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大学とビジネスの「違い」と「可能性」 ―学術研究にITをはこぶ!ベンチャー企業の挑戦 vol.002

株式会社アクセライト
専務取締役
大下 知樹

前回に少々ふれましたが、弊社では純然たるIT系の仕事以外にも、主に大学の先生方からのご依頼で調査研究サポート(リサーチソリューション)を業務として行っています。我々の調査研究サポートは、主に保健・医療・福祉領域の調査研究を対象としており、具体的には調査研究の策定や調査票の作成、結果の解析と報告書の作成などにあたります。

これらの仕事内容は学術的色彩が濃く、それぞれの作業にはそれ相応の経験が必要とされます。我々はこのノウハウを弊社の強みと考えており、このノウハウをもとにITベンチャーの中での差別化を図り、ゆくゆくは自社製品の開発や販売をおこなう計画を立てています。

民間企業と大学とでは、ビジネス上の仕事内容やお付き合いの仕方はおのずと異なってくるわけですが、その違いはどこにあるのでしょうか。今回は両者の違いを、大学でのお仕事の話題を中心にご紹介させていただきます。

商談、雑談、あるいはそれ以外の何か

民間企業と大学の一番の違いは、空気感や時間の流れ方にあると感じています。

大学の先生方とお仕事をさせて頂くのはとても楽しいものです。先生方はお話好きの方が多いですし、知識も豊富であるため、話を聞いていて飽きることがありません。民間企業内の一般的な業務において、サイエンスの香りを感じられるシーンというのは稀なことですので、こういった時間は私にとっては知的好奇心を刺激される楽しいひとときです。

お話をしているだけで生きていくことができれば私にとっては何とも幸せなわけですが、当然ながら我々はビジネスをしなくてはなりません。先生方とのお付き合いは、良い意味でも悪い意味でもビジネスライクな関係になりにくい点に、注意が必要です。

先生方としては様々な関係者と情報交換をし、知識のアンテナを張っておくことは重要な仕事でしょうし、元来そういったことがお好きな方が多いように見受けられます。そういったわけで、お話が弾んでいるからと言ってビジネスには直結しないことも多いわけです。

私も半年ほど前に、とある会合でお知り合いになった先生と話が弾み、後日招待されてその方の研究室までお伺いし、実に3時間以上も楽しく歓談をさせていただき、特に具体的な仕事になりそうな話もなく帰ってきたことがありました。

こちらも企業の一員として足を運んでいる以上、直接的な成果に結びつかないような作業に多くの時間を費やすことには焦りを感じます。しかしこういった”仕事”をどう評価するかはそれほど単純な問題ではありません。たとえそれが直接的あるいは短期的には成果に直結しない話し合いであっても、様々な方面に情報のアンテナを張っておくことが後の仕事につながる投資であるという見方もあります。実際、その先生とお話をしたときに引っかかっていた情報が、半年を経た今になって、自社プロジェクトの萌芽になりつつあります。

成果を取るか、ゆとりを取るか

ここ十数年で急激に成果主義に傾倒してきた日本企業も、一度大きな方針転換を迫られてきているように感じます。日本人にはあまり成果主義は合わない、むしろ年功序列・終身雇用を保障し、従業員の帰属意識を高めることが企業成長につながるという従来的な考え方の温め直しが一部で行われています。これはゆとりを持つことの重要性が見直されているという風に捉えることができそうです。

一方で興味深いことに、大学では、2004年に国立大学が独立行政法人化し、各大学がより成果主義を強めなければ生き残れない体制に変わりつつあるという状況にあります。研究者が競うように論文を提出し、客観的な指標で自己の研究能力をアピールすることが求められる制度も、学術研究の場では決して古くからあったものではありません。

近年の世界的な景気低迷や、厳しいグローバリゼーションの中にあって、民間企業も大学も日々変化しています。この潮流は不可避なものですし、どんな場所であれ、そこに厳しさとゆとりが共存するような環境でなければ、そこで働く人の幸福と組織としての成果を両立することは難しいでしょう。しかし、考え、研究し、新たな知見を生み出すことが大学の使命のひとつであることを考えると、大学という場が民間企業に比べてゆとりの多い環境であることは自然です。

