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オープン・イノベーション時代のプロジェクトマネジメント ―プロジェクト型ビジネス企業のためのプロジェクトマネジメント実践のポイント vol.012

株式会社アドライト
代表取締役 公認会計士
木村 忠昭

私はこれまで、支援先企業の上場準備プロジェクト、資金調達プロジェクト、新規事業開発プロジェクト、産学連携プロジェクト、研究開発プロジェクト、業務システム導入プロジェクトなど、企業における様々なプロジェクトに関与してきました。最近は、大企業とベンチャー企業と三者で連携してのサービス(プロダクト)開発や、大企業がよりよくサービス開発できるようになるための業務プロセス改革などのプロジェクトにも数多く関与しております。その経験や情報を活かし、本コラムでは、プロジェクトマネジメントの様々なテーマについて、具体的な手法や最新の事例などをふまえてお伝えしていきます。

今回は、企業の外部のノウハウやリソースを取り入れて新規事業や研究開発を成功に導くオープン・イノベーション(Open Innovation)のプロジェクトマネジメントについて、今までの我々の経験をふまえお伝えさせて頂きます。

オープン・イノベーションの台頭

オープン・イノベーションの提唱者であるヘンリー・チェスブロウ教授によると、オープン・イノベーションとは、企業の内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造する、イノベーションを促進するための知識の移出と移入の意図的な活用のプロセスと定義されています。20世紀の終わりごろから、米国を中心に、技術やノウハウをすべて自前(社内)で賄うのではなく、企業の境界を越えた技術やノウハウの連携による新規事業や研究開発を行うオープン・イノベーションの動きが活発になり始めました。

最近では、人材の流動化や働き方の多様化、また技術シーズや事業シーズを元にゼロから事業を立ち上げるベンチャー企業(スタートアップ企業)の台頭や、そのベンチャー企業へ資金を提供するベンチャーキャピタルの投資活動の活発化などにより、企業の垣根を越える動きが更に加速しています。また別の観点では、シェアリングエコノミーや各種規制の緩和など、これからの新規市場開拓のためにリスクを許容・コントロールしながらチェレンジすべき蓋然性も高まっており、それを企業間の連携によりバランスを取りながら解決しようという動きもあります。

更には、インターネットテクノロジーの目まぐるしい発達や、インダストリー4.0に代表されるような新しいテクノロジー観や産業観など、事業展開のために必要とする技術やノウハウのバリエーションが広がり、またIoTやビッグデータなど、それら技術やノウハウが互いに連携しあうようになったため、企業内外のリソースを柔軟に組み合わせる必要性が高まっています。このような背景により、日本においても、オープン・イノベーションによる新規事業や研究開発を積極化する企業が増えてきています。

オープン・イノベーションの4分類

さてここで、オープン・イノベーションを、ダーランダー教授のフレームワークにより、縦軸に社外から社内か社外から社内かという方向性(inbound or outbound)、横軸に金銭的・営利的かどうかという方向性(pecuniary or non-pecuniary)で全部で4つの象限への分類を行ってみてみましょう。

図:オープン・イノベーションの4分類


① 買収型オープン・イノベーション(Acquiring)

この分類は社外の技術やノウハウを、お金をかけて社内へ取り込むオープン・イノベーションです。具体的には、個別の研究開発案件の外注や、ビジネスアイデアやスタートアップピッチの公募型コンペ、外部の知的財産の自社での商用利用などが挙げられます。

② 販売型オープン・イノベーション(Selling)
この分類は、社内の技術・ノウハウを、お金を得て社外へ切り出すオープン・イノベーションです。具体的には、カーブアウトによる自社技術や自社ノウハウの新しい企業としての切り出しや、自社が持つ知的財産のライセンスアウトなどが挙げられます。

③ 協調型オープン・イノベーション(Sourcing)
この分類は、社外の技術やノウハウを、お金をかけずに社内に取り込んだり、緩やかに連携するオープン・イノベーションです。具体的には、オープンソースやクラウドソーシングの活用、他社との共同プロジェクトの推進など、フラットに外部リソースとうまく協調しイノベーションを進めていく方法が挙げられます。

④ 開拓型オープン・イノベーション(Revealing)
この分類は、社内の技術やノウハウを、お金を得ずに社外へ提供したり、緩やかに連携するオープン・イノベーションです。具体的には、オープンソースへの貢献や業界標準への参加や推進活動など、業界や技術の発展を通じて長期的な視点で利益還元を行う方法などが挙げられます。

買収型オープン・イノベーションにおける実行プロセスプロジェクトマネジメント

前述のような区分で、オープン・イノベーションは全部で4種類に分類することができますが、ここでは現在の大企業のオープン・イノベーションの主流となっている、①の買収型オープン・イノベーションにおける実行プロセスとプロジェクトマネジメントについて、もう少し考えてみましょう。

図:買収型オープン・イノベーションの実行プロセス

 

