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インフレに対応して財務戦略を変えるべきだろうか?  ―企業経営のヒントvol.005

あがたグローバル税理士法人
公認会計士
井口 秀昭

安倍政権の登場により、外国為替市場は円安に振れ、株式市場も活況を呈しています。安倍政権の経済政策(「アベノミクス」と呼ばれています)の最大の眼目は「デフレ経済からの脱却」です。デフレをインフレに転換することは決して簡単なことではありませんが、安倍政権の目論見通り、転換できたと仮定したとき、それに応じて企業は財務戦略を変えるべきなのか、考えてみましょう。

インフレによる財務の変化

インフレとは厳密には一般物価の上昇のことで、土地や株式などの資産価格の上昇とは区別して論じなければなりませんが、ここでは議論を単純化するために、インフレ時にはたな卸資産や固定資産も含めて資産全体の価格が上昇すると考えます。

インフレとはモノの価格の上昇ですから、それに反比例してカネの価値は下がります。それを踏まえ、インフレに対応する財務戦略を考えると、以下のようなことがいえます。

まず、資産価格は上昇するといっても、資産の種類に応じて価格変化の状況は異なります。資産は、金融資産(カネの資産。ここでは、期日に額面金額での償還が約束されている資産を指し、株式は含みません)と実物資産(モノの資産。ここでは、回収価額が時価に応じて変動する資産を指し、株式はこちらに含みます)の2種類に大別できます。インフレになると、在庫、株式、土地といった実物資産の価値は上がりますから、預金、貸付金などの金融資産の価値は相対的に下がります。その結果、資産の中で実物資産の割合が高い会社ほど有利になります。

次に、負債には実物負債というようなものはなく、金融負債が主体になります。インフレになれば金融負債(借入金)の価値は下がります(負担が減少するといった方がわかりやすいかもしれません)から、借入金の多い会社ほど有利になります。

また、インフレでは過去から現在、将来に向けて、モノの価格は上がっていきますから、損益計算書上の利益にもプラスに働きます。売上は現在の価格で計上されるのに対し、売上原価は過去の低い価格で仕入れた在庫の価格が算入されるからです。

バブル戦略の再来か?

つまり、インフレになって有利なのは実物資産と金融負債の多い会社です。したがって、インフレ時には、借入金を借りて、在庫や固定資産などの実物資産をできるだけ早く購入することが得策になります。これは何も目新しいものではありません。そうです、かつての1980年代のバブル時代にもてはやされた財務戦略です。それと同時に、バブル崩壊後、企業に塗炭の苦しみを与えた財務戦略であることも忘れてはなりません。

バブル崩壊後の教訓から学べば、インフレになりそうだからといって、安易に借入金で資産を買うのは危険です。もし予期通りのインフレにならなければ、実物資産の価値が減少し、借入金の返済が困難になるからです。そのとき、企業は存亡の淵に立たされます。マクロ経済情勢を的確に見通すことなど誰にもできません。不確かな予想に基づいて、いたずらに借入金を増やすべきではありません。

ここで本稿のタイトル「インフレに対応して財務戦略を変えるべきだろうか?」に戻るのですが、インフレ予想に基づく財務戦略は極めてリスキーだから、採用すべきではない、というのがここでの結論です。

マクロ予想に基づく投機ではなく、ミクロ予想の投資

結論はしごく当たり前になってしまうのですが、企業は自分の会社が直面するミクロ情勢を的確に判断して企業戦略を立てるべきだということです。アベノミクスでマクロ経済情勢が好転し、その結果、自社の顧客の購入意欲が強くなり、現有資産では不足だと判断できるなら、借入金を借りて、在庫や固定資産投資をすべきですし、そうでなければ投資には慎重でなければなりません。自社から遊離したマクロ経済予想に基づく資産拡大は、投資ではなく投機に他なりません。

自分の目前のミクロの情勢認識も常に正しく把握できるわけではありませんが、それでも、マクロの経済情勢判断よりは確かなはずです。いつの時代でも企業に求められるのは、自分が相対する周囲の環境に対する正確な情勢判断であり、それに基づいた果断な投資なのです。

 

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あがたグローバル税理士法人
あがたグローバル税理士法人
井口 秀昭

東京大学経済学部卒業後、農林中央金庫、八十二銀行、タクトコンサルティングを経て、2007年に宮坂醸造株式会社の監査役に就任(現任)。2011年にあがたグローバル税理士法人に入社(現任)。

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