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「資本政策」のシミュレーションを行なう上で重要な5つのポイント  ―後戻りできない!上場における資本政策の重要ポイント vol.001

朝日ビジネスソリューション株式会社
代表取締役 公認会計士
蜂屋 浩一

株式上場における資本政策とは、現状の株主構成をスタートとして上場までの資本構成がどのように推移していくのかのシミュレーションを行い、適正な資本戦略についての考え方をまとめることをいいます。具体的には、次のような要素の組み合わせに関するシミュレーションを実施することになります。

(1) 上場までに調達しなければならない資金の額と時期
(2) 上場までの株価の推移
(3) 安定株主対策
(4) 上場時のキャピタルゲイン
(5) 役員・従業員に対する福利厚生・インセンティブ・プラン

よく言われることですが、資本政策は後戻りできません。事前によくシミュレーションを重ねて、最適と思われる計画を策定する必要があります。また、資本政策は単なる数字の組み合わせではなく、事業計画・税制・各種規制等を総合的に取り込み、かつ既存株主や投資家の思惑をも考慮する必要があります。このため、資本政策に関しては資本に対して利害関係のない専門家に相談するのがよいでしょう。

資本政策を立案するにあたってまずグランドデザインを描くことになりますが、その際にあらかじめ考えておかなければならない重要なポイントがあります。そのポイントをひとつひとつご紹介していきます。

ポイント1 ~上場までに調達しなければならない資金の額と時期

上場以後は公募増資により株式市場から広く直接資金調達することができますが、上場前は銀行借入れ等の間接金融を中心としながら第三者割当増資等により特定の投資家からも資金調達を行います。これに関して次の点を検討しなければなりません。

  • 上場までの各事業年度に調達しなければならない資金はいくらか?
  • その資金のうち銀行借入等でまかなうことのできる金額はいくらか?
  • まかないきれない金額を第三者割当増資により調達する場合、増資を引き受けてくれる個人・法人はあるか?


各事業年度にどれだけの資金が必要かどうかは中期事業計画を作成しないと明確になりません。このため資本政策と事業計画は一体として考えるべきなのです。事業計画が甘いため、上場前に資金が足りなくなってしまい追加で増資をしたため計画していた安定株主のシェアを確保できなくなってしまったり、逆に資金がダブついてしまったりと、せっかく作成した資本政策が無意味になってしまうことがあります。

また、出資者からみれば上場前の会社に出資するということは、相当のリスクを前提とした上でそれ以上のリターンを目論んでいるのでしょうから、経営に口出ししてきたり、長期的な戦略よりも早期に上場することを求めてきたりということも有り得ます。会社からみれば返済しなくてもよい資金ですから非常に都合がよいのですが、返さなくてもよいということはそれなりの代償も伴う可能性があるということは考えておく必要があります。

ポイント2 ~上場までの株価の推移

上場前に第三者割当増資を実施したり、他者に株式を譲渡したり、あるいはストックオプションを発行したりする場合に、当該取引時の株価(時価)が問題となります。株価は会社の価値を表すものですから、上場に向けて利益水準が右肩上がりの成長をしている会社の株価は一般的には右肩上がりで高くなっていくはずです。資本政策上も一般的には上場時期が近づくほど取引株価が高くなるという前提をおく必要があります。

会社の立場から言えば、安定株主対策のための増資や従業員の福利厚生のための従業員持株会に対する増資においては株価が安ければ安い方が良いでしょうし、取引先やベンチャーキャピタル等に対する増資といった外部調達は株価が高ければ高いほど良いでしょう。しかし、外部調達先もあまり出資株価が高すぎると投資利回りが低くなり出資を躊躇してしまい、思ったような資金調達ができなくなってしまうかもしれません。右肩上がりの株価の前提の中で最適な株価シミュレーションを行う必要があります。

ポイント3 ~安定株主対策

株式会社においては「一定の株式シェア」を保有することにより安定的な経営を行うことができます。この「一定の株式シェア」を保有するグループを決めるのが安定株主対策です。社長が100%株式保有するのが最も安定的ですが、上場前に外部からの資金調達を行えばそのシェアは当然に下がってきます。上場前の資金調達と安定株主割合のバランスをどのようにとるかが資本政策のメインテーマとも言えます。

ポイント4 ~上場時のキャピタルゲイン

創業者をはじめとする上場前からの株主は、上場時の売出しや上場後の売却等によりキャピタルゲインを得ることができます。創業者は、このキャピタルゲインにより上場までの投資のための借金を返済し、さらに創業者利潤を得ることにより長年の苦労が報われることになります。経営者は上場後に市場で自社株売却をすることはインサイダー取引規制の関係もありなかなか難しく、上場時がキャピタルゲインの数少ないチャンスのひとつとなります。

ポイント5 ~役員・従業員に対するインセンティブ・プラン

自社株を用いたインセンティブプランとしては従業員持株会、ストックオプションがあります。従業員持株会は毎月の給与から拠出金を天引きして積み立てることになり、従業員から見ると少しずつ財産形成をすることができます。従業員持株会は対象を従業員のみとしますので退職する場合や役員に昇格する場合には退会することになります。

また、従業員持株会は従業員で規約上の要件を満たす者は一律に入会することができます。このように一定の公平性の中で与えられる権利ですので、どちらかというと福利厚生としての要素が強いということができます。

一方、ストックオプションは上場後にたとえば現在の時価で株式を取得する権利を与えるもので、従業員や役員だけでなく、オーナーや外部関係者にも付与することができます。また取得者は上場後に権利行使するまでは金銭的負担が一切ありません。従業員や役員からみると、うまくいけばリスクゼロで大きなキャピタルゲインを得る可能性があります。

一般的に従業員や役員に付与する場合、中途退職時には権利を失う旨を規定します。ストックオプションは特定の従業員や役員に公平性を無視して自由に与えることができます。

このため、誰にどれくらい与えるのかを考えなければいけませんが、経営者にとってはせっかくの経営上の武器ですから有効に使いたいものです。ストックオプションを与えることにより売上高増大や株式上場達成に寄与する可能性のある人に与えるというのもひとつの考え方です。

また、一人当たりどれくらい付与すべきなのかという点についてもさまざまな考え方がありますが、億万長者になった従業員はその時点で働くインセンティブがなくなってしまうかもしれません。目安としては「住宅取得の頭金になるくらい」が適当なのかもしれません。

次回は安定株主対策について解説します

いかがでしたでしょうか?繰り返し申し上げますが、資本政策は後戻りができません。事業計画・税制・各種規制等を総合的に取り込み、かつ既存株主や投資家の思惑をも考慮する必要がありますので、企業設立の早い段階から、経験の豊富な専門家に相談するのがよいと思われます。

さて、次回コラムでは、前述のポイント3でご紹介した「安定株主対策」について、よりポイントを絞って解説を致します。

上場後はもちろん、上場前であっても外部資金を調達する場合には安定株主を確保しておかないと経営者が思う通りの経営ができないばかりか、場合によっては会社を乗っ取られてしまうこともあります。よって、安定株主対策は資本政策を考える際の最も重要なテーマのひとつであると考えられます。

次回もどうぞご期待ください。


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朝日ビジネスソリューション株式会社
朝日ビジネスソリューション株式会社
蜂屋 浩一

2002年朝日税理士法人立ち上げに参画。上場企業から中堅・中小企業まで幅広くサービスを提供している。税務・会計、組織再編、株式上場支援、事業承継など幅広いジャンルのコンサルティングで活躍中。