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ITが生み出す価値 ―学術研究にITをはこぶ!ベンチャー企業の挑戦 vol.003

株式会社アクセライト
専務取締役
大下 知樹

私どもは、学術的な営みとITを融合して新たな価値を創出するという目標を持っています。

しかしITを生業としているか否かに関わらず、そして法人、個人に関わらず、現代社会で仕事をする限りITというものを避けて通るわけにはいきません。

それでは、ITとはいったいどのようなものなのでしょうか。
そして現状、ITはどのようにあり、今後どのように変化していくのでしょうか。

―Past― ITが果たしてきたこと

今更確認するまでもないことですが、ここ数十年は、飛躍的にITが発展し、生活も一変してきました。

テレビや音楽プレーヤーなど多くの電化製品には、内部的に組み込みOSが走っていますし、自動車の内部では、様々な箇所において機械的な制御から電子制御に進化しています。

我々の生活に変化を与えてきたのは、何も自宅で気軽にインターネットができるようになったことだけにとどまりません。

今では当たり前になった銀行のATMや日本中をつなぐ迅速な宅配システムも、全てはIT を前提に成立しています。インターネットの普及や携帯電話の進化など、消費者の視点からでもITを感じることのできるようになったのはここ十数年ですが、それより以前から、ITは社会に対して大きなインパクトを与え続けてきたわけです。

そうした中で、ITは、ハードウェアのハイパフォーマンス化、様々な規格の標準化、情報のオープン化等、多くの進化を遂げてきました。

これらについて、簡単に事例をご紹介してみたいと思います。

―Case1― ハードウェアのハイパフォーマンス化

ハードウェアのパフォーマンスの進化は、間違いなくITの進化の代表格といえます。

例えば最近流行りのSSDは、記憶容量がここ数年で飛躍的に向上し、パソコンの主記憶装置としても十分実用レベルに達しつつあります。

またスマートフォンは旧来のフィーチャーフォン(俗に言う『ガラケー』)と比べ、はるかにハイスペックでありながらも、ほとんど価格を変えることなく市場に登場しました。

身近なコンピュータ機器を少し観察してみるだけで、そのようなめまぐるしい進化を感じ取ることができるでしょう。

インターネットが全世界的に爆発的に普及したことの背景には、TCP/IPというインターネットのプロトコルが整備されたことがあるわけですが、同時にハードウェアの価格が下がり、世界に多くのコンピュータが出荷されたことも大きな要因であったと思われます。

―Case2― 規格の標準化

そして規格の標準化は非常に興味深いテーマです。

システム業界を例に考えてみましょう。

かつてシステムといえば、オフコンと呼ばれる、専用の(規格の統一されていない)ハードウェアやOS上で動くカスタムメイドなソフトウェアでした。当時は設計・開発の全てがベンダー企業の内部で行われており、技術者はまさにその企業に特化した専門職であったはずです。

ところがインターネットの普及、そして大げさに言えば、人類の学習により、ハードウェアからあらゆるレベルのソフトウェアにおいて、規格の標準化が行われるようになりました。

今やシステムは多くの人が日常的に使うウェブブラウザで動作するのが当たり前となりつつあります。ユーザにとって、専用のソフトウェアをインストールする手間が省けるのは喜ばしいことですし、開発者にとっても自分の開発したソフトウェアが異なるプラットフォームで動作することは歓迎すべき状況です。

インターネット、ウェブブラウザを通じてショッピングや動画鑑賞を楽しむことができるのも、HTTPというプロトコルが整備されている恩恵ですし、OSもハードウェアも異なるコンピュータが互いに通信し、巨大なインターネット網として成立しているのは、通信規格の標準化の恩恵です。

―Case3― 情報のオープン化

規格の標準化や、インターネットの普及に伴い、開発者がオープンソースソフトウェアを利用し、ユーザがそのようなソフトウェアを用いたサービスを享受する場面は増えてきました。

オープンソースソフトウェアは誰もがソースコードを自由に入手し、利用できるソフトウェアで、様々なところで利用されています。ウェブブラウザではFirefox、OSではLinux、開発環境のEclipseあたりが、オープンソースの代表例としてあげられます。インターネットを利用する人ならば、直接的あるいは間接的に、毎日オープンソースソフトウェアの恩恵を受けて生活しているといっても過言ではありません。