まず、買収型オープン・イノベーションは、こちらの図のように4つの実行プロセスで進めていくことができます。それぞれ順番にみていきましょう。


1.買収型オープン・イノベーションで取り組むテーマの決定
まず、社内の事業開発や研究開発のプロジェクトの中で、オープン・イノベーションの手法を活用して取り組むテーマを決定します。この際に、例えば全社の中期経営計画と現在の社内リソースを見比べ、そのギャップを分析して足りないリソースを抽出し、その中で買収型オープン・イノベーションによって取り組むべきプロジェクトを検討してゆく方法があります。

その際に、例えばライフサイクルを考慮し、その中で成長期や成熟期にある技術やプロダクトに対して買収型オープン・イノベーションを行うことにより、効果的な事業開発を行うことができます。具体的には、この図のうちⅡ成長期にある技術やプロダクトの場合には、まだ市場全体に技術や製品がいきわたっていない状態であるため、特定の外部リソースと個別契約などにより守秘性や独占性を比較的保持した状態でオープン・イノベーションを行うことが効果的です。また、Ⅲ成熟期にある技術やプロダクトの場合には、その技術やプロダクトが浸透している状態であるため、Ⅱの成長期の場合よりもよりオープンに、例えば公募型などで広く外部リソースを募ってコンペ形式などによって絞り込んでゆく方法も考えられます。

一方で、その技術やプロダクトがまだⅠ導入期にある場合には、社内でそのノウハウを保持し、クローズドに差別化を徹底してゆくタイミングであり、逆にその技術やノウハウが浸透しきったⅣ衰退期においては、さらに広く企業買収や企業間連携によるロールアップによりボリュームを追い求めスケールメリットによるコスト戦略による勝負になると考えられます。



2.対象とする外部の技術やノウハウなどの探索・選定

前段の実行プロセスにおいて決定された、買収型オープン・イノベーションで取り組むプロジェクトについて、次は、取り込む対象となる外部の技術やノウハウの選定を行います。その際の対象として、特定の技術やノウハウを保有するベンチャー企業(スタートアップ企業)とオープン・イノベーションを行う場合を考えてみましょう。

最初のリストアップとアプローチにおいては、その領域に広くフラットなネットワークを持つ企業やプレイヤーと進めることが効果的です。なぜなら、自社のみで進める場合は広く外部企業にアクセスできないリスクがあり、一方で特定のスタートアップに利害関係を持つ企業やプレイヤーと進める場合には、公平な選定の阻害となり自社にとって最適な対象企業を選定できないリスクがあるからです。

リストアップした企業候補の中から事前に定めた一定の基準により第1次の絞り込みを行った後は、第2次の選考として、個別の面談を行ったり、場合によっては守秘義務契約書(NDA)を締結した上で、そのオープン・イノベーションのプロジェクトにおいて外部企業への依頼する要件をまとめた提案依頼書(RFP)を事前に準備・提供し、その提案依頼書に従った提案を受けて評価を進める場合もあります。候補となる外部企業の評価においては、企業自体や提案内容など、事前に定めた評価軸に従って最終的に候補となる企業を選定します。公募型などで広く外部企業を募ってコンペ形式などによって絞り込んでゆく場合にも、最終的には同様の評価方法で企業の絞り込みを行います。

候補となる企業が選定された後は、実際のプロジェクトに入る前に契約締結を行い、個別契約などにより守秘性や独占性を比較的保持した状態でオープン・イノベーションを進めていきます。その際には、契約形態(請負か準委任かなど)、内容、期間、金額、その他条件について事前に合意形成を行います。



3.外部リソースと共同でのプロジェクト遂行
前段の実行プロセスにおいて、外部リソースが選定され、共同プロジェクトにおける契約締結を終えた後は、実際のプロジェクト遂行のプロセスに入ります。ここでは、通常のプロジェクトマネジメントと同様に細かいフェーズごとのタスク・スケジュール・予算(コスト)・工数・品質などを管理してゆくことになりますが、この際に、自社企業側のタスクと、外部企業側のタスクをそれぞれ管理・実行しながら、双方の情報共有を行い歩調を合わせるマルチタスク的なプロジェクトマネジメントが欠かせません。この際のコミュニケーションの稚拙が、オープン・イノベーションの成功に大きな影響を与えます。


4.プロジェクト成果の社内への還元
オープン・イノベーションの最後の実行プロセスとして、遂行したプロジェクト成果の社内への還元があります。実際のプロジェクト自体は前段の実行プロセスで終了してはいるのですが、この内容を広く社内で共有することにより、オープン・イノベーションのノウハウや経験を社内に蓄積することができます。このノウハウや経験は、今後、別のテーマでオープン・イノベーションを実施する際の目に見えない無形のアセットとなり、総合的な事業遂行力の向上と、ひいては企業価値の向上に寄与することができるのです。


おわりに

以上、買収型オープン・イノベーションを4つの実行プロセスに分けて簡単に紹介させて頂きました。実際には、個別の状況に応じて柔軟にオープン・イノベーションを進めていくことになります。

今回はオープン・イノベーション時代のプロジェクトマネジメントについて、我々の支援事例をもとにお伝えさせて頂きました。次回もプロジェクトをテーマにお伝えさせて頂きます。

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木村 忠昭

東京大学大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。 2008年、株式会社アドライトを創業。経営・ファイナンス等における実践的プロフェッショナルサービスを展開している。

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