組織別損益計算

甲の売上 [33=A14 B 8 C11]
乙の売上 [16=B16(8×2)]
丙の売上 [11=C11]

表4 損益計算(組織別損益)

組織別に考えた場合は、売上高の絶対額が必ずしも多くないものの乙部門がハイパフォーマンスであることが分かります。一方、丙部門の利益率が低いことはもちろん、売上高の最も大きい甲部門が目標の利益率25%に達していないことにも注目が必要です。原因としては、甲部門ではサービス利益率の低いCサービスの販売のみを行っているためと考えられます。このように、利益率の良いサービスを販売することが重要であるかが分かります。

また利益額を追求するという観点からは、利益率より利益額で評価を実施した方が、組織を適切に動機付けることができると考えられます。具体的には、甲部門及び乙部門が利益率の低いCサービスを追加で1つ販売した場合の損益を考えます。

スライス&ダイス3 ―組織別損益計算(甲・乙部門がC商品を追加で1つ販売した場合)

甲部門及び乙部門がC商品を追加で1つ販売した場合の部門別損益

表5 損益計算(組織別損益)

Cサービスを追加で2つ販売したことにより、全社の利益は11から15に4増加していますが、甲部門の利益率21%から20%に、乙部門利益率は25%から22%に低下しています。このように利益率だけで部門の業績を評価してしまうと全社的に最良の動機付けとならない点にも留意が必要です。

また、先ほども述べたように、組織別の損益は、業績評価と結びつけられることが多いと思いますが、組織に発生する費用の多くは短期的には固定的であるので、項目の管理可能性を考慮した上で評価を実施することが重要となる点にも合わせて留意が必要となります。

スライス&ダイス4 ―マーケット別損益計算

表6 損益計算(マーケット別)

得意先別にみると取引先のXに問題がありそうなことが分かります。今回の例題では、得意先毎の取引価格を一定に設定していますが、取引規模の大きい相手先について値引き等を行うことが考えられるため、得意先毎にしっかりと利益率が確保できているかを検討することが重要となります。

得意先別に考える場合も、利益率だけではなく、利益額も勘案することが重要となります。取引規模の大きい相手先について値引き等を行う場合、利益率はあまり高くなくても会社にとって重要な利益額をもたらしていることがあるからです。この例の場合でも、利益率の目標を達成しているYからの利益は2と全体の20%にも及ばず、Zからの利益7が全体の60%超を占めています。そのため、利益率が高くない相手先であっても金額の多寡を勘案し、すぐに得意先としての重要性を下げるのではなく、むしろ金額の大きい先の利益率をいかに改善していくかが重要なポイントとなります。

次回は分析後の「目標設定」と「改善」について

今回は、B事業損益を様々な軸で分割しましたが、B事業ではサービス別に考えるとCサービスに、組織別では丙部門に、マーケット別にはX相手の取引に課題があることが分かります。

このように、損益実績の課題把握のためには、全社の損益のデータを1.サービス別 2.組織別 3.マーケット別等様々な角度で分割し分析することが有効であることがお分かりいただけたかと思います。

次回は、1.サービス別 2.組織別 3.マーケット別等の軸により把握した損益に対し具体的にどのように目標設定を行い改善していくかについての留意点に踏み込んで解説をしていきます。


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有限責任監査法人トーマツ/トーマツベンチャーサポート株式会社
有限責任監査法人トーマツ/トーマツベンチャーサポート株式会社
木村 将之

2007年有限責任監査法人トーマツ入社。50社を超えるスタートアップ・ベンチャー企業を支援し、20社以上のファイナンスを成功に導く。2012年1月 トーマツベンチャーサポート株式会社 アドバイザリーサービス事業部長就任、現在に至る