また、プログラムのソースコードは開示していなくても、サービスを提供する組織が、そのサービスを利用するためのAPIを開示するケースは増えています。Twitter社が公開しているAPIを利用すれば、所有しているサイトやスマートフォンアプリに、最新のつぶやきを表示する機能を組み込むことも自在です。iPhoneアプリの開発も、Apple社が公開しているAPIを利用して行います。

サービス提供者がAPIを公開することで、多くの開発者が無料あるいは安価にてプラットフォームの利用でき、結果としてプラットフォームのシェアが広がるというのは、ここ数年に台頭した新しいビジネスモデルです。

かつて、ファミリーコンピュータのようなコンシューマ向けのゲーム機のソフトを開発するには、開発環境を整え、ソフトの審査の申請をするために多大なコストを必要としました。ところが、現在iPhoneやAndroidのアプリを開発するには普段利用しているコンピュータ以外にほとんど費用がかかりません。

このようにソフトウェア開発事業への参入障壁がなくなりつつあるのは、ユーザにとっても開発者にとっても喜ばしい状況のはずです。

―Present― 大きな分岐点

ところが、これらの状況が必ずしもすべての開発者にとって喜ばしいかというとそうではないようです。

かつてIT技術者といえば、特権的、専門的な技術職でした。体力のあるベンダーが教育コストをかけて技術者を養成し、彼らが良い製品をつくる。それができない企業がIT業界に参入することは困難でした。

しかし業界への参入障壁が圧倒的に下がったことで、多くのベンチャー企業が台頭し、いまや個人がウェブサービスやスマートフォンアプリを提供するケースも珍しくありません。

そしてそのような事態が成立しているのは、ITが必ずしも正攻法の教育で綺麗に学べるような類のものではないという特殊な事情が背景にあると考えています。

これは順当な教育を得意とする大手企業には逆風であるかもしれません。

現に、近年ではIT技術者の専門性の低下と、労働条件の悪化が重なり、IT業界は就職活動中の学生からも非常に不人気な業界と成り下がっています。

これは、同じ業界に携わるものとして、悲しく感じる点ではありますが、IT業界は今後も暗い業界となってしまうのでしょうか。


私はそのようには思いません。

―Why― ITは何のために存在するか

そもそもITが何のために存在しているのかを考えてみると、少しは楽観できるかもしれません。(不思議なことに、このことはあまり議論されることがありません)

少々思い切って単純化してしまうと、コンピュータにできることは数値の計算にすぎません。たとえば11と23を足すと34になるといった計算ができるだけです。このように言うと電卓を思い浮かべる人も多いと思いますが、それもそのはずで、コンピュータは漢字では電子計算機と表記しますし、電卓は電子卓上計算機の略語です。

ただし、コンピュータはその単純な計算を、驚くべき正確さと速さで実行します。

―単純だけど正確で速い。

この性質だけをもってして、コンピュータが、これほど我々の生活に大きなインパクトを与えているのは驚くべきことです。そして、その結果としてコンピュータが持つ役割は人間との関わりという観点から以下の二点に集約されると考えています。

・省力化…人間のできることをより簡単にする。
 例: 計算機、スケジュール管理ソフト、商業用レジ、業務システム、銀行ATMなど 

・超人化…人間のできないことをできるようにする。
 例: コンピュータゲーム、コンピュータシミュレーション、マルチメディアの録音・再生など

もちろん、近年はやりのSNSのように、どちらの役割も果たしているソフトウェアやサービスも存在します。

例えばSNSの代表格であるFacebookでいえば、友達と手軽に連絡を取りあえるという点で省力化の機能を持ち、それと同時に、今友達が何をやっているかなど、既存の生活では決して追うことのできないリアルタイムの情報を得ることができるという超人化の機能を持っていると言えます。

―Future― IT業界のすべきこと

このように考えると、IT業界の課題は未だに山積していることがクリアになったと感じます。

―普段生活していて面倒なことはありませんか?

私にはあります。

朝起きて歯を磨くのも面倒ですし、生活必需品を店頭まで行って購入するのも全くもって面倒で楽しくない作業です。あまり例を挙げすぎると人格が疑われそうなので自重しますが、これらの全ての行動は、そこに楽しさや創造性を感じない、あるいは感じられないからこそ面倒だと思う訳であり、そういった「仕事」は全てITが解決してくれることを望んでいます。

―そして、自分にはできないけれど、ITに叶えてもらいたいことはありませんか?

私にはあります。

複雑なゲームが苦手な私は、テトリスくらいシンプルで一生飽きずに楽しめるゲームに出会いたいと考えています。

日々無くなっていく靴下の片割れが一体どこに消えているのか知りたいと思ったことはありませんか?