民間企業とも大学ともお仕事をさせて頂いているものとして、それぞれの風土の違いを感じながらも、短期的な成果のみではなく、いかにゆとりを持たせて長期的な成果を追うか。そのバランスをとることの大事さを感じます。

アウトソーシングに不向きな組織体系

次に、もう少々実務的な観点から見てみましょう。

大学を相手にお仕事をしていて頻繁に感じるのは、大学が相手の場合、民間企業と比べ、お仕事を計画的に進めるのが難しいという点です。民間企業ですと、窓口として対応する担当者の方は、プロジェクトに必要な要件、納期、予算等を固めていることが多いため、打ち合わせで交渉が必要なシーンがあるにしても、議論のたたき台はある程度できあがっているのが普通です。

しかし大学からお仕事を頂く場合は、お客様の要件がはっきりしていないというケースも多いものです。先生方の本来のお仕事は研究と教育であり、外注業者とのビジネス上のやりとりは当然専門外となります。お話を聞く中で、どうやらこのようなことで困っていそうであるとか、ではこういったサービスを導入してみたらどうか、というように、こちらからゼロベースでご提案をすることもしばしばです。

これは大学という組織が基本的に研究室毎に少人数の縦割りになっていることにも原因がありそうです。組織内で特定の業務をアウトソースする際に、それなりの規模の組織であれば、経験のある担当者を窓口にすることができます。民間企業であればそういったケースに対応すべく効率的に組織が形成されていることが多いでしょうが、大学の研究室ではそのような外部とのやりとりに効率的な組織体系にはなっていません。

大学にアウトソーシングは可能か

そして同時に感じるのは、大学にはそもそもアウトソーシングという発想が薄いのではないかということです。

経験のある方にはすぐに想像がつくと思いますが、特定の業務をアウトソースするという作業は、それほど簡単な仕事ではありません。業者やサービスの選定となると、価格やサービス内容、納期、完成度にはじまり、業者にどの程度のコンサルティング能力があるか、今後どの程度発展的なおつきあいができるのかなど、判断材料を挙げだすとキリがありません。一方で作業を内製化しようと思うと、大学の研究室には学生という手ごろで都合のいい”労働力”がいて、多くの雑務は彼らが片付ける運命にあるようです。ところが、雑務の一環として、経験のない学生が研究室のウェブサイトを作成していたりするケースは多く、それは研究室の情報を世に公知するという観点からは、あまり賢い選択とは思えません。

そして、専門性を要求されるような簡単ではない仕事をアウトソースする場合は、またそれとは違った問題があるようです。実際にお聞きした例ですが、調査で得られたデータを分析するためにプログラムを作成する必要あり、いざアウトソースしてみたものの、業者が研究の意図を十分にくみ取れていなかったため、納品物が使い物にならず、結局学生がプログラミングを学びゼロからプログラムを組み直したということがあったそうです。

研究現場にITを導入するには

研究の場に効果的なITの導入が求められていることは間違いないでしょう。しかし、ITは正しく用いられてこそ成果をあげます。研究の背景を十分に理解することなしにITを導入することはできません。結局のところそこに王道はなく、必要とされるものは、ITそのものを常に追い続けると同時に、研究対象に対し学問的な理解や愛を深めること、すなわち、研究活動そのものなのではないでしょうか。

我々は現在、保健・医療・福祉分野における調査研究を中心に、ITの導入等で研究のお手伝いをしているという実績がありますし、そういった業務を通じて自らの知的好奇心を刺激されることに楽しみを見出しています。我々に作業をアウトソースすることにより、先生方が、専門外の作業に時間を取られることなく研究に集中することができ、新たな知見を獲得するお手伝いができれば、我々にとってこれ以上の喜びはありません。


我々は”知とITの融合”をテーマに業務を行っています。今回は大学での話が中心でしたが、我々は大学のみならず、民間企業へも付加価値をご提供できるようサービスを検討しています。そうした場合、我々が専門としているIT自体への洞察を欠かすことはできません。そこで、次回はITの現在と未来について我々の考えをご紹介したいと思います。


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株式会社アクセライト
株式会社アクセライト
大下 知樹

独学でC、C++, Javaを学び開発経験をスタートさせ、ベンダー勤務、フリーランスを経て、2010年11月に株式会社アクセライトを創業。現在は同社の専務取締役を務める。