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  • スタートアップを乗り越えた経営者、次に取り組む仕事は5つの前提をふまえた「管理体制の構築」

スタートアップからブレイクスルーしたベンチャー企業の内部管理体制

有限責任監査法人トーマツ
公認会計士
前田 昌太朗

『起業してから3年、一昨年リリースしたサービスのビジネスモデルが固まり、取引先も増え事業が回り始めた。ベンチャーキャピタルから数千万円の調達も実施した。いよいよスタートアップから抜け出し、取引量も従業員も急激に増え始めている。

一方で、決裁を求めるメールの山。5,000円以上の購買の決裁は社長決裁で、取引先の与信管理、債権管理、契約書の管理、残業管理も全部自分で行っていた。サービスリリースは間近、開発は佳境を迎えている。ミーティングで一日のスケジュールは埋まる。そんなときに、大口の取引先の資金が、指定された期限に支払われない。調べると契約書が正式に取り交わされていなかった。

中国、シンガポール、インド、ヨーロッパ、ニューヨーク、シリコンバレーと世界各地を回り、世界に通じるベンチャー企業を目指していた頃と比べて、目の前の管理に追われる日々。いつから先をみなくなっただろう。』


上記のストーリーはフィクションですが、筆者の伺ったさまざまな話を統合したものです。 ベンチャー企業とは、さまざまな定義はありますが、革新的な技術、マネジメントにより新しいマーケットを創出したり、既存マーケットのルールを変更しシェアを大きく獲得していくなど、「成長を前提とした組織」です。

プロダクトがリリースされ、ビジネスモデルが固まり拡大期に入るときには、ヒト、モノ、カネ、情報の流通量が急激に増加します。内部管理の体制を特に意識せず成長した場合、社長は社内のすべての決定を行っているケースが多いのではないでしょうか。その場合には、各社内資源の流通が滞らないようにするため、日々の管理業務に追われることになります。

スタートアップからブレイクスルーするまでに会社が成長した場合には、経営者が自ら行っていた管理業務を組織的に行えるよう内部管理体制を構築することで、経営者は本来集中すべき業務に注力することが可能となります。内部管理体制の構築は、組織的、計画的な経営の実践であり、事業継続や収益確保、ベンチャーキャピタルなどの投資家や金融機関への報告のための一助となります。

管理体制の構築「5つの大前提」

内部管理体制は、「組織がその目的を有効・効率的かつ適正に達成するために整備され、組織内部で運用されるルールや業務プロセスであり、組織のすべての者により遂行されるもの」です。法律や制度などで決められたフレームワークがあるものではなく、自社の実現するビジョン・ミッションに対応したビジネスモデルに合わせて構築していくことになります。この内部管理体制を構築するための大前提は次の通りです。  

1.ヒューマンエラーや不正は必ず起こることを前提とする

2.内部管理体制の整備は、経営者だけでなく、結果として組織で働く人々すべてを守るものである。
3.経営者や会社が大事にしている規範・信念・文化を、組織作りやルール作りに反映する。 
4.
ルールは実現可能なものとする。
5.
守れないルールはつくること自体が有害となる。

内部管理体制の構築のためには、この5つの前提を基に、次の3つの目標を達成していきます。

管理体制の構築「3つの目標」

【目標1】
組織の見直し、次には日常業務の見直し、最後にモニタリングの仕組みの導入


組織の見直しは、属人的経営から脱して組織的な経営を実現させ、相互牽制が働き、業務を効率的に遂行できることを目指します。ポイントは役割分担の明確化(業務分掌)と権限と責任の明確化(職務権限)です。

業務分掌とは、各組織単位の分担業務の内容を明確にすることです。ポイントは、次の3点です。

1.
相互に内部牽制が働くように、業務を分割して部門を割当てる。
2.特定のヒトではなく、会社に必要な業務から部門を考える。
3.
全社に効果が及ぶ部門(経営企画、内部監査など)については、社長直属とする。

職務分掌とは、各職位の職務に伴う権限と責任を明確にすることです。ポイントは、次の3点です。

1.現場の機動性を勘案し、思い切って権限委譲する。
2.権限を委譲しても責任は回避できないため、定期的に報告を受けてチェックする(事後発見的なチェック)。
3.重要な取引について権限委譲せず、自らが承認行為を行う(事前予防的なチェック)。

組織の小さなベンチャー企業においては、兼任となるケースが多くなりますが、部門を越えた兼務(ヨコの兼務)は原則として避ける必要があります。一方で、部門内の兼務は実情において判断します。経営者がすべての業務を担当する体制から脱却するためには、以上を意識した組織作りが必要となります。

【目標2】
日常業務の見直

内部管理体制の確立には個別業務管理の整備が不可欠であり、普段の業務の中で正しく仕事が流れる仕組みが大切です。そのため、日常の業務のなかでチェック機能を組み込むことがポイントになります。 上長による承認(予防)及びモニタリング(発見)を組み込んだり、物品の購入時に発注は現場で行うが支払業務は経理部が行うなど相互牽制の働く組織にしたり、ダブルチェックの実施や、情報システムの活用(ワークフロー機能、自動照合機能など)が挙げられます。

【目標3】
モニタリングの仕組みの導入

すべての業務において想定している状況にあるのかどうかをモニタリングし、要改善事項を是正することを目的としています。IPOを目指す段階では独立した部門を作成し、専任者を置くケースが多くなっています。一方で、いまだその段階に達していない場合には、経営者が自ら行うことが考えられます。 社長が得意としない分野については、その分野に強い社外取締役に定期的にレビューをしてもらうという方法も考えられます。

管理体制の構築は「自社サービスの価値を高める」

成長過程のベンチャー企業において、きまった内部管理体制の構築パターンはないため、他社例に求めすぎず自社に合った形を模索することが重要です。また日常業務の見直しでは、内部管理にかかる日常業務のみならず、顧客との接点となる日常業務を上手く抽出し顧客がプロダクトやサービスを購入した際の体験価値を高められるように、一連の日常業務のプロセスをデザインすることで、提供するプロダクトやサービスの価値を高めることにつながります。


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有限責任監査法人トーマツ
前田 昌太朗

2005年有限責任監査法人トーマツ 入社。 2012年1月以降、 トーマツベンチャーサポート株式会社にて、多くのベンチャー企業に向け事業提携支援、 PR支援、資金調達のサポートを行っている