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シャープから学ぶ「経営危機予防法」  ―企業経営のヒント vol.010

あがたグローバル税理士法人
公認会計士
井口 秀昭

取引銀行から課せられた必達目標である昨年度下期営業黒字達成は果たしたものの、家電大手シャープの苦境は続きます。本業は本当に回復するのか、9月に到来する2000億円の社債償還資金は大丈夫なのか、など問題は山積みです。家電業界の雄として名をとどろかせていたシャープが、なぜこのような苦境に陥ってしまったのか。シャープは日本を代表する大手企業ですが、一般の会社でも参考となるシャープから学べる経営危機の教訓を考えてみましょう。本稿では「選択と集中」と「銀行との付き合い方」を取り上げます。

選択と集中

経営資源が無限にあれば、儲かりさえすればあらゆる分野に手を出しても構いません。しかし、経営資源には限りがあります。選択と集中とは、高い利益を上げるために、不得手な分野は捨て、会社が最も得意とする分野に、有限な経営資源を集中させる経営手法です。シャープは選択と集中の手法で最も成功した企業の一つだと言われていました。

シャープが得意とするのはいうまでもなく液晶です。シャープは他の分野を捨て、液晶に経営資源を集中しました。三重県の亀山に大規模な液晶パネル工場を建設、それは「亀山モデル」として高く評価されていました。しかし、地デジ化の終了に伴う国内テレビ需要の急減と韓国や中国などの急速な追い上げで液晶の収益が下降すると、他に代替分野を持たないシャープは、一気に経営危機に追い込まれてしまったというわけです。

ダメになった会社はつぶれ、元気な新しい会社が参入することにより経済を活性化させればよい、というのも市場主義における有力な株式会社論です。しかし、会社間の労働力移動が簡単ではない日本においては、働く従業員のことを考えれば、会社は存続してもらわなければ困ります。そう考えると、選択と集中は怖い選択です。

選択と集中は最も得意とする分野に経営資源を集中するのですから、短期的には利益を極大化させます。しかし、環境変化には脆弱な戦略であることも事実です。自社が得意とする分野が社会に受け入れられなくなったときに、代替する手段を持たないからです。選択と集中を成功させるためには、社会の動きを常にウォッチして、自社の技術力や経営力を見極めながら、次々と集中する分野を選択し、変えていかなければなりません。それには相当な経営能力が必要となります(たとえば、アップルのスティーブ・ジョブズのような)。そこまで経営能力に自信のない経営者は多少収益を落としても、何かのときに備えて、経営資源をいくつかに分散しておくのが無難だということになります。

銀行との付き合い方

現在のシャープの生殺与奪のカギを握るのは銀行です。今の財務体質では資金の出し手が銀行しかないからです。銀行の判断基準において、支援することが再生を助け、銀行の貸出金が健全債権に回復するかどうかという、経済合理性が最も重要ですが、心情的問題も無視できない要素です。

報道によれば、液晶絶好調時のシャープは銀行に対して余り友好的ではなかったようです。当時のシャープは財務体質優良でしかも資金需要が旺盛ですから、銀行としては願ってもない貸出先です。逆にシャープにとっては、銀行からの借入金は重要ではありませんでした。市場から社債でもコマーシャルペーパーでも、銀行より低利でいくらでも調達できたからです。好況時には力関係は企業が上になります。

しかし、業績が悪くなると市場からの資金調達は突然ふさがれ、頼れるのは銀行しかなくなります。銀行とすれば、業績がいいときは相手にしてもらえなかったのに、業績が悪くなったからといって、急に支援を求められても困る、というのが正直な思いでしょう。

業績が困難の時、助ける力があるのは銀行です。業績が悪くなる時のことも考えれば、好調時にも相応の銀行との付き合いもしておいた方がいいということができます。

保険をかけておくべきかどうか

短期的な収益だけを考えれば、経営資源は最も儲かる分野に集中すべきですし、資金調達も最も有利な市場で行うのが経済合理的です。しかし、長期的に業績が落ち込むこともあるかもしれないと考えれば、経営資源はある程度分散しておくべきであるし、多少金利がかさんでも銀行との付き合いも維持しておくべきだということになります。

それに伴う経費もバカになりませんが、その経費は一種の保険と考えられます。その保険をかけておくべきかどうかも経営者の重要な判断事項です。

 

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あがたグローバル税理士法人
あがたグローバル税理士法人
井口 秀昭

東京大学経済学部卒業後、農林中央金庫、八十二銀行、タクトコンサルティングを経て、2007年に宮坂醸造株式会社の監査役に就任(現任)。2011年にあがたグローバル税理士法人に入社(現任)。

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