もっと大きな話で言えば、世界中を自由に旅がしたいし、より多くの人とコミュニケーションを取りたいと思っています。(そういった意味で、私にとってGoogleマップの提供するサービスはまさに夢に近いものです。)

まだまだITがやるべきこと、ITにやってほしいことが沢山あります。

そうであれば、それを叶えるために、IT業界には、休んでいる暇はないはずです。

―Future― では実際に何ができるのか

間違った話をしているつもりは毛頭ないのですが、少々話が大きくなりすぎました。

それでは、当面IT業界は何をすべきでしょうか。

やはりベンチャーとしていつかは大きいことを成し得たいとは思いつつも、常にイノベーションのみを追求する余裕はありません。現実問題としてビジネスを回すような業務に取り組まねばなりません。

そういった意味で、大きなイノベーションを起こす以外の、当面現実的なビジネスプランを考える必要がありそうです。先ほど挙げた省力化は、日々の業務をつくる上で重要な観点です。

省力化できそうだが省力化できていないことはITとしてビジネスになりますし、ITで省力化できないこと、できそうにないことは、そっくりそのまま人間がやるべき業務です。

インターネットの普及、通信規格の標準化により、コンピュータとコンピュータの間の通信技術は目覚ましい進化を遂げました。クライアントソフトウェアとサーバソフトウェアを通信させるために、プログラマが多大な労力を要することはありません。コンピュータ間の通信に必要なソフトウェアやライブラリはすでに十分整備されています。そして、一度整備されたものには、軽微な修正こそあれ、二度と同じような開発をする手間を費やす必要も余地もありません。

しかし、人とコンピュータをつなぐには、まだまだ人間が介在する必要を感じます。

多くの人が、ITを有効につかうことで幸せになることは間違いないでしょう。けれども、それほど多くの人がITに明るいわけではありません。そして、ITに明るいか否かとは別次元の問題として、自分のニーズを正しく把握することも決して簡単なことではありません。

そうである以上、顧客と話し、そこにあるニーズをつかみ、最適なITサービスを提供することは、IT企業がまだ何年ものあいだ提供しうる素晴らしい付加価値です。


そして、これは意見の分かれるところかもしれませんが、顧客のニーズにあったソフトウェアの受託開発も、すたれ気味であるとはいえ、なくなることはないでしょう。そして、結果としてできたソフトウェアには常にメンテナンスが必要です。

汎用性の高いソフトウェアが支配的になったとしても、汎用性の高さはカスタマイズの必要性を伴うでしょうし、カスタマイズ作業は自動で行うことは難しいので、やはりそこには専門家が必要です。

また、世にいかに優秀なオープンソースソフトウェアがあふれたとしても、サーバ側でソフトウェアを稼働させてサービスを提供する(SaaS)には、ハードウェア管理、顧客対応をする人間が常に必要です。

―Present― 脅威とたたかう

IT業界には脅威が存在します。

・自分あるいは自社のもっている技術はすたれるのではないか。
・すでにこの世に同じようなソフトウェアがあるのではないか。
・オフショア開発で開発案件はどんどん国外に流れている。いつか国内の開発案件はなくなるのではないか。

いずれの脅威に対しても、以下のようなスタンスさえあれば、それらが生み出す恐怖と対抗していけると考えています。

・技術を磨き、誰もやっていないことを目指すこと
・コンピュータにはない”人間力”を用いた付加価値の提供を目指すこと

高い独創性、高い技術力が必要で、かつ実現の望まれるサービスは、まだまだ山積しています。こちらの道は厳しいかもしれない。でも、そこに大きな夢が描けるならば一度きりの人生をかけてみるのも面白いでしょう。

人間力も、いつかは人工知能に凌駕される時代が来るかもしれません。しかし、私の感じる限り、そんな時代はまだまだ先のことです。

―そうしていろいろやってみて、それでも仕事がなくなったらどうしよう。

大丈夫。
そのときは多分、自分が働かなくても、コンピュータが全てのことをやってくれはず。

IT業界にはきっと明るい未来が待っている。

これは私の願望であり、同時に確信でもあります。

 

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株式会社アクセライト
大下 知樹

独学でC、C++, Javaを学び開発経験をスタートさせ、ベンダー勤務、フリーランスを経て、2010年11月に株式会社アクセライトを創業。現在は同社の専務取締役を務める。