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「Eディスカバリ」って何ですか? ―訴訟大国アメリカに学ぶグローバル企業に必要な危機管理

株式会社Ji2
代表
藤澤 哲雄

「訴訟」という言葉を聞いて、どのように感じられるでしょうか。「なるべく関わりたくない」、「話し合いの方が良いのでは」などネガティブなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。では「グローバル化」はどうでしょうか。こちらは、「安くて良いものが増えた」、「格差が広がった」などプラス・マイナス両面の意見があるように思います。

訴訟とグローバル化

グローバルでビジネスを行う場合に避けて通れないのが、独占禁止法や海外腐敗行為防止法などの海外政府調査や特許訴訟などにおける、Eディスカバリというルールです。日本の屋台骨であるモノづくり企業は、グローバル化は進めたものの、海外における異なるルールへの対応に苦慮しているのが現状です。独占禁止法の課徴金や特許訴訟の賠償金は、弁護士費用も含めて高額です。その上にEディスカバリの費用が数千万円、数億円単位で加わるのです。

日本企業の米国訴訟件数

近年、米国訴訟などに関わる日本企業の件数が急増しています(表1)。大まかに捉えると、「米国訴訟の中の10%から20%は日本企業が当事者となっている」ことになります。一方、米国の訴訟市場を見ると、売上800億円以上(以下1ドル80円で計算)の中堅以上の米国企業が、平均的に抱える訴訟件数は147件にのぼります(表2)。訴訟費用は、1件当たり1.2億円と言われ、米国の上位500社が1年間に支払った訴訟費用は17兆円で、純利益の33%に該当するというデータもあります。日米の人口当たりの弁護士の人数を比較すると、人口は日本が1.2億人、米国が3億人と約3倍の違いにとどまる一方、弁護士の人数は、日本の3.2万人に比べ、米国は100万人と30倍近い差があります。

これらから、米国は訴訟大国ともいえ、米国企業は、多数の訴訟経験にもとづき、体制を整えています。世界的に活動する日本企業は、Eディスカバリの体制整備、ノウハウ習得が急務となっている訳です。
 

表1 日本企業の米国訴訟件数

出所: AtVantage、米国際貿易委員会のウエブサイトをもとにJi2作成


表2 米国企業の訴訟                        (概算、$1=¥80) 
 
出所: e-Discovery for Dummies、弁護士白書をもとにJi2作成

Eディスカバリとは

ではEディスカバリとは何でしょうか。Eディスカバリは、電子情報のディスカバリをいい、電子証拠開示とも訳されます。Eディスカバリを理解するためには、まず前提となっている米国のディスカバリ制度を把握する必要があります。

ディスカバリの制度は、1938年の連邦民事訴訟規則(FRCP)の制定以後、実施されており、訴訟の当事者がお互いに必要な情報を開示しあう仕組みです。1990年代の半ばまで、約60年間、ディスカバリの手続きは、ほとんど同じように行われました。訴訟の当事者から集めた紙の文書を段ボール箱に入れて、弁護士事務所に運び込み、証拠書類を確認するという形でした。

ところが1990年代のオフィスのIT化とインターネットの普及により、事情は一変しました。企業の作成する文書の大半が電子情報となり、ディスカバリの仕組みに電子情報を取り込まざるを得なくなったのです。当初は紙のディスカバリのルールを解釈して対応していましたが、電子情報に特有の様々な問題が提起されるようになります。

決定的な分岐点となったのが、2003〜2005年のズブレイク判決です。シーラ・シャイドリン判事が、数百ページにわたる5つの判決でEディスカバリの基礎を形作りました。ズブレイク判決を契機として、2006年12月に連邦民事訴訟規則が改正され、Eディスカバリが本格的に普及する土台が整備されました。その後、Eディスカバリは、電子情報の拡大とともに、判例が積み重ねられ、様々なテクノロジーが導入され、大きな発展を遂げています。

ズブレイク判決による電子データの定義 (Zubulake v. UBS Warburg, 2003-2005)

Eディスカバリにおける電子情報は、ズブレイク判決により初めて定義がなされました。この判決は、Eディスカバリが確立されていなかった2003〜2005年当時に、雇用差別をテーマに争われました。シーラ・シャイドリン判事により、5つの判決の中で、(1) どのような電子情報が、ディスカバリの対象となるのかを明確にし、(2) 電子情報を回復し提出する費用の当事者間での負担方法を整理し、(3) 要求された電子情報の提出義務違反に制裁を課す場合の基準が、確立されました。

 ■事実関係

被告UBSウォーバーグの元社員であった原告のズブレイク氏は、被告のマネジャーが原告に対し、性差別や報復行為をしたとして、提訴しました。原告は、事件のカギとなるEメールが被告のバックアップテープその他のアーカイブメディアにのみ保管されていると主張したのですが、被告は、ディスカバリ用にバックアップメディアから復元するためには、弁護士費用を含むレビュー費用の他に17万5千ドルの費用がかかるため、ディスカバリ義務を負わないと主張しました。

 ■ディスカバリ対象の電子情報

シーラ・シャイドリン判事は、電子情報は、保管形態により表3の5つに分類され、最初の3つは「合理的に入手可能」な情報源として要求された側に提出義務があるとしました。残りの2つは、「合理的に入手不可能」な情報源とされ、当時は要求した側にも費用負担が必要とされました。なお2006年の連邦民事訴訟規則の改正後は、合理的に入手不可能なデータは、原則、ディスカバリの対象外となっています。
 

表3 Eディスカバリにおける電子情報の分類



■裁判所の判断

最終的に、裁判所は、バックアップテープの復元費用につき、原告に25%、被告に75%の負担を命じ、その他の費用はすべて被告の負担としました。この判例はEディスカバリにおける様々な論点に対して、Eディスカバリの基礎となる考え方を確立した点で、現在でも最も参照されています。

終わりに

株式会社Ji2では、eDiscovery Blogなどさまざまな情報を発信しています。そちらの情報も合わせてご参照ください。

http://www.ji2.co.jp/

本稿がグローバルビジネスの一側面である、Eディスカバリを理解する一助となれば幸いです。

 

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藤澤 哲雄

2001年にJi2, Inc.(米国カリフォルニア州)を設立。日米台に拠点を構え、リーガルテクノロジーとデジタルフォレンジックのサービスを提供。