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「粉飾決算の代償」~嘘をつくより、ほらを吹け~  ―企業経営のヒントvol.006

あがたグローバル税理士法人
公認会計士
井口 秀昭

銀行などの債権者は決算書を見て融資の可否を決め、投資家は決算書から会社の株式価格の妥当性を検証し株式の売買を行います。無論、決算書だけで判断するわけではありませんが、決算書が企業の信用判断の最大の拠り所となることは間違いなく、決算書は経済取引の中核に位置しています。決算書が正確でなければ経済は円滑に回りません。だからこそ、決算書を偽る粉飾決算は重大な経済犯罪として、刑事罰が課せられます。それでも粉飾決算は後を絶ちません。

決算書は会社の事業成績を表示しており、その点では学校の成績表に似ています。ただ、決算書と成績表の最大の相違点はその作成者にあります。決算書は成績表のように第三者である先生が作成するのではなく、事業を行った企業の経営者自身が作成します。自分で自分の成績表を作るのですから、手を加えて少しでも良好な事業結果を表示し、自分の能力を誇示したいと思うのは人情です。しかし、その情に流されるのは危険です。粉飾決算に手を染めることにより経営者が払う代償は余りにも大きく、粉飾は割に合わない犯罪です。

正しい財務報告が受託責任を解除する

決算書の第一の目的は経営者の株主に対する財産の運用報告にあります。経営者は株主から株主財産を預かり、株主財産を増加させるために会社を経営します。

会社は経営者のものではなく、経営者は株主の財産を一時的に預かっているに過ぎません。経営者は預かった財産を活用して事業を行うのですから、本来の所有者である株主に会社の財産状況を報告しなければなりません。それが決算書です。株主から預かった財産の運用報告(事業の経営成績)を株主に正しく報告することにより、経営者は株主財産の受託責任を解除されます。

経営成績が悪く赤字を出し、株主財産を毀損すれば、株主からは叱責を受け、経営者として無能だという烙印を押され、場合によっては経営者の立場を解かれるかもしれません。しかし、それ以上の責任を追及されることはありません。株主財産を毀損したのは煎じ詰めればそうした無能な経営者を選び、その経営者に自分の財産の運用を任せた株主の責任でもあるからです。

人の財産を預かり運用する受託責任は重い。経営者にとってはその受託責任から解放されることが重要です。解放の最大のツールが財産報告としての決算書なのです。ただ、それは財産報告が正しいことによって初めて達成されます。故意に誤った財産報告を行えば、受託責任は解除されません。いつまでも株主に対する重い責任を負い続けなければならないのです。

株主である他人の財産を預かり、その財産を減少させるような悪い経営成績を正直に報告すれば、経営者の地位を追われるかもしれません。それは確かに経営者にとって、望ましいこととはいえないでしょう。しかし、悪い経営成績を粉飾により糊塗して、現在の地位を維持し、虚偽で塗り固められた受託責任を負い続け、常にびくびくするよりはるかに安心できるはずです。

将来予想に対する判断材料としての決算書

次に資金提供者に対する責任といった観点からの決算書の役割を考えてみましょう。

資金提供者には株主と債権者がいます。資金提供者としては、提供した資金が回収できる見込みが無ければ、資金提供を続けることができません。回収できるかどうかは、会社の将来像をどう描けるかがポイントになります。その最大の判断材料が決算書になります。

決算書はこれまでの経営実績であり、この経営実績を基に将来の予想図を描きます。「将来、この会社はこんなバラ色の未来があるのだから、今、会社に資金を投下しても損はありませんよ」と訴えるのです。決算書に示される現在までの実績が赤字や債務超過なのに、「将来になれば会社は立派に成長します」といくら説いても説得力はないかもしれません。そこで、決算書を粉飾して現在までの実績を糊塗しようとします。発射台のベースを高くすれば、将来像が説得力を増すからです。そこに粉飾の誘引が潜みます。しかし、それで当面、会社は存続できても、資金提供者をだまして資金供給を受けたのですから、資金回収ができないときは厳しく断罪されます。

人をだますか、夢を語るか

決算書を粉飾するのは嘘つきです。嘘のある決算書をベースにすれば、将来像を論理的に語ることはできます。しかし、嘘つきは嘘をついた側の責任になります。

一方、正直な実績の悪い決算書をベースに、将来のバラ色の夢を語るのは、嘘つきではなくほら吹きです。ほらを信じて資金を提供して、資金提供者が損をしても、その責任はほらを吹いた方ではなく、ほらを信じた資金提供者にあります。嘘つきは犯罪ですが、ほら吹きは単に口がうまいだけで、犯罪ではありません。

嘘つきもほら吹きも、語る将来像が虚構であることには変わりがありません。しかし、責任の所在が決定的に違います。できることなら、嘘つきにもほら吹きにもなりたくはありません。ただ、万策尽き、どちらかを選択しろと言われれば、人をだまし犯罪となる嘘つきよりも、荒唐無稽な夢を語る罪のないほら吹きの方がましでしょう。

図:粉飾(嘘つき)なのか、ほら吹きなのか



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あがたグローバル税理士法人
あがたグローバル税理士法人
井口 秀昭

東京大学経済学部卒業後、農林中央金庫、八十二銀行、タクトコンサルティングを経て、2007年に宮坂醸造株式会社の監査役に就任(現任)。2011年にあがたグローバル税理士法人に入社(現任)。

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